モブトエキストラ

左利きのメモ魔が綴る名もなき日常

「死んでいない者 / 著 滝口悠生」の感想


これからを考える子どもたち、これまでを考える大人たち


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この本はまずタイトルがウォーキング・デッドっぽいし、表紙がバトルロワイアルっぽいから絶対に面白いだろうと思って借りました。

ええ、残念ながら違いました。

内容は、一人の人間がこの世から去ることによって、死んでいない者である遺族たちの心に生じる感情を描いたものです。
「それないわ〜」と思われるかもしれませんが、あえて例えるなら「サマーウォーズ」と「西の魔女がしんだ」を合わせたような、親戚付き合いという煩わしい問題の後に優しい風が吹くような感覚を得ることができる作品でした。

アドラー心理学では人間の悩みのほとんどは人間関係であると言われていますから、親戚付き合いはラスボスです。
この問題についての捉え方が大人と子どもで全く違うんだなぁと気づかされました。
葬式の最中、大人は故人と自分のこれまでを考えますが、子どもたちは「めんどくさい」とか「退屈」という現在とこれからについて考えてから今までを考える。
子どもだから一緒に過ごした時間が少ないのは当たり前ですけど、大人でも子どもでも、別に仲がいいわけでもない親戚同士の間に流れる手持ち無沙汰の沈黙をどうにかして埋めようとするのは同じなんですね。
この風景描写が淡々と描かれていて、その流れを遮らないようになのかどうかは分かりませんが、文章に鉤括弧が使われていないのが独特です。
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↑子どもがみんなでお菓子を食べるというのは民族っぽいし、人見知りの苦い記憶だったりが混じっていて印象的でした。
また、登場人物が多いので読者によって感情移入する視点が違うと思いますが、社会的な繋がりがほとんどない私にとっては美之という変わった人間が常人に見えました。
SNSで繋がってる感じも現代っぽいですし、ネットの特性である年齢差についても表現されているので上手いなぁと感じました。
文字数は多くないし、登場人物が多い作品が苦手な私でも読めたのでオススメです。

死んでいない者

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