モブトエキストラ

左利きのメモ魔が綴る名もなき日常

「増補 へんな毒 すごい毒/著 田中真知」の感想

知的好奇心をくすぐるちくま文庫さん

『よーし、星野源a.k.aスーパーすけべタイム師匠の本と、罪の声と、中野信子さんのサイコパスの新書を買うぞ!』と決めて書店に行った。しかし、本棚の前まで行くと『旬な本を読んで感想を書くとプレビュー稼ぎみたいでなんか嫌だ…』と思って手を引っ込めてしまった。

そんな悩めるボンクラの目に入ったのはちくま文庫のコーナー。私はなぜだかちくま文庫の本に惹かれてしまう習性があるらしい。クリーム色をベースにした表紙、背表紙にはオレンジ色のラインとパンチラインと言っても過言ではないタイトルのオンパレード。マイケルジャクソンだったら棚買いするレベルだろう。そして、日本語が読めないことに気づいても返品などしない。それがマイケルジャクソンだ。(なんの話だ)

ちくま症候群の私の前に「はぐれ商品」が現れた。たいてい「はぐれ商品」というのは平積みした本がズレていたり、「はらぺこあおむし」を持ったままウロウロした子どもが「進撃の巨人」のうえに置いて帰ったり、ヘロヘロになるまでヨガ本を立ち読みした女性が育児本にヨガ本を戻すことで起こる現象だ。そして、客なのにそれを直すのが私の仕事である。

今回は本来、元の場所に戻すはずの本に惹かれてしまった。

 

「へんな毒 すごい毒」

 

へんないきもの」という本が一世を風靡した際にその二番煎じで「毒のいきもの」という本が出版されたことがある。動物大好きっ子の私はまんまと買ってしまった人間であり、「へんな毒 すごい毒」が醸し出すキラーフレーズ間にやられてしまった。

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そして気づくと、自宅でこの本とジョーオーウェル(ディストピアなんちゃらキャンペーンやってた)を手に持っていたのである。太陽もウイルスにしか見えない。(ちくまウイルスと名付けよう

)

これから梅雨に入るし、食中毒に対する知識が得られるならいいじゃないか。

 

フランクに見せかけて本格的

 ページをめくるとかなりしっかりした構成。

毒の定義を記したうえでどのような反応が起こるのかが図解を交えて分かりやすく書かれていました。

無効量→中毒量→効果量→致死量

LD50=lethal dose50(実験動物の半分が死ぬ量)

例.LD50 2mg/kg(iv)mouse

=2ミリグラムをネズミの静脈に駐車したら半分が死んだという意味。

 

こういう基本的な知識に接する機会がないので私は面白く感じました。

どこから体内に進入したのかによって、毒の効果が違うので単純にどの毒が強いのかを比べることはできないと記されています。そのうえ、一言に「毒」といっても様々なタイプがあるのでジャンル分けが難しいそうです。

たしかに、ドラクエの「ひのきのぼう」と「メタルキングの剣」が同じカテゴリーにあっても全く違いますからね。

 

まさか愛犬で裁判沙汰になるなんて思っていない頃に反町隆史ポイズン!って連呼してたじゃないですか?

これも3つに分けられるそうです。

 

  1. ポイズン(Poison)=天然&化合された毒の総称
  2. トキシン(toxin)=病原菌&生物毒が由来で毒物学と毒性学のことをトキシコロジー(toxicobgy)と呼ぶ
  3. ヴェノム(venom)=動物の毒のうち、毒蛇やサソリやハチなど毒腺を持つものの毒を指す

 

と、いうことはーー

名探偵コナンのアポトキシンは生物毒のカテゴリーに入りますね。

ではアポとは何なのでしょうか?

コンビニの傘の「APO」しか思いつきません。暗殺で傘が使われていたし…

「わしじゃよ、新一」

ア 、アガサ博士っ!

 

茶番はここまでにして先に進めます。

 

  • 神経毒=信号を阻害して麻痺や痙攣、心不全を起こす(フグのテトロドトキシン貝毒のサキシトシン、ボツリヌス毒素など)
  • 血液毒=赤血球や血管壁が破壊され、激しい痛みと腫れや吐き気をもたらす(マムシやハブなど)
  • 細胞毒=細胞膜の破壊やDNAへ傷害をを与え、奇形をもたらす(発ガン性物質、サリドマイド有機水銀など)

 

神経毒と血液毒については何となく知ってましたけど、細胞毒という概念があるんだなぁと初めて知りました。

だとすると、リオ五輪の際に話題になった小頭症をもたらす「ジカ熱 」は細胞毒のジャンルに入るのでしょうか。次世代へ影響をもたらす毒は恐ろしいですね。

 それと、毒の作用についても為になることがあって、例えばカビたパンを食べるのと、身体の中でカビが繁殖するのでは症状が違うということ。あとは、体内で増殖した菌やウイルスを薬によって殺した場合に毒素が排出されてしまって逆にダメージを受けることがあるそうです。その為に人間は下痢を起こして体外に排泄するので、下痢止め薬を使うと体内でドンドン増殖するから気をつけたほうがいいとのこと。

毒も怖いけど間違った民間療法やヤブ医者による二次災害も怖いですね…笑

 

さて、ここからは気になった点を抜き出しつつ感想を書いていきたいと思います。

 

フグはなぜ自分の毒にあたらないのか(64ページ)

最近の研究によると、テトロドトキシンはフグのメスがオスを引き寄せるときのフェロモンとして使われているらしいこともわかってきている。フグはテトロドトキシンの含まれているエサをそうでないエサよりも好む傾向があり、また、メスの卵巣に含まれるテトロドトキシンの量は、産卵が近づくと増加する。

〈中略〉

ところで、フグの部位の中で、もっともテトロドトキシンが多く含まれているのが肝臓や卵巣である。ところが、石川県ではその猛毒の卵巣を3年かけて塩と糠に漬けて毒を抜いて珍味として販売している。テトロドトキシンは加熱しても分解されない。フグ料理の専門店でもけっして卵巣が出てくることはない。だが、石川のフグの卵巣の糠漬けは、そんな常識をくつがえした。なぜ毒がぬけるのか、いまだ不明な点が多いという。

いやー。面白いです。

フグの毒の正体は「緑膿菌が分泌するテトロドトキシン」 それが生体濃縮によってピンピンコロリな殺傷能力をもつようになるそうです。

だから、養殖のフグには毒がないんですって。知りませんでした。

フグのナトリウムチャンネルは他の生物と違うから毒として認識しないとか、フェロモンとして毒を使ってる可能性だとか面白いなぁと思ったんですけど、そんなのどうでもいいから食おうぜ!的な石川県民チョー怖いんですけど。

 

 イモガイから鎮痛薬が生まれる(75ページ)

だが、このイモガイの毒であるコノトキシンは、近年ジコノチドと言う名の鎮痛剤として認可されている。コノトキシンによって痛覚神経を麻痺させることにより、モルヒネをはるかに上回る鎮痛効果が得られるのである。ラットを使った実験ではコノトキシンの鎮痛効果はモルヒネの1万倍といわれ、アメリカではすでに進行性のガンやヘルペスの疼痛緩和のために使われている。さらに大きな利点は、ほかの薬では治らなかった幻想肢症候群や神経性の痛みにも効果があり、習慣性もなく、耐性もできにくい点である。

イモガイの亜種は500にも上り、しかも一つの種が200近い毒を産生している。その意味でも、イモガイの毒には無限の可能性が期待できそうである。

先ほどのフグと同じように普通の二枚貝も生体濃縮で毒を蓄積するわけですが、イモガイさんは自ら毒を作って針に塗りたくって発射することで有名ですね。

幻想肢痛というのは事故や戦争で失った手や足に痛みを感じるという症状だったかと記憶してます。そうした症状に適量のイモガイさんの毒を用いることで痛みを取り除くという医学の進歩を感じるお話。

足の皮膚を食べてくれるドクターフィッシュみたいな感じで、ドクターイモガイみたいなの出てきたりして…。

 

海産物最強の毒(80ページ)

もともと「シガテラ」 とは、カリブ海に生息するシガと呼ばれる巻貝に由来する食中毒を指していたが、その後、熱帯・亜熱帯海域のサンゴ礁に生息する魚によって起こる食中毒全般を指すようになった。シガテラを引き起こす毒素には、シガトキシンマイトトキシンがある。これらはフグ毒のテトロドトキシンと同じく、魚自身が作り出すのではなく、もともとは渦鞭毛藻と呼ばれるプランクトンによって作り出された毒素である。これが食物連鎖によってイシガキダイやバラフエダイなどの体内に蓄積されて、魚の毒化が生じるのである。

なんと! シガテラ中毒も紹介していました。症例としてドライアイスセンセーションも記載されてます。シガトキシンよりも強いマイトトキシンパリトキシンは海産物最強毒素だそうです。

最近は寄生虫アニサキスばかりフォーカスされているので『アニサキスやばいよね!』とか言われたら『いや、マイト&パリには敵わないね!』と言ってあげましょう。

シガテラ中毒を海水温の上昇を理由にする意見があると思いますが、私はタックスヘイブン御用達のパナマ運河などの貨物船のバラスト水に渦鞭毛藻が含まれているのだと思ってます。

 

藻類って意味わからないですよね。この場合だと毒素を排出する点が注目されてますが、原発事故があってから放射性物質によって放射化した藻類が問題になったことがあります。(南相馬の黒い粉で検索すると分かると思います)

毒を持っている生物については何となく理解できるんですけど、放射線で細胞を切られても生き続けるって次元が違う気がするんです。藻類の闇は深い…(ナウシカ腐海とかけてみた←つまんね)

 

ハチの作りだす毒のカクテル(90ページ)

日本ではスズメバチの被害が大きいが、アメリカではキラービーによる被害が問題となっている。キラービーとは、蜜の収量を上げるためにブラジルの昆虫学者が、おとなしいが蜜の収量が低いブラジルのミツバチと、気が荒いが蜜の収量の高いアフリカのミツバチを交配させて作り出したものである。ところが、このハチが農業試験場から逃げ出し、野生化してしまって、しばしば大群となって人を襲うという事件が起きている。

「なにやってんだよ!笑」と笑ってしまいました。

ブラジルのハチおじさんが犯人かもしれませんが、行間を読むと経済合理性を求めたアメリカのオファーに答えた結果と読めないこともありません。

アメリカでは早く出荷するためにニワトリにホルモン剤をバンバン打ち込んで成長を加速させます。その薬漬けの肉を食べるせいで乳がんが増えていると言われています。そして、ホルモン剤を打つ必要が無いように遺伝子組み換え生物(GM生物)が生み出されています。

日本ではニシキゴイを放流することで生態系に影響を及ぼす可能性があると話題になりました。コイはなんでもかんでもバクバク食べますから世界的にヤバい魚として認知されています。

同じように、GM生物は短期間で巨大化することを宿命づけられているので食欲がパナいのです。もし野生化したらキラービーどころの騒ぎではないでしょうね。

人間は愚かですね。

 

 地上最強、ボツリヌス毒素(105ページ)

食中毒を引き起こす毒素型の細菌の中でも、極めて危険なものはボツリヌス菌である。ボツリヌスとは「ソーセージ」を意味するラテン語であり、その名のとおり、西欧ではハムやソーセージによる中毒として恐れられてきた。

〈中略〉

ボツリヌス毒素そのものは熱に弱く、100℃の熱湯で1〜2分の加熱で不活化する。ただし、芽胞は熱に強く、完全に破壊するには100℃の熱湯で6分以上の加熱が必要である。

〈中略〉

1984年、九州でカラシレンコンを食べた人たち36人がボツリヌス菌中毒になり、11名が死亡するという事故が起きた。中毒を引き起こしたのは日本にはいないはずのA型ボツリヌス菌だった。カラシを調べたところ、それがカナダからの輸入品であり、その中にボツリヌス菌の芽胞が存在していたことがわかった。この芽胞が真空パックの中で毒素を出していたわけである。

また、乳幼児に特有な乳児ボツリヌス症というものがある。よく、1歳未満の乳幼児にハチミツを与えてはならないといわれるが、これはハチミツにボツリヌス菌の芽胞が混入している確率が高いからである。成人の場合、少量の芽胞が消化管に入り込んでも、腸内細菌叢ができているため、たとえ発芽しても増殖が抑えられ、毒素も作り出せない。しかし、乳幼児の場合、この腸内細菌叢が十分にできていないため、芽胞が発芽・増殖し、毒素の産生が起こって、ボツリヌス菌中毒を発症してしまうことがある。

大切な部分なのでがっつり抜き出しました。これから梅雨に入りますからね。

ボツリヌス先生はA型〜G型の7つの毒素を作り出し、A型ボツリヌス毒素から開発されたのがボトックスだそうです。

いやー、勉強になります。美魔女とかいう人々は毒を顔に打ち込んでいることを理解してるんですかね。

ちなみにボツリヌス先生は冒頭の毒のタイプでいうと神経毒にあたり、血清療法まっしぐらだそう。

乳幼児のボツリヌス中毒も話題になってましたけど、例えばテレビの中でどこぞの黄色いクマ「ハチミツ食べたいなぁ(余裕で脳内再生できる)」って言ってたら子どもも食べたくなるでしょうよ。

ああ、なんて罪深いクマだろう。

私は小さい頃に卒園式で行ったD社のテーマパークで黄色いクマに足を踏み潰されたことがあって、未だに怨念を抱えています。あのモビルスーツは視界が狭いでしょうから、後ろにいた小さな子どものなんて見えなかったのでしょう。それは仕方ないとして、あの野郎おじぎの一つもねーでやんの。

小石でも踏み潰したと思ったのかな?

お前はゾウかっ!クマじゃねーのかよ!

いつかボツリヌス先生が8個目の毒で奴に天罰を与えてくれる日がくると思います。(なんの話だよ)

 

破傷風毒素は逆流する(122ページ) 

脊髄に到達したテタノスパスミンは神経細胞を興奮させ、体がつっぱって、激しいけいれんを起こしたり、あごが開かなくなったり、首が弓のように反ったままになるなどの神経症状を引き起こす。けいれんのときにかかる力は絶大で、ときに背骨の骨折を起こすほどである。ただし、症状の発言には感染から10日以上かかる。

これを読んでエクソシストの正体は破傷風なんじゃないかと思ってしまいました。

神経を逆流するという性質により、中枢神経の信号が逆に伝わって脊髄に行くそうなんですけど、だとしても背骨が折れるほど弓なりになるってやばいですよね。スーパーマリオRPGに出てくるユミンパという敵を破傷風のキャラにしたらいいと思った。(わかる人にはわかる)

 

 身近な野菜に含まれる毒2ーーナス、ピーマン、キャベツ(157ページ)

ピーマンの苦味はアルカロイド成分である。ナス科の植物にはアルカロイドを多く含んだ有毒なものが多いことはすでに述べたが、ピーマンもこのナス科に属している。

〈中略〉

もともと「苦み」という味覚は、動物にとって毒かどうかを判断する指標であった。動物は本能的に「苦み=毒」と見なして、苦みのある葉を食べるのを避けてきた。子どもの味覚にも、毒物を本能的に避ける鋭敏さが備わっているのだ(「良薬、口に苦し」というのも、薬=毒なのだから当然といえば当然なのである)。

いやー。植物の毒のパートも面白いです。

基本的に植物はアルカロイドを身に纏うことで外敵から身を守っているそうです。タバコに含まれるニコチンもアルカロイドの仲間で、乳幼児であれば2本のタバコを口にしたら致死量にあたるとか…

赤ちゃんは口に入れて物体を認知するので、お父さんお母さんは気が気ではないでしょうね。

ちなみにミツバチを大量に殺したネオニコチノイドはニコチンをもとに作られているので、もともと毒を持っている植物にネオニコチノイドをかけるというのは毒の合わせ技であって、串カツ屋なら二度漬け禁止に当たりますね。だからヨーロッパではネオニコチノイドの使用が禁止されていたりします。(串カツ屋の例えがイマイチだったな)

話を戻しますが、子どもの頃にピーマンやナスを嫌がることが当たり前であることがよく分かりますね。「アク」と呼んでいるものがアルカロイドであることを知っててやってる人も少ないと思います。

いやー。面白いなぁ。

 

ヒツジを不妊症にして身を守る(287ページ)

調査の結果、原因はヒツジの餌にするためにヨーロッパから持ち込まれたクローバーに、ある変化が起きていたことがわかった。

〈中略〉 

どうしてフォルモノネティンの量が増えたのか。それは新たにやってきたオーストラリアの乾燥した気候がクローバーをストレス状態にしたためと見られている。生存の危機的状態に置かれたクローバーは、草食動物に食べられすぎると生き残れない。そこでフォルモノネティンの量を増やしてヒツジを不妊症にして、身を守ろうとしたと考えられた。これも植物と動物の間の共進化の一例である。

ここまでずっと、基本的に生命の防御反応として毒が使われていることと、明らかな殺意を持った人間という生き物が生み出した化合毒について書かれていたのですが、このクローバーの話をそのまま受け取ると植物が確実に殺意を持ってますよね?

各植物は自分を食べる虫に対して有効な毒を出しているわけですから、この対象がヒツジであってもおかしくないとは思います。ただ、次世代に影響する毒を選択して分泌するなんて考えられますか?

薬剤師じゃなくてクローバーがですよっ⁈

こんな話を知ってしまったら『ハチミツとクローバー』は『ボツリヌスとフォルモノネティン』としか読めません。(病気)

 

 文庫版あとがきーーなぜ、人は毒に魅せられるのか?(293ページ)

「毒」という言葉には恐ろしさと同時に人を魅する響きがある。「オペラの毒にやられた」という言い方もあるように、人間でも芸術でも、適度な毒は深みや魅力につながると考えられている。芸術家の岡本太郎は「自分の中に毒を持て」といった。毒は既成の常識の枠を破壊し、世界の新しい見方を切りひらいてくれる。反対に「毒にも薬にもならない」という言葉は、刺激に欠けて、面白みのないことだ。

〈中略〉

大量の抗生物質で病原菌をたたいて、かえってもっと危険な耐性菌をつくらせるのではなく、病原菌の毒性を弱める方向へと菌を進化させる。そうした環境を人間がととのえてやればよいのではないかとイーワルドは述べる。人間が元気でないと病原菌も生きられないとなれば、いやおうなく病原菌の毒性は弱まる。人間と共存できるほどにまでその毒性が弱まれば、もはやそこに脅威はない。もちろん、それが可能なのは一部の病原菌に限られるだろう。しかし、同じ共進化でも、より強力な毒の開発という軍拡競争にむかうのではなく、毒を飼い慣らして、他の生物との共存の道を探っていくことこそ、テクノロジーという強大な毒を手にした人間が、いま、とらなくてはならない道なのではないだろうか。

あとがきのセンスもいいんですよ。

日常的な言葉から入って、専門的な話をして、最後に人間という生き物がどのように毒と共存すべきかという流れはとても分かりやすいです。

たしかに耐性菌が出現する早さと人間のワクチン開発の速度を考えると、いかに毒性を弱めるかにシフトすべきだと思います。人を助けるために薬を作るのではなく、私服を肥やすために薬を作る経済のあり方について考えるべきですね。

毒も薬も変化を促進する物質であるから、その物質自体を変化させることって難しいとは思います。

ただ、近年ではAIの機械学習であったり、医学の知識を持っていないゲーマーがHIVウイルスの解明をしたりと人間にも材料はあると思うのです。

科学者たちが10年費やしても解明できなかったHIVウイルスの酵素の構造をゲーマーが3週間でサクっと解明 : カラパイア

別のジャンルから新しいやり方を持ってきて、機械学習で効率化させることができればウイルスの毒性を弱めることも可能なのではないでしょうか。

そのアプローチを続ければ可能性を見出せると思います。

 

おわりに

読んでないと思われると思ってページ数を記載しましたが、

「鉱物毒・人工毒の秘密」

「麻薬とは何か」

「毒の事件簿」についてはあえて書きませんでした。

というのも、このラインは悪用しようと思う人間にとっては、日常にありふれた毒を使って人を殺すという殺人に繋がるからです。

私のブログを定期的に見てくれる方がいい人であったとしても、オープンアクセスの環境において記載すべきではないと判断しました。「夫の殺し方」と検索する鬼毒婦に毒の金棒を授けるわけにはいきませんからね。

 2月26日 物足りない - モブトエキストラ

少し話は変わりますが、2月ぐらいにバイオハザード7はスゴイと思ったんです。

それというのは恐怖をきちんと「恐い」と「怖い」で描いていて、プレイヤーを悪夢へと引きずり込むんです。

人によって恐怖を感じるものが違うとしても、その世界にいると少し慣れる。つまり抗体や免疫ができる。これって、ウイルス的だなぁと思うんです。

この本の中には薬物が脳にどのような作用を及ぼすのかについても記載されています。その中にラットの実験でテトラヒドロカンナビノール(THC)の投薬実験が紹介されていて、私が気になったのは集団では攻撃性が消失したのに個人になると攻撃的になったという部分。

【Yahoo! NEWSのコメント欄にはびこる嫌韓・嫌中について】ゲスト:木村忠正(立教大学教授) - モブトエキストラ

インターネット上でヘイトスピーチや罵詈雑言を繰り返す、いわゆる「ネットトロール」の正体ってこれじゃないかと思うんです。脳科学と心理学とで見解はズレるでしょうけど、相手を傷つけることが初期衝動で、これによって脳内物質が出て自己顕示欲が満たされる。その次に同調した第三者が「いいね」だとか「リツイート」をしてさらに承認欲求が欲しくなるという負のスパイラルだと私は解釈しました。

アウトプットがヘイトなだけで、売りものにつまようじを刺したり、おでんをつついたりするのも投薬実験のラットと同じで、集団であれば誰かが止めたことも、周りに止める人間がいなければそれを繰り返す。 エントロピー増大の法則の中で座標軸を誤った人間は星新一さんの「おーいでてこーい」的なオチが待ち受けているに違いない。

この本は買ってよかったなぁ。(おわり)

 

 

増補 へんな毒 すごい毒 (ちくま文庫)

増補 へんな毒 すごい毒 (ちくま文庫)