モブトエキストラ

左利きのメモ魔が綴る名もなき日常

「この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた/著 ルイス・ダートネル/訳 東郷えりか」の感想

買ったぞ

11月23日 本屋行った - モブトエキストラ

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以前に気になってから、そのままだったこの本をようやく購入しました。誰に買われる事もなく、ひっそりと本屋の棚で私を待っていてくれたのです。「買ったぞ!」という事で、読んでもないのに目的を果たしたような気持ちになって一ヶ月間、積ん読状態になっていましたが封印を解くことに。笑

序章

P11
本書は生存者のための手引書だ。単に大破局のあとの数週間を、生きながらえることを念頭に置いたものではなくーーサバイバル術に関する手引書ならすでに多数書かれてきたーーむしろ、科学を応用した技術(テクノロジー)を使い高度に進んだ文明の再建を画策する方法を教えるものだ。

冒頭、核戦争など何かしらの要因によって文明が滅んだ場合に、現代人はどのように生きていけるのかを問いかける文章があります。その中でさっそく私のアンテナに引っかかったのが、トースターを分解して必要なものを原材料から全て調達したという具体例として挙げられていた「トマス・スウェイツ」の名前です。
「人間をお休みしてヤギになってみた結果/著 トーマス・トウェイツ/訳 村井理子」の感想 - モブトエキストラ

1年前に読んだヤギ男がここで繋がってくるとは。こういう無意識の繋がりが読書の面白いところです。

著者のルイス氏の狙いは、大破局後に生き残った専門的な知識を持たない人々にも分かるような百科事典をつくる事のようです。東京電力福島第一原発事故後に生きる私の頭の中に2つの作品が浮かびました。1つは小日向文世さんが出演した『サバイバルファミリー』、もう1つはマイケルマドセン監督の『100,000年後の安全』です。この2つの作品の違いは前提となる共通言語や認識があるかどうかですが、ルイス氏が作ろうとしている百科事典はどちらかと言えば後者の作品に近いのではと感じます。
「サバイバルファミリー」予告編 - YouTube
映画『100,000年後の安全』公式サイト

P20
解決策は、物理学者のリチャード・ファインマンの言葉に見出すことができる。
〈中略〉
「私の考えでは、それは原子仮説、すなわち、すべての物質は原子からできていて、永久に動き回る小さい粒子は、いくらかはなれているときはたがいに引き合うが、無理やり押しつけられると反発するというものだ」

ウィキペディアも無くなった世界において、ベースになるのがこの原子仮説であり、何も知らない人々に基礎となる原理を理解してもらったうえで応用してもらう事が必要だと書かれています。
『序章』はだいたいそんな内容で次に移ります。

第1章 僕らの知る世界の終焉

P39
どんな人びとが生き残るのか、その両極端の例を、「マッドマックス」・シナリオと「アイ・アム・レジェンド」・シナリオと呼ぶことにする。

第1章は創造しうる大破局後の世界をできるだけ言葉にする事から始まるのですが、正直文章が私にはつまらなく感じました。
アイ・アム・レジェンド」は誰も居なくなった大都会でウィルスミスが愛犬を連れてゴルフをしたりマネキンとダンスをするモンスターオチの映画ですが、まるでその視覚情報をひたすら記述しただけのドキュメンタリー番組のナレーションみたいな文章が続くうえ「銃をもっているのに使う必要がない事態のほうが、銃が必要なのに手元にないよりはマシだ」というようなまどろっこしい表現もあるので減点対象です。もっとギュッとしてくれないと私には刺さらない。進みます。

第2章 猶予期間

P57
ペットボトルは水を保存するだけでなく、殺菌にも使える。太陽光を利用した水の殺菌法(SODIS)は、太陽光と透明なボトルしか使わず、発展途上国における分散型の水処理方法として世界保健機関(WHO)が推奨している。

さぁ、やってまいりました。どうでもいい情景描写におさらばして、いよいよ実践編です。ウィルスミスよりも小日向さんのほうが合っているようなモードですね。

第2章の冒頭は避難場所の確保→火の確保→水の確保→食糧の確保と順を追って説明されています。火を起こす事については何となく想像がつきましたが、水をペットボトルに入れて6時間放置するとか、卵は冷蔵しなくても1ヶ月、超高温殺菌された牛乳は年単位、粉ミルクはさらに長期保存できるといった日常生活にありふれた物の使い方や限界点に関しては知らない事が多いなぁと思いました。とりあえず今の季節だったらコンビニのゴミの中から売れ残った恵方巻きを漁りたいですね。それをすり潰して焼いて煎餅にして長期保存みたいな。それで面白かったのがスーパーマーケットを独り占めした場合、ペットフードを含めると63年間は生きられるという事。これを知ると希望とは言わないものの、ワンチャンあるぞ!と思えてきます。(ペットフードだけにね)もちろんこの想定はあくまで全てが上手くいけばの話です。
食糧の次は燃料→医薬品→自家発電について触れられています。

P70
ディープサイクルと呼ばれる、別の設計の鉛蓄電池ならば、もっとゆっくりの割合で放電するので、そのほぼ全容量を問題なく繰り返し放電しては充電することができる。災害の直後に確保したいのは、この種の電池だ。

具体例として1990年代にボスニア紛争で自給自足の生活を強いられたゴラジュデ市の生活が挙げられています。インフラはセルビア武装勢力によって破壊されてしまい、人々はパドル型の水車と車のオイルネーターを繋ぎドリナ川に簡易型の水力発電装置を作ったそうです。
私はサッカーが好きなのでボスニア紛争の歴史について多少は知っているつもりでしたが、人々の暮しについては地下に避難していたぐらいしか知らない事に気付かされました。もしサバイバルする事になったら、暮しの手帖にも書いていないであろうこの実例を参考にしたいところです。

P73
したがって、大破局後の社会は僕らの残した金属やガラスは利用しつづけられるだろうが、プラスチックの時代は必然的に、化学が充分に再学習されない限り終わりに近づくだろう。

今世界中でマイクロプラスチックが問題になっていますが、大破局後の世界も例外ではないようです。加工しやすいプラスチックは劣化しやすいうえ、熱硬化性プラスチックは熱すると毒素が出てくるので再利用できません。つまり、レゴランドで暮らす事はリスクが高い。ただレゴは2030年までにブロックの素材を植物由来に変える事を発表しているので、10年後であれば生存者のリスクは今よりも低いと言えるでしょうね。(私はいったい何の話をしているんだ)

第3章 農業

P79
災害直後に本当に回収したいのは、在来作物だ。毎年かならず採種できる昔ながらの作物だ。
〈中略〉
種子バンクは世界各地に数百はあり、後世のために生物の多様性を守りつづけている。その最大のバンクは、ロンドンのすぐ郊外にあるウエスサセックス州のミレニアム・シードバンクだ。ここには何十億もの種子が、核爆弾にも耐えられる地下複数階の倉庫に格納されており、大破局後に不可欠となる図書館の役割をはたす。といっても、書物ではなく、作物のさまざま品種の図書館である。

ここまでは生存率を高めるために最低限のモノを揃えるとか、都市はエレベーターもまともに動かないしビルそのものが倒壊する可能性があるから農村部で暮らすのが安定行動だという話でしたが、第3章は持続可能な食糧生産がテーマです。著者はイギリスの方なのでイギリスの話を記載するのも仕方ありませんが、第2章の時点で名古屋のレゴランドに籠城してしまっているのでウエスサセックス州のシードバンクまで距離があります。どうしたらいいのでしょう?←今すぐ出ろ
日本の食料自給率は低いので食料の安全保障はボロボロです。さらに悲しい事にバカな政治家たちが種子法を廃止してしまったので、大破局後の日本で国民が飢餓に喘ぐ事は想像に難くありません。一部自治体では在来品種の保護を行う取組みもあるようですが望み薄。育てるっきゃないですね。
【F1種と呼ばれるタネについて】ゲスト:ゲスト:野口勲(野口種苗研究所代表) - モブトエキストラ

P94
地球上には膨大な種類の食用植物があり、そのごく一部だけが栽培用に選ばれ、さまざまな文明によって何千年ものあいだ選択的に育てられてきたが、栽培品種は推定七〇〇〇種存在する。しかし今日、世界中でつくられる農産物の八〇%以上は、十数種ほどの作物が占め、南北アメリカ、アジア、およびヨーロッパの主要な文明は、わずか三種類の主要産物のうえに築かれた。トウモロコシ、米、小麦である。これらの植物は、大破局後の復興においても、同じくらい重要なものとなるだろう。

ここらへんは農業の基本原理であったり、農機具の重要性や適切な土壌を作り出す必要がある事が記載されていました。また、食料が欲しいのは人間だけではありませんから、動物や虫などの食害や作物が病気になる事も考えなければなりません。
これらを想像してみると『鉄腕DASH』とほぼ同じ暮らしになるわけですが、近くに農機や工業の知識を持っている人がいるとは限らないし、免許センターで重機の試験を受ける事もできません。そもそも生存者の数も不明なので、確定しているやるべき事を実行できるだけの条件が満たされない確率のほうが極めて高いと思います。そうなると、米もトウモロコシも小麦も諦めて他の物を食べたほうがいいのではないでしょうか? 例えば成長速度で群を抜いているのが竹です。国内では話題になりませんが、その成長速度から海外では危険な外来種だったりします。
毎日タケノコってどうですか?
私は嫌ですけどね。←書かなくていいやつ

P99
ノーフォークの四輪作法は、こうした歴史上の農法の中で最も成功した制度で、十八世紀には大いに広まり、イギリスの農業革命の先陣を切った。ノーフォーク農法では、それぞれの区画で作物が、豆類、小麦、根菜、大麦の順に次々に耕作された。

畑が痩せるから休ませるという事は聞いた事があったのですが、豆類が土壌へ窒素を還元する働きがあるなんて初めて知りました。タケノコなんて食ってる場合ではありません。千葉県民の私は大破局後の世界でピーナッツを育てる事が最適解なのでしょう。ただ、この農法は畑とは別に家畜を育てる必要があり、その肥やしや牛乳や卵や肉も含めたエネルギーの循環が必要となります。日本で言えばアイガモ農法が代表例。(カモを泳がせてバタ足でかき混ぜつつ、虫を食べてもらいつつ、糞を肥料にしつつ、最後は人間が食うっていう…)

P105
下水を処理する際の主たるコツは、糞尿の溜まり場でヒトの腸内細菌に外界の微生物と競わせることだ。生存競争によって、細菌は負けるだろう。現代の下水処理場は汚泥のなかに空気の泡を送り込み、酸素を必要とする微生物の繁殖を促すことで、このプロセスを早める。

人間の排泄物を利用する事で、腸内細菌の働きにより病原菌の繁殖を抑制するというアイデアが記載されています。しかし、まともなモノを食べていなければ土石流でしょうから、ヤクルトやら正露丸の確保が必要でしょうね。それとこの部分を読んでいて思い出したのですが、映画『オデッセイ』ではまさにコレをやっていましたよね。火星でジャガイモを育てる際に堆肥として自分の便を利用していたのです。(フィクションだけどね)
破局後の世界では『鉄腕デッセ!』な生活になるわけですね。←滑っても書く勇気だけは評価してほしいと思うのです

第4章 食糧と衣服

第4章は人類と料理の関係から始まって、大破局後の世界では保存食の有無が生存率を大きく左右するという話に続きます。

P119〜120
パンは要するに焼いた粥でしかないが、栄養をとる効率のよい手段として、誕生した当初より文明を支えてきた。
〈中略〉
酵母(イースト)は単細胞の菌である微生物で、腐った木の幹から生えてくる毒キノコとさほどかけ離れていない。
〈中略〉
実際、大破局の混乱期にこの微生物が失われる前に、スターター[発酵種]の蓄えを救い出すだけの冷静さがあれば、しめたものだ。酵母は微生物ながら、牛や馬と同じくらい活動的によく働く生物だからだ。

砂糖はサトウキビ、サトウダイコンの根や蜂蜜から抽出し、塩は海水から抽出する事ができます。それらを使って発酵食品を作る事ができるようになります。

近年では塩麹ブームというのが流行りましたが菌もまた生き物です。発酵の道も奥が深い。(プロフェッショナル仕事の流儀で見た微かな記憶を頼りに書いているんだぜ。リンクも貼っておくぜ)

浅利妙峰(2012年8月27日放送)| これまでの放送 | NHK プロフェッショナル 仕事の流儀

パンを作る場合はたしかレーズンから天然酵母を培養できたはず…。小麦を栽培しつつぶどう農園を作るのも良いですね。サッカー選手のイニエスタみたいにワインを作れば富豪です。(資本主義があればの話)

P126
缶詰加工の主要原理は、熱することですでに存在している微生物を不活性化させ、さらに別の微生物が食品を再び汚染して腐敗をもたらすのを防ぐために密封することだ。

これまでは料理の側面としての食品加工が記載されてきましたが、ハード面としての保存として画期的な発明である『缶詰』が紹介されています。
古代ローマのガラス職人でも密封性の高い容器が作れるんだから君にも作れるさ!」ぐらいの感じで書かれてるのですが、ゼロから作れと言われたらちょっとハードルが高い気が…。酒屋さんで空き瓶を調達するとか、デパートのお歳暮コーナーみたいなところで瓶入りのカルピスを手に入れるぐらいしか思いつきません。シーチキンやら焼き鳥の入ったブリキ缶なんてどうやって再利用したらいいのでしょう? 100均のグルーガンでフタをとめたところで、殺菌のために熱処理加えたら溶けますよね? はんだごて?
空き瓶を調達できてもコルクの木なんて自生してませんしねぇ。保存食を保管するのムズいわぁ…。

P132
本書が中心とするのはウールだ。ウールは大惨事が起きたあとも、綿や絹のような代替物にくらべて、地理的にはるかに広い範囲で手に入りつづけるはずだからだ。

缶詰加工の次は衣服の生産についてです。著者は「手に入りつづけるはずだ」と書いていますが私達がサバイバルするのは日本です。野生の羊も居ないし、綿なんて自生しているのでしょうか? 蚕だって天皇陛下が育ててるぐらいしか居ないのでは…。
あっ! 千葉県にはマザー牧場がある!やったでおい! 衣服の生産拠点を確保できるうえに膨大な量の堆肥もゲットできる! マザー牧場TUEEE!
長らく東京の植民地として位置付けられてきた我ら千葉県民が大破局後にはトップに躍り出る可能性が浮上しました。(私の頭の中での話)
ピーナッツで土壌を回復させつつ、平野部で作物を作り、マザー牧場でウールを生産し、浜辺では海産物を取りつつ塩も生産できる。しかも茂原あたりだったか、天然ガスが湧いてるスポットもあるし、チューリップも栽培してるから養蜂もできて蜂蜜もゲットできる。ポテンシャルは相当高いですよね。
問題は全てワンオペ(私だ)で、過労待った無しの状況という事と、東海第二原発が爆発したら関東平野はお終いという事です。
結局、文明に頼っている以上は不確定要素に左右されるわけですが、仮にどんなに土地のポテンシャルが高くともゲームの『Fallout』を地で行くのはキツすぎますね…。

第5章 物資

第5章では日常的にエネルギーを生み出す物質について記載されていて、大破局後の世界でも手に入る有能な物質として木炭が挙げられています。
炭焼きのやり方なんて私は知りません。不完全燃焼させる事で炭化させるのだとしたら、保存食で燻製を作る時のやり方と同じなのでしょうか。

P148
食塩水で肉の切り落としをゆでて、表面に浮いてくる固くなった脂肪の層をすくえばよい。

意外だったのが牛脂を集めて蝋燭を作るというアイデアです。家の近くに吉野家すき家松屋がある方は静まり返った街の中で、ひたすら牛肉を茹でてアクを集める作業をすると良いでしょう。私の家の周りには牛丼屋がないので、自生する菜の花をかき集めて菜種油を抽出しようと思います。

P155
前述した工程を経る事で、薪なり海藻なりを焼くと、一キロ当たり約一グラムの炭酸カリウム[カリ]ないしは炭酸ナトリウムがそれぞれ得られる。

衛生面のケアをするために石鹸を作る必要があり、その文脈で薪を焼いた灰を水の中に入れ、上澄みを捨てて水溶液を煮詰めてアルカリ先輩を手に入れるという話。これは面倒くさいですね。それでも清潔を保てる事で生存率が上がるから力説されているのでしょう。ただ結局、エネルギーの循環を考えると使い終わった汚水が環境に悪影響なのかどうかが気になります。どうせならヤシノミ洗剤のように、人と環境に優しいものでないといけないのではと思いました。

第6章 材料

P171
少量の砂と水と混ぜると、消石灰モルタルになって、レンガをしっかりとつなぎ合わせ、何千年ものあいだもつ頑丈な耐久壁となる。

第6章は文明を復興するために欠かせない材料についての紹介がメインです。
消石灰は石灰を900℃で焼いて生石灰を作ったあとに水と混ぜると作れるっぽいです。小学校の運動場でサークルを描く時に使ったやつとか使えそうですね。あとは鉄を抽出する製鉄技術と変化させる鋳造技術について書かれているのですが、正直読んでいて眠くなりましたね。地味なのにムズイんですもん。

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(木を木材で焼き木炭、粘土を焼くとレンガ、砂を焼くとガラスの出来上がり。周りに木がない場合は鉄を掘り、バケツを担いで地下深くのマグマを熱源に使うというのがMinecraftの世界の知恵)

Minecraftだったらレンガもガラスも簡単に作れますけど、1650℃に耐えうる窯を製作する時点で匙投げますわ。ただ、面白かったのが砂漠に落雷が落ちるとごく稀に「フルグライト」「閃電岩」というガラスの管が生成されるそうです。鳥取県にお住いの方は砂丘でガラスを生成できますね。千葉県にも月の砂漠がありますが、カメが産卵している場合があるのでそっとしておきましょう。

第7章 医薬品

第7章は『医薬品』というか『医療』について書かれています。難産の際には産科鉗子が必要になるとか、診断の際には聴診器が必要になるという話に始まり、必要だとしても医療研修が途絶えた世界では専門的な知識が分からず、学術書もろくに読む事もできなくなってしまうと
いう懸念があります。

P208
だが、植物の抽出物からつくった粗雑な煮出し汁やチンキ剤に伴うリスクは、化学分析の力を借りないことには、有効成分の濃度がわからず、大量に摂取すれば危険なものになりうる点にある。(ジギタリスのように、心拍数を減らす作用がある場合はなおさらだ)。効果があがるだけの適量を探りつつ、致死量にいたるほど多すぎないようにすることを考えると、適切な投薬量は非常に限定されているのかもしれない。

破局後の世界では人間は植物におんぶに抱っこです。
例)
柳→解熱剤
ラベンダー→精油に消毒剤&消炎剤
ティーツリー→油に抗真菌剤
ジギタリス→ジギタリン(不整脈に使用)
キナの木→キニーネ(抗マラリア薬)
トウガラシ→カプサイシンに鎮静効果
ミント→冷却効果
このように植物からは薬品の主要成分を抽出することができます。日本でポピュラーな薬草といえばヨモギでしょう。傷口に塗って使ったり食用にも使えますから汎用性は高い植物でしょう。ただ、ヨモギに限った話ではありませんが河原に生えている野草はわんわんおーたちの黄金シャワーを浴びている可能性があるので使いたくないですね。
話はこの後手術について触れられるのですが「生体構造を理解しているか」「無菌が保てるか」「麻酔はあるか」という3つの要件を満たしていないのであれば行うべきではないと書かれています。ただ、この後の表現がグロくて、どうしても行わないといけない場合の想定として「肉屋の鋸で壊疽にかかった手足を強引に切断するなど」って書かれているのです。笑
肉屋って必要ありませんよね?笑 著者であるダートネル氏のサディスティックなものが出てる気がします。

第8章 人びとに動力をーーパワー・トゥ・ザ・ピープル

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(P223より)

これまでは自然と人間によるエネルギーの循環がメインでしたが、第8章は運動エネルギーの循環です。

P223の挿絵はとても分かりやすくて、ギアを使用することで縦のエネルギーが横に変換されて石臼が回転しています。とても簡単な仕掛けなので小型のものなら作れそう。

でも小さな部品を作り出すのはかなりの苦労。ゾンビ映画アメリカ人みたいにホームセンターへ向かうのも良いでしょうが、さらに専門的な工具が必要な方にオススメなのが秋葉原にある『DMM.make AKIBA』です。ここは3Dプリンターなどの何千万円もするような機械を貸してくれる施設なので、困った時に訪れるといいかもしれません。←現代アートのドキュメンタリーを見た時に知った

話を本に戻しますが、私は物理学が大好きってわけではないのでトリップハンマーやらクランクやら蒸気機関やらバグダッド電池」と呼ばれるオーパーツ的な話をされても分かりません。端折って先に進みます。(うわぁ、オーパーツ気になるぅ)

第9章 輸送機関

P250
ガソリンを動力とする車に利用可能な代替物はエタノールだ(これは第4章で述べたとおり、発酵によって生産できる)。ブラジルはアルコール燃料の乗り物では世界のトップを走っている。同国の道路で走るすべての車は、ガソリンに二〇%のエタノールを混ぜた燃料から、一〇〇%のエタノール燃料までを使って走っている。

メンテナンスされなくなったアスファルトはひび割れガタポンになり「虫いるかなぁ?」と蹴ったところで地団駄を踏んでマルセイユルーレットを決めるしかありません。(ぼくのなつやみ+ジダン=お前何言ってんだよ)
だとしても移動手段は必要不可欠です。枯渇しないものを燃料としている事例としてブラジルのエタノール燃料が紹介されています。私はこの事を初めて知りました。一方作者はこの本が書かれた時に、まさかブラジルの博物館が全焼して極右政権が誕生するなんて知る由もないでしょう。ぞわぞわ。ざわざわ。

P251〜252
ディーゼル・エンジンはかなり汎用性があり、バイオディーゼル燃料に加工した植物油で走ることができる。
〈中略〉
バイオディーゼル燃料にはほぼどんな植物油でも利用可能だ。菜種は面積の割に(ヒマワリや大豆のような作物にくらべて)大量の油を産出するので、[農地面積が限られた]イギリスに適した作物だ。

ここで菜の花が大活躍しそうな展開になってきました。黄色い絨毯はもこみちも羨む油田と化し、さらに食用にも転用が可能。油と食料&飼料というダブルのエネルギー補給が可能です。ただ、日本には野生の馬も牛もいませんから、大破局後の動力不足は深刻。(千葉県ってけっこう広いし)競走馬は速く改良されいるので骨がもろく労働には不向きです。北海道のばんえい競走馬みたいなムキムキの馬じゃないと過労END。
そう考えると犬ゾリって凄いですよね。人と犬の共存を象徴するような移動手段。もしそれを日常で再現できたなら、目から鱗が落ちる移動手段になるかも。(まぁでも、犬と良好な関係を築いても動物愛護団体に潰されるか…)

第10章 コミュニケーション

P281
原始的なペンもやはり、昔ながらの方法でつくることができる。鳥の羽根(歴史的にはガンかカモが好まれた)を湯に浸し、羽軸内の物質を引っ張りだす。先端を[斜めに]切り込んで尖らせてから、底面を緩やかなカーブを描いて栽ち落とし、典型的なペン先形にする。尖った先端からやや奥まで切れ込みを入れることで、書きながらインク壺にペンを浸けるたびに、ペン先にわずかなインク溜まりができるようになる。

人の居ない世界では伝聞能力も大きく衰えます。

第10章は紙→ペン→印刷というように、日常生活ではあたりまえの筆記用具の作り方からスタートしています。

私はメモ魔なので紙とペンが無いというのは耐えられない。しかも左利きなので日常でも「ジェットストリーム」というボールペンじゃないとインクも出ない有り様です。紙を作るのは難しいかもしれませんが、羽根ペンなら作れそうな気がします。左利き専用の羽根ペンを量産して、ゾンビに突き刺して血文字でダイイングメッセージを書きなぐってやるんだ!(脳の世界観は末期的)

次に電気通信についての問題が出てきます。大ざっぱに言うと機械や送受信といったハード面の問題と、モールス信号のような共有可能な知識の問題の2つなんですが、ここも読んでるうちに眠くなってしまい、ラーメンズのコントを思い出しました。

 ラーメンズ『椿』より「時間電話」 - YouTube

難しいですが、ラジオは聞きたいので世界が滅んだら作ってみたいです。

第11章 応用化学

ここからさらに面倒な話になってきます。「電気分解周期表」ですってよ。うわー、苦手ですわ。高校の頃にムツゴロウさんみたいな顔をした化学の教師が嫌な奴だったとか、物体は安定を求めるとか、そんな中にも希ガスという存在があるのは面白いよね。ーーなんて思い出しているうちに「爆発物」の話です。

P308
爆発物は猟銃でも、採石・採鉱で岩壁に穴を開けるうえでも、トンネルや運河で発破をかけるにも、とてつもなく役に立つ。そしておそらく大破局後の世界で最も重要なことは、長らく放置されていた区域にまで文明が再び勢力を拡大してくるにつれ、荒れ果てて危険になった高層ビルを解体して、その構造部品を取り出し、再開発のために更地化する作業だろう。いずれにせよ、科学の知識そのものは中立的だ。それを応用する目的が、善か悪かなのである。

文明の復興によって再び大きな力を手に入れた時、考えられる負の側面は戦争です。その中心になる技術が爆発物であると同時に、コンクリートジャングルを更地にするには必要不可欠だという話ですね。
世界が滅んだ後の千葉県は人間とキョンの勢力争いが始まるので、もしかしたら全米ライフル協会みたいな猟友会が設立されるかもしれません。
先日「This Is America」がグラミー賞に輝いたのでBGMとして聴きましょう。
Childish Gambino - This Is America (Official Music Video) - YouTube
話を本に戻すと、火薬の他に粉塵爆発についても触れられていました。数年前に台湾のイベントで大規模な粉塵爆発が発生したのは記憶に新しいですが、コントロールできるようなものなのでしょうか?
楽しいフェスが一転大惨事に…500人負傷のカラーパウダー爆発事故に学ぶ『粉塵爆発』の危険性 - NAVER まとめ

P311
火薬よりも威力のあるもう一つの爆発物がニトログリセリンだ。
〈中略〉
これは手に負えないほど不安定で、わずかに誘発されただけでも、目の前で爆発しかねない。その破壊力を安定させるためにフレッド・ノーベルが見出した解決策は、衝撃感度の高いニトログリセリンをオガクズや粘土のような吸収力のある材料の詰め物に染み込ませ、棒状のダイナマイトをつくることだった(この発明によって得た財産を使って、ノーベルは科学、文学、および平和の分野で人類に貢献した人に贈られる有名な賞を創設した)。

ニトロについてはレースをテーマに扱った作品でしばしばアイコンとして描かれ、推進力を得ると共に爆発オチで楽しませてくれます。しかし、我々マインクラフターにとっても例外ではありません。クリーパーは昼夜を問わずに出現し、我々の創作物を破壊します。そしてクリーパーから手に入れる事のできる火薬を用いてTNT爆弾が手に入るのですが、タチの悪い迷惑行為をするユーザーは水を得た魚のように創作物を破壊します。
マインクラフトでデンマーク政府が国土を4兆個・1TBもの超大作で再現したらぶっ壊されまくる事態に - GIGAZINE
例えば、デンマークでは1テラバイトものデータを使い、国を丸ごとMinecraftで再現するという途方もないチャレンジが行われユーザーに解放されていたのですが、TNT爆弾禁止をかいくぐりTNTロッコに目を付けた一部のユーザーにより国土の一部をアメリカに占領されました。(笑)
このように平和的な取り組みを行っても、殺傷能力の高いモノを手にした人間は一瞬で多くの努力を水の泡にしてしまうのです。

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(火をつける一択よ)
もし、世界の終末を迎えた千葉県に爆弾野郎が出現したら火打ち石で起爆させたいと思います。
(ボケが思いつかなかったので「写真術」と「産業化学」は割愛)

第12章 時間と場所

第12章は時間経過と場所について。
『劇場版名探偵バーロー』で、時計の短針を太陽に向けて、短針と文字盤の12時の中間が南という雑学を知ったのですが、これって前提条件として時計が正確に動いていなければなりませんよね。とすると、マヤ文明みたいに日時計を作らなければいけませんね。(ちなみに『鉄腕DASH』の企画で、時計もなく窓を閉め切った部屋の中で今何時なのか当てる実験をした際に、城島リーダーは手塚治虫の『ブッダ』1巻あたり何分で読み終わるのかを元に時間を算出していましたよ)

P340〜341
したがって、生存者があまりにも後退して、誰も記録を取らない時代がつづいて歴史の糸が途切れたとしても、天体の時計仕掛けにしばし目を向ければ、まだいまが何時であるかを解明できるようになるだろう。

天体から周期性や方角を見出すのはさほど難しい事ではないのでしょう。でも、私は目が悪いので夜空の星が見えない可能性が高い。ガラスの技術を発達させないとレンズは手に入りませんから、眼鏡が無くなったら全般的にアウトです。そうしたら、指標植物を見つけて季節を判断するのもいいですね。(桜の開花宣言とか未だにやってるし)

第13章 最大の発明

第13章は長さや重さの単位と、その延長線上にあるセンサー技術について触れられ、科学と技術と否定と研究を重ねてより良い世界を作っていこうぜ的な文章で締めくくられていました。

おわりに

P382

再建するまでどのくらいの年月がかかるだろうか? 技術社会は世界規模の大破壊のあと、どのくらい早く回復するだろうか? 文明を再建する鍵は本書のなかにあるかもしれない。

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『おわりに』については総括した内容なのでとくに感想はないのですが、本の最初のほうにあった「アイ・アム・レジェンド」みたいな描写がここに活きてきました。もう少し具体的に表現すると、避難訓練を終えた後に災害を見つめている感じです。『おわりに』と言いながら、読者が世界の終わりと出会うのはこれからという構成になっているので読了感は良いです。

ここからはこの記事における「あとがき」になります。(ややこしいですが)
まず、なぜ私がこの本を手に取ったのかといえばーー

  1. 装丁のデザインがカッコ良かったから。
  2. サバイバルのジャンルの本は今まで通ってきていないので、実用書にもなるものを読んでみたかった。

この2点です。とくに表紙に描かれているマネキンのようなロボットのような絵と『この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた』というタイトルの相性が良すぎて、ワクワク感を抱かせるものがありました。
ただ、内容は文章が主体となっている実用書なので「知識がないと単語を想像できない」という部分が多くあります。著者の狙いが大破局後の人々に分かるように記載する事であれば、説明を修飾するうえでも写真は必要不可欠でしょうし、「よりカジュアルで、より専門的な本」にする必要があると思います。恐らくそれは著者自身も自覚しているからこそ、コミュニティのURLであったりTwitterのアカウントを記載して議論へと誘導しているのでしょう。
つまり、この本の位置付けとしては「完成形ではないが大破局後の世界において即戦力に繋がるもの」だと思います。人工物は頑丈ですから、いきなり無くなるという事もありませんし、だからこそ人工物から必要なパーツの取り出し方が記載されているのだし、生きる為のエネルギーの循環と、生き抜くための知識の循環が書かれているので、そこは親切設計に感じました。
あえて物足りなく感じた部分を書くとしたら「カッコいい文章」でしょうか。刺さる言葉がないというか何というか。実用書なので仕方ないですが、読む側からすると説明口調が多いと眠くなってしまいます。哲学の本なども眠くなる事はあると思いますが、抽象的な概念の場合は読み手に考える余地が残されているからギリギリ耐えられると思うのです。でも、実用書の場合は冒険のないドラクエのモンスターを配合するような作業が続くので単調です。だからこんな感想記事でさえ、発作的にボケたり、レゴを取り出したかと思えばいつの間にかMinecraftの話になっているわけです。早い話が実用書や専門書というのは必要な人に届くべき知識であると同時に、読む人を選ぶジャンルでもあるのでしょう。

さんざん書いておいてアレですが、感想文は書きにくかったです。まぁ、でも読んだ事で知識は増えたし、仮に大破局後に私が死んでしまっても家の中を訪れた盗人猛々しい生存者がこの本を見つけるかもしれません。千葉県は最高峰のポテンシャルを持っていると確信したのでたくましく生き延びてくれるのではないでしょうか。

ご先祖さまはスカベンジャー。

(おしまい)