モブトエキストラ

左利きのメモ魔が綴る名もなき日常

現代の高瀬舟

81歳の妻を殺害の疑い 86歳の夫逮捕 NHKニュース
警視庁によりますと、逮捕されたのは鈴木多利人容疑者(86)で、調べに対し「妻は関節痛で痛がっていて、見かねて殺した。『殺してほしい』と妻は言っていた」などと供述しているということです。
鈴木容疑者は美代さんと50代の長男の3人暮らしで、長男は「母親が痛がっていることは知っていたが、『殺してほしい』と言っていたとは聞いていない」と話しているということで、警視庁で詳しいいきさつを調べています。
 月1万2800円の家賃の滞納が約2年間続いたため、県が住宅明け渡し訴訟で勝訴、事件当日は立ち退き期限だった。午前11時10分ごろ、鍵を開けて立ち入った地裁の執行官らが、布団の上でうつぶせになった可純さんの遺体を見つけた。
 被告は放心状態で座り込み、可純さんの頭をなでながら4日前に撮ったビデオを見ていた。体育祭で赤い鉢巻きをして走る娘の姿が映し出されていた。「これは私の子。この鉢巻きで首を絞めちゃった。ビデオを見終わったら自分も死ぬ」と話したという。
昨日と今日とで、少し考えさせられる2つの事件を目にした。
一つは介護疲れ、もう一つは貧困を理由にした心中である。
私はこれら2つの事件を目にした時に「高瀬舟」を思い出してしまった。

或る日いつものやうに何心なく歸つて見ますと、弟は布團の上に突つ伏してゐまして、周圍は血だらけなのでございます。わたくしはびつくりいたして、手に持つてゐた竹の皮包や何かを、そこへおつぽり出して、傍へ往つて『どうした/\』と申しました。すると弟は眞蒼な顏の、兩方の頬から腮へ掛けて血に染つたのを擧げて、わたくしを見ましたが、物を言ふことが出來ませぬ。息をいたす度に、創口でひゆう/\と云ふ音がいたすだけでございます。わたくしにはどうも樣子がわかりませんので、『どうしたのだい、血を吐いたのかい』と云つて、傍へ寄らうといたすと、弟は右の手を床に衝いて、少し體を起しました。左の手はしつかり腮の下の所を押へてゐますが、其指の間から黒血の固まりがはみ出してゐます。弟は目でわたくしの傍へ寄るのを留めるやうにして口を利きました。やう/\物が言へるやうになつたのでございます。『濟まない。どうぞ堪忍してくれ。どうせなほりさうにもない病氣だから、早く死んで少しでも兄きに樂がさせたいと思つたのだ。笛を切つたら、すぐ死ねるだらうと思つたが息がそこから漏れるだけで死ねない。深く/\と思つて、力一ぱい押し込むと、横へすべつてしまつた。刃は飜こぼれはしなかつたやうだ。これを旨く拔いてくれたら己は死ねるだらうと思つてゐる。物を言ふのがせつなくつて可けない。どうぞ手を借して拔いてくれ』と云ふのでございます。弟が左の手を弛めるとそこから又息が漏ります。わたくしはなんと云はうにも、聲が出ませんので、默つて弟の咽の創を覗いて見ますと、なんでも右の手に剃刀を持つて、横に笛を切つたが、それでは死に切れなかつたので、其儘剃刀を、刳るやうに深く突つ込んだものと見えます。柄がやつと二寸ばかり創口から出てゐます。わたくしはそれだけの事を見て、どうしようと云ふ思案も附かずに、弟の顏を見ました。弟はぢつとわたくしを見詰めてゐます。わたくしはやつとの事で、『待つてゐてくれ、お醫者を呼んで來るから』と申しました。弟は怨めしさうな目附をいたしましたが、又左の手で喉をしつかり押へて、『醫者がなんになる、あゝ苦しい、早く拔いてくれ、頼む』と云ふのでございます。わたくしは途方に暮れたやうな心持になつて、只弟の顏ばかり見てをります。こんな時は、不思議なもので、目が物を言ひます。弟の目は『早くしろ、早くしろ』と云つて、さも怨めしさうにわたくしを見てゐます。わたくしの頭の中では、なんだかかう車の輪のやうな物がぐる/\廻つてゐるやうでございましたが、弟の目は恐ろしい催促を罷やめません。それに其目の怨めしさうなのが段々險しくなつて來て、とう/\敵の顏をでも睨むやうな、憎々しい目になつてしまひます。それを見てゐて、わたくしはとう/\、これは弟の言つた通にして遣らなくてはならないと思ひました。わたくしは『しかたがない、拔いて遣るぞ』と申しました。すると弟の目の色がからりと變つて、晴やかに、さも嬉しさうになりました。わたくしはなんでも一と思にしなくてはと思つて膝を撞つくやうにして體を前へ乘り出しました。弟は衝いてゐた右の手を放して、今まで喉を押へてゐた手の肘を床に衝いて、横になりました。わたくしは剃刀の柄をしつかり握つて、ずつと引きました。
弟の自己犠牲により生きながらえる真面目な兄の心境を考えると、とても一言で言い表すことができない。

さて、話を元に戻そう。
現代の高瀬舟は、国民の未来など顧みない、大企業と政府の癒着による政治が原因に思う。
労働者派遣法や残業代ゼロ法案、或いは社会保障費や介護報酬の引き下げに見る、国民から安定した生活を奪う法律により、我々の首は締められているのだ。

また、生活保護費の不正受給をめぐる問題については、「在日韓国人問題」や「楽して金儲けをしている人々」といったイメージにすり替えられているように思う。


しかし、実際のところ全体から見た不正受給の割合は0.4%であり、最近では生活保護を受けていたシングルマザーの家庭で、母親に心配をかけまいと黙ってアルバイトをしていた娘が理由で「不正受給」と判断されたケースもある。
今回の娘を殺した事件もまた、収入があることを理由に断られているようだが、憲法25条の生存権と照らし合わせた場合に役所の対応は間違っていたのではないか?と個人的に思うのだ。
政府の狡猾なところは、生活保護費で派手な生活をしている人間を取り上げて、世論を生活保護費の切り下げに向かわせたところだ。
生活保護費を切り下げた事で最低賃金の引き下げに成功したのだ。さぞかし企業は嬉しかっただろう。
その一端を担った2ちゃんねるや、まとめブログの功績は大きい。
感情論で高瀬舟に乗る人間に石を投げることは果たして正義だろうか?

司法も金で買えるとして、憲法の読めない為政者が万延したとき、一体われわれに何ができるだろう?
人が作ったシステムに人が支配されていく様は不自由に見えてならない。