どうして子どもを殺すのか?
タイトルに「本当に怖い〜」と付いていると、ついつい手を伸ばしてしまいます。しかも怖くないことは分かっているのにです。
これはダチョウ倶楽部における「押すなよ!」とかとにかく明るい安村の「安心して下さい履いてますよ!」と同じですね。
それともう一つの関心は「なぜ、人間は子どもを殺すのだろうか?」という疑問があったのです。
日本における殺人の半数は家庭内で起きています。とくに被害者が子どもだった場合、視聴率を稼ぐ為にメディアは感情移入させようと繰り返し報道します。
つい最近も幼児虐待のニュースがありましたね。
このニュースを見た時にはすでにこの本を読み始めていたので、この社会の不気味な環境の中で、どれだけの人間が子殺しのメカニズムを理解しているのだろうかと考えてしまいました。
クマ→霊長類→先住民→現代人
この本は動物の習性から「子殺し」を学び、先住民の文化の中にも共通点があることを挙げたあと、それを現代社会にフィードバックし、どうしたら子殺しが起こらない社会が実現できるのかについて書かれています。
個人的に面白いと思ったのは北海道大学の若原正巳氏のサンショウウオの話で、水槽の中で血縁関係のない個体が増えると「共食い屋」が発生すること。この共食い屋は普通の個体よりもアゴの幅が広いという特徴を持っているそうです。
産まれたばかりの個体同士で共食いする習性を持っているサメがいるのは知っていますが、環境を察知したうえで共食いするなんて遺伝子の面白さがパネェです。
スズムシの共食いもサンショウウオと同じパターンですかね…
以下、まとめです。
動物が子どもを殺す理由
- 子殺しは自分の遺伝子を持った個体の生存確率を上げる為に起こる現象
- ハヌマン・ラングールという猿は群れのボスが変わるたびに、弱いボスの子どもが虐殺される。その時に弱いボスの子どもを身ごもっているメスは自ら流産する。
- リスの中には効率よく授乳する為に、他のリスの子どもを食べる種類が存在する。これは動物性タンパク質を摂取する為の行動と考えられる。
- ハヌマンラングールは殺した子どもを食べることはないが、チンパンジーは子どもを食べる。
- ネコ、クマ、ラッコ、ミンクは「交尾排卵」という特徴を持っている。人間もこの特徴を持っている可能性があり、「ショート・ヴィジット効果」と呼ばれている。
- イヌワシの場合、先に産まれた個体が後に産まれた個体を巣から落とすが、エサが豊富な環境では3羽が育つケースも確認されている。
- ハヤブサは親が何らかのアクシデントで死んでヒナだけが残された場合、血縁関係のない個体がそのヒナを育てる。(すげー)
ヒトが子どもを殺す理由
先住民の場合
- 父親からのサポートがない
- 奇形児、双子(片方を殺す)
- 子どもの歳が近い場合、生存率を上げるために下の子どもを殺す
現代の発生要因
- ステップファミリー(継父or継母と継子からなる家庭)は、通常の家庭よりも虐待が発生するリスクが高い。
- 赤ん坊がいることで繁殖の機会が減る。
- 周囲の監視が働かないので、内縁の夫ほど虐待を行う。
- 過去に虐待を受けたことのある人間はストレスを感じやすい。
- 子どもが小学生以下の場合、決して再婚すべきではない(霊長類学者 福田史夫氏)
- 児童相談所、児童福祉施設、保育園、小学校の関係者が「子殺し行動」を知らない。
箇条書きにするとこんな感じです。
本の中では近年に起きた児童虐待を例に、どのような環境下で虐待が起こるのかを追及しているのですが、興味深かったのは社会福祉に理解があり、裕福な家庭であるにも関わらず里子を殺した事件です。
この事件の場合は、理解のあるはずの母親が里子を殺してしまったというのが特徴です。
こうした子どもは、本当に自分のことを受け入れてくれるのかを計るために問題行動を起こすことがあるそうなのです。
虐待をした母親は「この子は自分のことを嫌っている」と考えてしまった可能性があり、自分の遺伝子を持たない個体を殺したと考えられます。
本にも書いてありますが、作者は決して殺人を肯定しているわけではありません。
本の最後には、子どもを殺さずに済む社会についての提言がなされています。
どうしたら子どもが死なない社会にできるのか?→母系社会にする
子殺しや虐待が発生するのは「父系社会」の話であって、「母系社会」においては子殺しも虐待も起こりにくいと考えられると書かれていました。
理由は以下の通りです。
- 母系社会というのは母方の血縁を優先する社会なので、一族の遺伝子を持っていることが生まれながらに証明されている。
- 一族の仲間から協力を得やすいので、男を選ぶ時に財力は関係なく、才能やルックスが優先される(ブサイクの遺伝子は涙目)
- 周囲の監視が働いているので、虐待や嫁イジメが起こりにくい(マスオさんが虐待していたら波平がマスオをフルボッコにするんだね)
母系社会を軸に制度設計をすれば、わざわざ「子育て支援政策」だとか「女性活躍推進法」といった、オッサンの下らない茶番を済みますし、子を生み育てやすい環境がベースにあると、人口不足に悩まされることなく、社会保障上のメリットがあると私は考えます。
日本の人口比率を見ても女性のほうが多く、寿命が長いことを考えると、持続可能な社会を考えるうえで、女性がイニシアチブをとるほうが上手くいくと思います。
それと、若者からしてみれば、老人による数の暴力は社会問題です。
何もかもが、多数決で決められてしまう夢のない世界に一筋の光があるとしたら、社会保障上の共通メリットという点で「母系社会の実現」が一つの答えなのではないかと思いました。
- 作者: 竹内久美子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2013/03/15
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