モブトエキストラ

左利きのメモ魔が綴る名もなき日常

「DRAGON BALL外伝 転生したらヤムチャだった件 / 著 ドラゴン画廊・リー 原作 鳥山明」の感想

突然 大きな気が現れた‼︎ これはヤムチャさんだ‼︎ ヤムチャさんが帰ってきたんだ‼︎! byクリリン

先日、本屋に行った。とくに何を買うかは決めていなかったが面白そうなものを探していた。たいていいつも同じ棚の前で足を止めているから、この日はいつもと違うジャンルの本棚を見回る事にした。私には漫画を買う習慣が無い。いや、無いわけではないが『バガボンド』にしても『ハンター×ハンター』にしても絶賛休載中で買う機会がないのだ。だからしばらく漫画を買うことはなかった。
漫画コーナーに足を運ぶと進撃の巨人の最新刊にDVDが付いていたり、読んだことのない漫画で溢れていた。ただ、平積みされた漫画の表紙をパッと見た感じ、キャラクターのデザインがどれもこれも同じように見えたし、男の視点オンリーの底の浅いものが大半に思えた。漫画はビニールがかけられているから中身を確認することができない。残念ながら私の抱いた印象を否定する材料はそこにはなかった。
「無いな…」
そう思いながらコーナーを離れようとした私の前に『ドラゴンボール』が出現した。
ドラゴンボール』はバトル漫画のバイブルであるが、現在は魔人ブウ編のあとを描いた『ドラゴンボールスーパー』が連載されている。その並びの中に衝撃的な作品があったーー。
ドラゴンボール外伝 転生したらヤムチャだった件
「???」
頭の中ではてなマークがポン!ポン!ポン!と音を立てて出現した。
「なんだこのふざけたタイトルはっ! なんだこの鳥山明と遜色ないデザインはっ! ドラゴン画廊・リーって誰なんだだっ⁈」
本を手に取ってみると裏表紙にはこう書かれていたーー

転落事故をきっかけに男子高生がヤムチャに転生⁈
ブルマとつき合えると喜んだのも束の間、彼はヤムチャがやがて死ぬ事を思い出す…!! 次々と強敵が訪れるDB世界(ドラゴンボールワールド)で生き残る為、今ヤムチャが最強を目指す!!

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転生というのはライトノベルのアレだ。そのギミックをジャンプが取り入れた。
そしてこのストーリーである。男子高生が避けようのない運命に抗いながら、戦うというのだ。
「おっ、応援しなくては!」
面白そうなうえにヤムチャを応援したくなった私はこの珍書を買う事にした。
目当ての本と出会えた私には、心なしかレジの店員さんが「願いは叶えた」と言ったような気がした。

ヤムチャしやがって

ページ数は141ページと少なめですが、ページをめくるたびにニヤニヤしてしまいました。

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まず最初のあらすじにドラゴンボールにおけるヤムチャの全てが書かれているのですが、たったこの16行の情報量のキャラがこれから主人公としてエンターテイメントを繰り広げるという宣言でもあるわけです。
「無茶すんなよ」と誰もが思うに違いありません。
冒頭の計4ページでドラゴンボールオタクの主人公がミニスカートの女性の尻を追いかけ、足をグネって歩道橋から落下。そして気付いたらヤムチャになっているという流れでした。
ここで気になるのはヤムチャの魂はどこへ行ったのか?」ということですが、それに関しては一切描かれていませんでした。笑「ギャグ漫画なんだから細かいこたぁいーんだよ!」と言わんばかりにストーリーはドンドン進んでいきます。

ドラゴンボールを知っている主人公はシナリオRPGのように死を回避するための選択肢を選んでいき、宿敵の栽培マン、恋敵であるベジータとの対面。圧倒的な主人公ポジションを獲得した強キャラ感がたまりません。
本家ドラゴンボールでも登場した時はカッコよくて強いイケメンキャラだったヤムチャ。それが宇宙人との戦いになるとパワーがインフレして、地球人はモブキャラとなってしまいます。唯一の地球人代表ポジションも悟空のライバルであったクリリンに取られてしまう。クリリンはピッコロ大魔王編とフリーザ編とで二回死んでいますが、絶命のシーンはストーリーに大きな影響を与えるものとなっています。しかし、ヤムチャの死はクリリンと違って『自動車の衝突安全実験』のように『宇宙人と地球人が戦うとこうなります』という扱われ方になっているのです。笑 これを念頭に置いて本書を読むとニヤニヤと謎の感動が止まらないのです。こんなにも躍動感があり、活き活きとしたヤムチャを私は想像だにしませんでした。

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見せ場のシーンではヤムチャのオリジナル技の『操気弾』ではなく『かめはめ波』をチョイスしている部分も地味に面白い。笑
ベジータとの戦闘を終え、ブルマとトゥルーエンドを迎えるかと思いきや、主人公の心の中に良心の呵責が生まれるのです。この視点は本家の『未来から来たトランクス』と同じポジションになっていて、展開としてもストーリーとしても面白いと思いました。
さらに物語が進んでいくと、自分の他にも転生している人間がいるのでは…?という展開に。オチについては「なぜ転生したのか」についても含めて『ドラゴンボールスーパー』と絡めたものになっていて、ちゃんとギャグ漫画になっていました。

また、最後には漫画を描いたドラゴン画廊・リーさんによる今回の企画の経緯についての説明と、ヤムチャに対する感謝の言葉が書かれていました。さらに表紙カバーを外すと、ピッコロ大魔王編とナメック星で活躍するヤムチャの姿が描かれています。ヤムチャファンにはたまりませんね。(私は人造人間16号のファンなので…)
全体通して面白く、読み切り型の漫画としては理想的な作品だと思いました。
あと同時に、本屋さんの店頭でこういう読み切り型の作品や短編漫画のコーナーがあれば普段漫画を読まない人が買いやすくなると思うのでコーナーを作って欲しいと思いました。