モブトエキストラ

左利きのメモ魔が綴る名もなき日常

「源ちゃんと読む戦争」の感想

楽しみにしていたこの時を

高橋源一郎と読む「戦争の向こう側」 - NHK

ここ数日、この番組が早く放送されないものかと楽しみにしていました。

というのも、私が読んだ小説の中でベストが安部公房の『砂の女』で未だにこの作品を超える小説が見つからずに困っています。

小島秀夫 on Twitter: "全文掲載との要望が多いので、高校2年時に書いた読書感想文コンクール原稿を公開します。実はE3直前に安部公房の「なわ」を36年ぶりに読み直しました。今、36年前の若き自分の強引であまい考察を読んで、歳を重ねる事の意味を再認識してます。… "

ちなみにゲームクリエイター小島秀夫監督は安部公房の「なわ」をヒントに新作を爆誕させたそうです。

https://realsound.jp/tech/2018/10/post-264719.html%20

話を戻しますが、そんなヤバい安部公房の作品を高橋源一郎さんと一緒に読むのが漫画家のヤマザキマリさんだと言うのだから、期待値が高くならざるを得ません。

全く良いニュースが無い中で、この番組の放送だけを御守りのようにして、当日の夜を迎えました。

(ここからツイートメモ)

番組の構成としては、進行役の高橋源一郎さんと、聞き役の伊藤比呂美さんはスタジオブースに居て、塚本晋也さんとヤマザキマリさんはそれぞれに高橋源一郎さんと対談した別日の音声が流されました。

2時間足らずの中で、作者の紹介と作品の朗読をしなければならないので、編集した音声じゃないと収まらないというのは分かりますが、欲を言えば生の声でもっと聴きたかったなぁというのが正直な感想です。

ただ、今回のコンセプトである『トラウマ』から見える戦争の輪郭は、今の時代であっても十分なほどにトラウマを植え付ける力を持っていると感じました。

敗戦直後、戦争の最中、引き揚げ、侵略と、作品のチョイスと紹介する順番もかなり考えたのではないかと思います。(流石だなぁ)

とくに財部鳥子さんの詩の色彩感覚が凄くて、空の青の「自由」と、戦争によって色を失った大地の対比は惹き込まれるものがありました。ツイートのメモにも書きましたが、何でもかんでも奪っていくナチスを目の当たりにして、トーベ・ヤンソンが生み出したのがムーミントロールだったりします。戦争が色を奪うという点において、作家や芸術家が抱く感情は通じるものがあるのだと思いました。

それと、武田泰淳『審判』について塚本晋也さんが言った一連の言葉で思い出した事が1つあって。

井上雄彦さんの『バガボンド』で、武蔵が吉岡一門を死体の山に変えていくシーンがあるのですが、そのカットの中に空を飛ぶカラスが「この人間は何を思って死体の山を作っているんだろう」というニュアンスの言葉があるんです。これがそのずっと後の巻の「楽しかった」に繋がっているんだと、放送を聞いて気付きました。(ホント聴いてよかった)

ちょうどEテレの100分de名著でも『戦争論』をやっていて、まさに人間の攻撃的な部分について焦点が当てられているので、『戦争』が人間の生態の一部なのか或いは現象なのかとても気になります。(普段は理性的な人間が祭りというモノによって、理性を外すと考えると、渋谷のハロウィンで軽トラをひっくり返した集団の説明がつくかも…)

で、人間の暴力的な側面を言葉であぶり出したのがメインディッシュの安部公房大先生。

「民主主義=多数決」というパワーゲームは、バールのようなもので後頭部をトカトントンと叩くようなもので、この原理が中心にある限りは、分断統治の力が政治とされますよね。ステーキを一口に切って食べる作業です。

✳︎多数決=民主主義じゃないという話は以前に久米宏さんの番組でもやってました。

多数決について疑問を抱く久米さん - モブトエキストラ

安部公房大先生はこの生々しい痛みを不条理文学に落とし込んだわけですが、時を経てヤマザキマリさんは、イスラエルパレスチナの現状(約束の地)を見て同じ疑問を抱いたという。

エモい!

ただそれは同時に、人類の問題が解決されていないという事でもあります。

同一の言葉を話す人々が協力し、神に手を伸ばして塔を建てたところ、神の怒りを買い言葉が別々になってしまった『バベルの塔』という話がありますが、少なくともこの神話が誕生した時から、今夜話し合われた問題が解決されていないとすると途方もない時間経過を感じます。

さらに絶望に拍車をかけるのが、現代のアメリカにしろ中国にしろ、異なる言葉を話す人々が住む大国が独裁で統治するという点です。

米高官、自由の女神の詩を「改訂」 新たな移民規則に合わせ「自立」促す内容に - BBCニュース

アメリカの政府高官なんて、移民政策を念頭に自由の女神の概念さえ変えようとしてますから。

おわりに

感想の結びとしては「聴いてよかった」の一言に尽きます。よかった、よかった。

書いてるうちに気付いたら、日付けも超えちゃってるけどよかったです。

で、今さっきTwitterを見たら…

f:id:ebiharaism:20190816002710j:image

マリさーん!

偽物じゃありません! 公式アカウントからリツイートを頂きました!

やったでおい!

ホント聴いてよかったです。

最後に、記事のタイトルが長くなるので「源ちゃん」とした事で「おいおい!星野源じゃねーじゃねーか!このやろう!」と、取り憑かれたように怒ってブリッジで階段を駆けおりる方のために『地獄でなぜ悪い』でお別れしましょう。

星野源 - 地獄でなぜ悪い【MV & Trailer】/ Gen Hoshino - WHY DON'T YOU PLAY IN HELL? - YouTube

ただ地獄を進む者が、悲しい記憶に勝つ。

さよなら、さよなら、さよなら。