真実により紡がれる錯視
《担当編集者からお願い》「すごい小説」刊行します。キャッチコピーを代わりに書いてください! 『ルビンの壺が割れた』 | 新潮社
最近、本を読んでなかった私にとっては刊行前の本を無料で読めるだなんて棚ぼた企画に他なりません。ベテラン編集者が「すごい」と言うのだからさぞかし凄いのでしょう。
そのうえ「すごすぎてキャッチコピーが思い浮かばないよパトラッシュ!」というお手上げ状態で読者に考えてもらおうという企画に派生したそうじゃないですか。
見る人によっては『無料で読ませてあげるからキャッチコピーを考えてくださいという宣伝』にも取れるだろうし、『すごい小説なのにここまでしないと認知度が上がらない時代なのか』と思う人もいるかもしれません。私は本好きの1人として、無料で読ませてもらう代わりにキャッチコピーを考え、なおかつブログに感想を書くことにしたのでした。
いつもならこの文章のここがヤバイだとか、ここの部分がさっきの文章のここに対応してるだとか、引用文を多用して細かいところをネチネチ書くのだけど、今回に至ってはネタバレが一切NG!
ということで、「お前、さっきから何言ってんだよ」と思うぐらい抽象度の高い感想になるのをご容赦下さい。
ルビンの壺はエドガー・ルビン
…ということですでにネタバレ擦れ擦れのキーワードがぁぁ!(遠すぎて豆粒サイズだろ)
小説のタイトルってほぼ直喩と隠喩だと思うんです。
前者でいえば今村夏子さんの「あひる」
後者でいえば宮下奈都さんの「羊と鋼の森」
近いものでいえばーー
芥川龍之介「蜘蛛の糸」(罪人を救済するシステム)
蜘蛛の糸は直喩と隠喩の二つの側面があって、分かりやすくいえば「ジブリ方式」ですよね。内容を読まなくとも「ルビンの壺が割れた」も同じように直喩と隠喩の二つの意味が込められた作品だと分かると思います。
あと、時代が進むにつれてジャンルが無くなっていくことってあるじゃないですか?
音楽だとアリシア・キーズが出てきたあたりでR&BとHIPHOPの境目が無くなったり、アニメの舞台化を2.5次元と呼んだり、食文化だと蕎麦屋のカレーだとか、寿司屋でケーキが回っていたり。
この作品は旧来型の「本を読む」という形から、現代における読書の形を表現しているのが特徴的だと思いました。
ええ、具体的に言うとネタバレになりますから書けませんけど、評論家が「若者の活字離れ」って言ってもネットは活字で溢れてるわけです。プライベート死んでるけど文字が好きな人がTwitterをやり、プライベート充実してるけど文章が苦手だからInstagramをやるみたいな、多少の差別化があったとしても人間が言葉から離れられることはできないわけです。人間が言葉から離れる時というのは死ですよ。(おっと、誰か来たようだ…)
ストーリーに関してはそうだなぁ…。
編集者さんは衝撃を受けたかもしれませんが、私はそうでもなかったというのが率直な感想です。
というのも文章の端々に「会話の前提」となっている核心部分が散りばめられているのです。もしこれが連載小説の形(次週へ続く!ってミステリーを熟成させますよね)だったらさらに謎が際立ったかもしれませんが、今回は物語の7ページ全てが公開されているので驚きが半減したのかもしれません。それに登場人物が濃いから早い段階で匂いが漏れてて「コイツやってるな」って分かる人には分かると思います。
例えば、加計学園問題で菅官房長官が「怪文書だ」と言ったのを受けて前川前次官が「あったものを無かったことにはできない」と告発して騒動になっていますが、パーツが足りないことに気づいた瞬間に「不自然」は発生します。
その点で、この作品は極めて会話が滑らかに進むので不自然が尻尾を見せません。スーパーで買ったシラスに小さいタコが入ってたら嬉しいと思うだけで不自然だとは考えないように、無意識が働くほど想定外が多くなると言えるかもしれません。 だから、言葉の混入に気づいてしまう読者のほうが登場人物の思考回路を理解してゾワゾワすると思います。
とにかくこの作者さんはそうとう頭がキレると思います。
Twitterで検索したら「あっという間に読み終わった」という感想がありましたが、私は読み終わるのに3時間ぐらいかかりました。今は夏ですからスマホがよけいに熱くなりました。
読んで終わりではありませんよ。キャッチコピーを考えないといけません。ただ『ルビンの壺が割れた』というタイトルがとてもいいので、考えてる途中で「キャッチコピーいらないんじゃないか」と…笑
修飾するとネタバレになるから、タイトル以上のパンチラインが必要だと思った私は脳みそのチャンネルをラップに切り替えたのでした。
【キャッチコピー】記憶の坩堝の奥の方。ドツボに嵌るヒト科のケモノ。 #ルビンの壺が割れた
— 海老原いすみ (@ebiharaism) 2017年7月15日
(=゚ω゚)直喩も隠喩も修飾もできないなら韻で固めるしかない!
そう思ってズラズラ書き出してたら箱根駅伝のタスキになるぐらい長くなったので泣く泣く切りましたね。(まるでセレモニーイベントでおっさんがハサミで切るように)
以上で感想は終わりです。これ以上書くとルビンの壺に魔封波されますからね。(ドラゴンボールネタはもう最近の子には伝わらない)
読んでない方に「お前さっきから何言ってんだよ」と思って頂ければ成功です。
ただ、読んだ方で「寺尾聰…(ハッ! )奥様は18歳⁉︎」とか「羊と鋼の森…ハンニバル⁈」って考えた人はどうかしていると思います。もちろん、読んだうえで「お前さっきから何言ってんだよ」って思われたらもれなく絶望しかありませんよ。
おわり