モブトエキストラ

左利きのメモ魔が綴る名もなき日常

「カニバリズム 最後のタブー 著 ブライアン・マリナー/訳 平石律子」の感想

ガールフレンドを食べた日本人という出落ち

ぱっと見「バカリズム」と読んでしまう「カニバリズム」については、昔話やゾンビ映画、或いは昨年戦後70年を迎えて注目が集まった映画「野火」http://nobi-movie.com/
の中では、殺し合いしている場合ではない過酷な状況の中で生き抜く術としてビジュアライズされています。
「人が人を食べる」というその背景に一体何があるのか気になってこの本を手に取ったら
この出落ちですよ笑
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マジか?と思って調べたらサガワイッセイという人物がヒットしました。



佐川は犯行を認め裁判では心身喪失であったとして不起訴処分で無罪となり、フランス国内の精神病院に入院する。翌年、帰国し東京都立松沢病院に1年間入院した。病院側の診断結果は、佐川は人肉食の性癖など一切なく、フランス警察に対する欺瞞であるというものであった。同院副院長(当時)の金子医師は、佐川は精神病ではなく人格障害であり、刑事責任を問われるべきであり、フランスの病院は佐川が1歳の時に患った腸炎を脳炎と取り違えて、それで誤った判断を下したのではないかとしている。日本警察も全く同様の考えであり、佐川を逮捕して再び裁判にかける方針(『週刊マーダーケースブック』2号、デアゴスティーニ、1995年)であったが、フランス警察が不起訴処分になった者の捜査資料を引き渡す事はできないとして拒否した。

((((;゚Д゚))))不起訴っ⁇

わいじゃぱにーずぴーぽぉぉぉ

この詳細については本書の188ページ「パリの人食い」に記載されていた。
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↑なぜフランス警察は情報を日本側へ提供しなかったのだろうか。対日貿易を考えてと記載されているが、オランダ国民の感情はどうなるのか…
また、担当医も投獄されるべきと言っているにもかかわらず野放しにした日本政府の対応もどうかしている。
人間の肉を食べた殺人犯が菜食専門レストランってイカれてますよね。マジで。

こうして、たった数行の文章から始まり、私の興味はガッチリと掴まれたのだった…笑



慣習という名の支配者

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人間の「進化」からカニバリズムを捉えているのが面白かったです。
人間に虫垂という臓器があるのはもともと草食動物だったと指摘したうえで、一日中草を食べなくてはならない生活から解放される為に高タンパクの食物にシフトし時間を手に入れたと。
では、いつから人間がカニバリズムを行っていたのかといえば、アフリカで発見された洞窟の中にあった頭蓋骨に穴が開いていた事から、考古学者のローバート・アードレーは「脳みそ食ってたんじゃね?説」を唱えている。
つまり紀元前から食べているわけですね。

ざっと読んでみたところ、人間がカニバリズムを行う理由として以下のことが挙げられます。

  1. 飢饉や飢えを理由に食べた
  2. 部族紛争で敵を侮蔑する行為として食べた
  3. 部族の慣習で、力のある者を体内に取り込むことで力を得ると信じられて食べた
  4. 宗教的儀式の生贄としてキチンとした手順で食べた
  5. 美味しいから日常的に食べた
  6. 性的興奮を得るために食べた

パリの人食い佐川一政氏は6ですね。
部族については、完全なる武力闘争によって社会が構築されていたので、現在の倫理や道徳が通用しません。
アステカ、マヤ、北米インディアンなどは儀式の中で殺人を行っていましたが、アフリカやニュージーランドのフィジー島の民族は食料として好んで人間を食べていたようです。そうした蛮行をやめさせようとした宣教師たちは食料として、彼らの胃袋に消えていったとか。

たまに海賊映画とか、漫画で耳にする「キャプテン・クック」の話は印象的でした。

クックさんはエンデバー号に乗りソシエテ諸島タヒチを経由したあと、1768年11月23日 ニュージーランドに上陸。
海岸には若者の首と臓物が転がっており、士官の一人が首を買い取って船に持ち帰る←コイツ何考えてんだよ
原住民の一人が士官と乗組員が見ている前で、人肉を炙って食べて見せた。

首を見ていると…わたしは恐怖に襲われ、人食い行為に対する憤りてわ胸がいっぱいになった。
だろうね。としか言えない笑

その10年後の1778年にハワイを発見して上陸した際に原住民に殺されてしまったそうです。
遺体を捜す船のもとに二人の原住民が乗るカヌーが近寄ってきて、9ポンドの肉塊を乗組員に渡し「これがキャプテン・クックの全てだ」と説明し、哀悼の意を表した。これを理由にハワイでもカニバリズムが行われていたのではないかと主張する学者もいるとか。

クック船長…

先ほども書きましたが、私たちから見たら明らかな蛮行であっても彼らの社会では肯定されているわけです。
ここの理解において、重要なことをニュージーランドの酋長が以下のように発言しています。
大きな魚が小さな魚を食う。小さな魚は虫を食う。イヌは共食いするが、人も食い、人はイヌを食べる。空の鳥もまた互いに狙いあっている。それに神も他の神を食べるではないか。敵に囲まれた我々がなぜ、互いを食べてはいけないのだね。
自然に暮らす部族と、不自然に暮らす現代人とでは、社会秩序が根本的に違うので単純に比較することは難しいですが、本を読み進めるにあたって、人間という動物を考えさせられました。

私たちの社会では当たり前に「犯罪」なわけですが、1924年にF・テニソン・ジェスという犯罪作家は6つの動機に分類しました。それは、利害、復讐、排除、嫉妬、肉欲、思想信条。
現代で考えてみれば、甘利大臣や舛添都知事は利害、アイドルを襲ったファンは復讐、新大久保で在日韓国人は死ねと絶叫する人々は排除、一般人による異常なまでのベッキー叩きは嫉妬、強姦目的で女性を殺害した米兵は肉欲、銃乱射事件やISなどのテロリストは思想信条。
全く変わりないですね。

ここには面白い統計も載っていました。
1960年以降、アメリカ国内では爆発的に殺人が多発し、1970〜1974年の間に国内で死亡した人数はベトナム戦争で戦死した人数を上回るのだそうです。
典型例も記載されています。

  • 加害者は20歳の男性
  • 全加害者の60%が被害者と顔見知り
  • 犯行現場の4分の1は家庭内、次が路上
  • 凶器の3分の2が銃、ナイフ19%、絞殺8%、溺死7%、焼死とガスによる窒息が7%、転落死が7%
  • 犯行時間は夜、時期は週末と休暇シーズンに集中
と、まぁこんな感じです。
アメリカは個人の武装権が憲法で保障されてますから、建国の時からドンパチやってるんでしょう。
家庭内で殺人が行われていることについては、現代の日本にも通じるところですね。家族は最小単位の集団ですが、親は子を選べませんし、子も親を選べません。そこの摩擦がストレスを生み、引き金を引かせる。
理解できないのは子どもを非常食としか見てない場合でしょう。

世界大戦後の西洋社会もかなりの地獄で、まず食料不足を原因として浮浪者や娼婦を「屠殺」してミートパイやソーセージにして販売していた事件が多発しています。被害者が身につけていた服や装飾品も売りさばいて金を稼いでいた者もいて、つまり殺人が経済になっていたわけです。
カニバリズムを行っていたのは貧しい人々だけではなく、貴族にもサド侯爵のような猟奇的な人間がいましたね。
男に相手にされなくなった40歳のサディストな婦人が大量殺人を起こした話もあります。彼女は若返る為に処女の生き血を集めて湯浴みをし、飲み干していたようです。もちろん被害者の多くは出血死。
食欲と性欲を満たすためのカニバリズムは何となく想像がつきますが、思想犯として行動に移す例は理解できないというか、言動も支離滅裂なのでどうしょうもないです。
一つの事件を忙しい人の為にまとめるとこうです。

1942年10月13日から1973年2月13日にかけてハーバート・マリンは親友の死をきっかけに頭の中で声が聞こえるようになった。彼はその声に従い13人の人間を殺害。
裁判で彼はアインシュタインが私を指導者に選び、自然災害の発生を防ぐためには人身御供が必要で、その結果カリフォルニア地震が起きていないのだと主張した。
陪審員は法的責任能力を認め、殺人で有罪とし、裁判長は連続終身刑を言い渡した。
73歳になる2020年まで保釈の可能性はない。

東京五輪の年にリリースされる可能性が…って今生きてるのか?

犯人たちの最終目的は「

所有欲」を満たすこと


本の中で著者はハンニバル・レクターを例に出して所有欲を説明していました。
蝶から人間へ対象が変わっていく感じは、現代だと野良猫の不審死が共通項でしょう。
考えてみれば、武器を自慢するには殺傷行為と被害者が必要になるんですよね。
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殺人犯の心理を読み取っていく方法を述べながら、ダグラスは次のように説明する。強姦殺人を犯すものは性的な充足を求めているのではなく、支配する欲求に迫られて犯罪を犯す。「彼らが本当に望んでいるのは、一定の時間、被害者を自分の支配下に置くことです。数日とは言わず、数時間の間でも、完全に相手を自分の好きなように扱い支配することなんです。被害者の目に恐怖の色が走るのを見たり、殺さないでと哀願する声を聞きたいのです。それが火種なのです」

フロイトは心理学において「口唇執着」という言葉を作りました。
人間は攻撃性を噛み付くことで表現し、吸うことで快感を得る。カニバリズムの犯人たちの精神は幼児期初期へ回帰していると。
例えば有吉弘行が原型が無くなるまでペットボトルのフタを噛み続けるのも、ヘイトスピーチで快感を得る人々の精神構造もここに当てはまりそうですね。

何というか、殺人犯について考えるとある一定までは普通の人間と何ら変わらない。
「分人」という言葉が近年あったけど、コンプレックスを補うために誰しもが別人格を作り出すのだけども、彼らは「殺人犯」の人格を形成してしまってる。

この人格形成のバグは精神的なガン細胞の発生に思います。


作者と翻訳者のあとがき

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↑本当、作者はこの本をよく書き上げたなぁと思います。
何と言ってもグロいですし、畳み掛けてきますし、こんな文章を書いていたら食事なんてできませんよね。

ブライアン乙

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人食い殺人鬼のオンパレード\(^o^)/

↑平石さん名言ですわ。
人間に流れる百鬼夜行のDNA。


カニバリズム―最後のタブー

カニバリズム―最後のタブー