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左利きのメモ魔が綴る名もなき日常

【報道特集】放送法を考える〜テレビから消えたキャスター〜


報道特集放送法を特集していたのでメモしておこうと思います。
会見の内容については総務省の議事録から引用します。

放送法を考える | 報道特集 : TBSテレビ
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冒頭、金平キャスターは一連の発言に対して見解の撤回、修正・補足があるかどうか質問しました。

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高市大臣は発言の撤回に関してはないと回答。

総務省|高市総務大臣閣議後記者会見の概要(平成28年3月4日)
問: ありがとうございます。そうすると確認ですが、私がお聞きしたのは現時点で発言を撤回あるいは修正するお考えはないかということですが、ないということですか。
答: 発言で撤回すべき部分の発言を具体的におっしゃっていただければと思います。
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放送は情報及び教育の手段並びに国民文化の媒体として至大な影響があるので
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放送をいかなる政党政府
いかなる政府の団体
個人からも支配されない
自由独立なものとしなければならない
問: 今、行政の継続性ということをおっしゃっていたので、国会で今までおっしゃっていたことを今もおっしゃっていたので、放送法の成立に当たりまして、総務省の、あるいは郵政省の前身である旧逓信省ですね、逓信省が法律を作る時に、放送法質疑応答録案という、1948年のものですが、ここに大変、放送法の精神について語った部分が非常に明確に書かれているので、ちょっとだけ読み上げます。「放送番組に政府が干渉すると放送が政府の御用機関になり、戦争中のような恐るべき結果を生ずる。健全な民主主義の発展のためにはどうしても放送番組を自由にしなければならない等々」と書かれておるのですが、こういう放送法の精神にも、今おっしゃっていた大臣の答弁というのは合致していると考えてよろしいのでしょうか。 
答: 放送法は、平成22年に本当に抜本的な非常に大きな改正がございました。放送法の逐条解説というものは、私たちが国会に対して、国民の代表の皆様が集まる国権の最高機関に対して、答弁をする時に大いに参考にするものでございます。
 そして、先ほど申し上げましたように、放送業務停止命令の第174条というものも先般の改正までは入っていなかったものでございます。
 内閣は、日本国憲法第5章において、「行政権の主体」としての地位を認められ、そして、議院内閣制の国でございます。そういった中で、内閣は、憲法第73条に従いまして、「法律の誠実な執行」ということも業務の中に入ってございます。
 もちろん放送法第174条ですとか、電波法第76条の運用については、これは本当に極端な場合において、しかも相当慎重に行わなければならないということは、私自身も国会で答弁をさせていただいております。
 冒頭、御指摘いただきました2月8日の衆議院予算委員会での発言ですけれども、あれは民主党奥野総一郎先生から、「放送法の第174条の業務停止や電波法第76条については、こうした第4条の違反については使わないということで、今、もう一度明確に御発言いただきたいのですが」という御質問をいただきましたものですから、どんなに放送事業者が極端なことをされても、そしてそれを繰り返されても、全くそれに対して何の対応もしないということを、ここでお約束するわけにはいきませんと、私自身の時には、そういうことはないだろうとしても、将来の大臣にわたってまで、一切、実際に法律にある条文の適用があり得ないということについてまで、私が約束をするというのは筋の違う話だろうと考えましたので、「お約束するわけにはまいりません」と答えたものでございます。
 すぐに何か、この第4条の番組準則に違反されたかと思われるようなケースがあったとしても、すぐさま放送法第174条や電波法第76条を適用するということがないことは、皆さんも御承知でしょう。先ほど申し上げましたような、非常に厳しい、また限定的な場合において検討される可能性のあることでございますので。そして、また、今まで適用された事例もございませんので、そういう意味では2月8日の答弁、9日の答弁、15日の答弁と、順次答弁をしてまいりましたけれども、私が申し上げました答弁は、あくまでも放送法逐条解説に基づくものであり、22年の法改正後のものでもあり、行政の継続性ということを考えまして、前政権の答弁を忠実に国会で申し上げた、こういったことであると存じます。
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こうした政府の見解に対して立憲デモクラシーの会が違憲表明を示しました。
金平キャスターはこれを踏まえて質問を続けます。
問: 今、法律の誠実な執行ということについて申し上げられた、答弁されておられたので、1点だけまた追加ですが、憲法学者が先に申した、いろいろな会見の場でこういうことを言っています。著名な憲法学者樋口陽一さんですが、「何人も自分自身が関わっている事柄について、裁判官になってはならない。これが自由民主主義社会の基本原則」。これは政治的公平性について、政治家自身が判断することのいろいろな問題点について指摘しているというふうに思うのですが、この意見についての大臣の御見解を。
答: 放送法第174条にいたしましても、電波法第76条にいたしましても、「総務大臣は」というのが主語になっております。
 御承知のとおり、第174条は新たに平成22年に追加された条文でございますけれども、この放送業務停止命令も「総務大臣は」というのが主語になっております。
 また、電波法は昭和25年の法律でありますが、こちらも「総務大臣は」というのが主語になっております。
 しかし、両方とも適用された事例はなく、そして行政執行の現場ということを考えますと、現在の総務省の体制の中で何か政権を批判したからとか、そういったことで処分・命令というものが行われるというような不公平なことはないと考えておりますし、私自身も、今まで放送事業者が政権批判をしたというようなことに対して、総務大臣としてコメントを申し上げたことはございません。
 行政というものは、継続していくものです。私自身が総務大臣でなくなったら別の大臣が来られますが、憲法に従って、内閣というのが行政執行の主体である、行政権の主体であるという状況、また、議院内閣制ということを考えますと、多くの法律で「大臣は」というのが主語になっているというのは、それぞれの大臣が所管する業務について責任を持って判断をしていくといった趣旨だと考えております。
 しかし、そこに自分が所属する政党が有利か不利かといった、恣意的な判断は絶対に入ってはいけない。これは、私自身が今は国会議員でもありますけれども、総務省という役所の業務に責任を持たなければいけない行政府側の一員として、私自身が矜持としていることでございます。
会見では東電会見でもお馴染みの上出記者も質問してました。
問: フリーランス記者の上出です。実は同じ質問をさせていただこうと思いましたら大御所の方が隣におられたので、私はちょっと、補足でお伺いします。
金平さんたちの、29日の後に、3月2日、金平さんがおっしゃったように、樋口陽一さんなんかが抗議の見解を発表しています。その中で、これをちょっとお聞きしたいのですけれども、放送法第4条、おっしゃったとおりで、いろんなことを言っているのですが、実際に樋口さんが言っておられるのは、いろんな、多様な立場を紹介した上で、特定の立場を放送事業者が支持することは当然あり得ると。これを否定することは憲法21条違反である以前に、放送法の解釈として誤りを犯していると言っております。
これは、大臣がこれまで、番組全体を見てという判断から、個別の番組にも踏み込んでということが強調されているのだというふうに皆さん捉えて、実際に金平さんの記者会見の時にもいろいろ披露されましたけど、放送現場で現実に萎縮が起きていると。いわゆる、そこで、高市大臣の発言は恫喝ではないのかという、そういうことが起きていると思うのですね。いま言った、樋口陽一さんなどが言った見解、特定の立場を支持したりすることは当然ある。これは、そのとおりだと思われますでしょうか。おかしいと思われますでしょうか。
答: 私も「報道特集」をたびたび拝見しております。大変参考にさせていただいております。1つの時間の枠の中で、今日はこのテーマを特集するよと、特に特集をされるような番組の場合に、限られた時間の中で色々な意見がある場合に全ての意見を紹介するというのは、現実的に難しいと思います。
 1つの問題意識に従って、それを掘り下げていかれるという場合、これは当然にあると思います。ですから、これまでも「放送番組全体として」ということで、特に放送法第4条、様々な規定はあります。公安や秩序といったものもあれば、正確な報道というものもあり、政治的な公平性、それから意見が対立している問題の場合に、様々な意見をできるだけ紹介するといった趣旨でもあるのだろうと思いますが、1つの本当に限られた時間の中で何もかも紹介する、これでは何を報道したいのか分からなくなってしまいますから、そういう意味で、「番組全体として判断する」という、これまでの解釈を変更したものではございません。
 ただ、番組全体を見るとしても、やはり1つ1つの番組の集合体でございますから、1つの番組を見るときに第4条との兼ね合いにおいて、どういう視点で考えたらいいのかということで、「政府統一見解」で示させていただいた事例というのは、実に極端な場合を一般論として挙げさせていただきました。
 しかしながら、放送事業者の皆様でしたらもう十分御承知のとおり、あそこで挙げたような極端な事例、それを放送してしまうと、視聴者であったり、また、スポンサーの方々であったり、色々な方がお困りになってしまうということだと思います。
 ですから、放送法の精神というのは、放送事業者がまずは自ら放送法を遵守していただくと。で、番組の編集を自律的に行っていただくことになるのだろうと思っております。
 私自身が、冒頭にも申し上げましたが、「電波を停止する」と言ったことはございません。将来に渡ってこれが決してないのかとか、現行法にある条文が全く無効なのか、こういう趣旨の御質問だと考えましたので、それを未来永劫、放送法第174条も、電波法第76条も、未来永劫適用されることもないし、無効ですというようなことを、法治国家である日本において、現行法に従って行政を執行しなければならない総務大臣が申し上げることのほうが、問題が大きいというのが発言の趣旨でございます。
 「萎縮につながるのか」というお話でございましたけれども、私自身も「放送事業者の方々が、何らかの主義・主張を持って放送番組を編集される」ということについては、何らコメントをしておりません。
 今でも、放送事業者の方々は、矜持を持って報道すべきことを報道されていると思いますし、この間から相次いで、各放送事業者といっても、1,307者のうちの東京のキー局の社長様などが記者会見をされておられます。これも新聞報道などで知りうる範囲でございますけれども、それぞれ自主自律的に放送番組を編集していかれるという旨をお話になっていますので、これは萎縮につながるものではないと思っております。


田 英夫キャスターの証言

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政府は放送局に対して圧力をかけていないと言っていますが、これには前例があったのです。
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1962年10月から1990年4月に放送された「JNNニュースコープ」の初代キャスターを務めた田英夫氏は、アメリカからもたらされる情報のみでベトナム戦争を報道する姿勢に疑問を抱き、自らベトナムへ取材に行きました。本来あるべき姿ですね。

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英夫氏は現地でどのような人々が暮らしているのかを伝えるとともに、戦争の現状を報道しました。

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報道特集は2001年にこの時のことについてご本人に取材をしていました。(アーカイブの力を発揮してますねぇ)

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自民党郵政族から反米的だという声が上がったと証言を残しています。

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その後、成田闘争を巡る取材TBSのロケバスが現地に向かう途中で、デモ隊参加者をついでに乗せてしまったことが致命的となり、田氏は社長に呼び出されます。

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当時の社長は現場の声を優先していたそうですが、放送免許の停止を恐れて田氏に「辞めてくれ」と告げました。

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そして、1968年3月に田氏は番組を降板したのでした。

海外ではどうなのか?

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金平キャスターは政府の見解と世界の見解を比較する為に国際新聞編集社協会 のジョン・イヤーウッド理事長に取材を行いました。
同氏は高市大臣の発言はメディアに対する警告であるとの見解を示しました。

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「警告することで取材内容をコントロールしようとしている」と。

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では、アメリカの現状はどうなのでしょうか。

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アメリカには“公平原則=フェアネス・ドクトリン”が存在しました。
これによって平等な番組構成が義務付けられましたが、同時に言論を制限するという弊害が生じました。
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後にドナルド・レーガンがコレを廃止したことにより、言論は自由になると共に今度は過激な言動で注目を集める人間が登場します。

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次期大統領選候補者に名を連ねるドナルド・トランプもこの自由の恩恵を受けた1人に違いありません。

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大統領候補者選びに関する報道内容をメディアリサーチセンターが調べた結果、賛否両論を含めてトランプに割かれた時間がぶっちぎりだったそうです。

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「トランプ氏の取り上げられ方に高市大臣の理屈をあてはめると、アメリカの全てのメディアは閉鎖されることになります」

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「高市大臣は事実上 メディアに自己検閲を求めている」

イヤーウッド氏がそう指摘して特集は終わりました。メモは以上です。


【おまけ】是枝監督と木村草太さんの見解を振り返ってみよう


  1. 「公平中立」という言葉が政権与党の都合のいい情報を出せという意味で使われるのは異例だ。賛成意見と反対意見を同じにするだとか、より深く作り手が考えるプロセスを開示することがBPOの意義
  2. 権力は腐敗します。テレビ局も権力ですから、法的な制裁が加えられた人間にさらに社会的な制裁を加える装置にならないように、徹底的に自覚的にならないといけない。幹部と飯食ってる場合じゃないです。
2015-07-01 - モブトエキストラ
  1.  大西議員の発言(メディアを懲らしめる)は憲法違反か?→国会議員がそういう権力を行使した場合は21条一項に違反する可能性があります 。
  2.  マスメディアが間違っているならば反論すればいい話で、スポンサーに圧力をかけるというのは論拠がないということ。
  3. 報道の自主規制がかかるのでは?→自主規制をしないことを信じたいですが、圧迫感を感じる発言だと思います。ここまでの流れとして2013年に内閣法制局が解釈を変え、自分たちの都合のいいタイミングで解散総選挙も行いました。官僚や選挙を道具のように使っているのではないかと思います。
  4. こういう事を言うと仮に与党を褒めるメディアがあった場合に、与党に言わされていると受け取られかねないので、これはかえって与党にダメージだと思います。

結局のところ、圧力をかけられたとしてもリアクションが大事なんですよね。
メディア側の抵抗権の行使が重要だと思うのですが、記者クラブ(政治部記者が中心)は監視対象である政府から国会記者会館という犬小屋を与えられてタダで使用しています。
そのうえ、増税による定期購読者の減少を恐れた新聞社は据え置き税率軽減税率と報道し続けています。
メディアが自ら政府の道具になろうとすればするほど、この国はおよそ民主主義国家とは呼べない社会主義国になっていくのでしょう。私はそれを望みません。