モブトエキストラ

左利きのメモ魔が綴る名もなき日常

【100分de名著】「野火」の感想

狂人とは誰なのか?

100分de名著の感想記事を書くのは久しぶりになる。ずっと見続けてる数少ない優良番組であるし、三木清の「人生論ノート」もとても良かった。

じゃあ、なぜ書かないのかといえば、丁寧に感想を書こうとすればするほど引用文が増えて、著作権の侵害を理由にNHKにブログごと消される可能性を嫌ったから。前に特定秘密保護法が議論された時、運営にアメブロを消されたことをフラッシュバックするっていう。(うっ、頭が…)

なので今回は、ほぼ引用文なしのつまらない内容になる。

 

正直、「野火」が特集されると聞いてワクワクしていました。

というのも、量産される「戦う少女のアニメ」とか、戦闘だというのに胸を露出してるキャラのゲームとか、リアルとは程遠いフィクションを見て愛国心をそそり立てている賢者たちが増えた気がして、そこに冷や水をかける作品がテレビで放送されることが必要だと感じていたから。

今回の特集はその期待を軽く飛び越えましたね。フィリピンの原生林を模したセットとか、ずっとそこで生活をしていたように黒ずんだ俳優さんの演技だとか、朗読の抑揚もスタジオの論点整理も全部よかったです。

特に印象的だったのは、主人公が飢餓にあえいで人肉食に走りそうになる本能と、それを止める理性とが揺れ動く場面で、「死んだ人間を食べるよりも生きている植物を食べるほうが残酷だ」という無意識の理由づけをした時に伊集院さんが「これはダメだ…」と呟くシーン。

最前線では生きるために食料の交換を理性でやってる人間がいて、それもできなくなり生きるために人肉食を始めるっていう、理性が侵食されていく過程がリアルなんですよ。

前提として理性が本能に勝てないから戦争をやってるわけですが、まともに戦うこともできず共食いしてるというお粗末な現実が際立ちますよね。

 

知らない方もいると思いますが、この夏NHKでは東京大空襲、原爆投下、インパール作戦など、資料をもとにして緻密にマッピングする取り組みがありました。

とくにインパール作戦Twitterのトレンドになるほどの影響があったのですが、この「野火」の中にもそういう『無責任な上官』たちが拠点とする病院が爆撃されるシーンがあるんです。そこで主人公はニヤニヤが止まらず笑い出すのですが、私は「リアルだなぁ」と思いました。これもまた理性と本能の間の一コマですよね。

マッピングは人間が死んだ場所であると同時に何か考えたり、感情を残した場所でもあって、それを芸術として被ばく者の方が絵に残したり、文学として残してくれるのは戦争で得た数少ない財産だと思います。

 最終夜は塚本晋也監督も加わって、高校生の頃から映画化しようと考えていたとか、キリスト教の部分を取り去ってもフィリピンの原生林が自然崇拝と人間の愚かさの対比が可能と判断したとか、映画化に至るまでの貴重なコメントを述べていたので、ファンの方は必見だと思います。

名著68 「野火」:100分 de 名著

「この田舎にも毎夕配られて来る新聞紙の報道は、私の最も欲しないこと、つまり戦争をさせようとしているらしい。現代の戦争を操る小数の紳士諸君は、それが利益なのだから別として、再び彼等に欺されたいらしい人達を私は理解出来ない。恐らく彼等は私が比島の山中で遇ったような目に遇うほかあるまい。その時彼らは思い知るであろう。戦争を知らない人間は、半分は子供である。」
「野火」 三十七「狂人日記」の章より

最終夜は朝鮮戦争を背景に書かれたこの言葉の朗読で締めくくられます。

精神病棟に入院した主人公と、戦争を繰り返す為政者と、印象論だけで思考停止する人々と、果たして狂人が誰なのかを突きつける鋭さがありますよね。

 

番組終了後にサイトにあるプロデューサーさんのコラムも更新されて、キャスティングの裏側なんかも書かれていて面白いです。

作中では人間の中にある「エゴイズム」が「野火」として描かれていますが、負の遺産から学び「希望の光」にできる世の中であって欲しいです。

 

さいごに… 

ついでと言ってはなんですが、この共演がきっかけなのかTBSラジオでやってる伊集院さんの番組に島田雅彦さんがゲスト出演されました。ラジオならではの表現方法を話し合っていて興味深かったです。私もラジオドラマが好きなので「いいなぁ」と思いました。

放送はradikoのタイムフリーかラジオクラウドで聴けると思います。

あと、テレ東の「池の水ぜんぶ抜く芦田愛菜が参上すると伊集院さんが言ってたので見てみようと思います。

 

感想は以上で終わりです。

 

NHK関係なくなっちゃった!(ハライチのオチ)