モブトエキストラ

左利きのメモ魔が綴る名もなき日常

「時代の異端者たち/著 青木理」の感想

日本人と戦後70年

JamTheWorldのプレゼントに応募したらなんと当たってしまいました。

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(☝︎ ՞ਊ ՞)☝︎いえええええええええぁぁぁぁぁぁぁ!!(ココがこの記事のテンションのピークです)

表紙は黄色と黒の警告色に加えて、表題である「時代の異端者たち」には切れ込みが入っています。
そこに名を連ねるのは翁長雄志美輪明宏、木谷明、武田砂鉄、白川優子、河野洋平、北丸雄二、半田滋、平嶋彰英の9名。
「切れ込み」は分断とそれに伴う痛み、そして首を切られた官僚を意味するものに感じられます。
内容は対談形式なので読みやすく、それが故にその場にいる人間の口から出てくる「言葉の重さ」を活字として視覚情報で捉えた時に「これがこの人を組成している言葉なのかぁ」と体感する内容でした。
それぞれの章で印象に残った部分について感想を書きたいと思います。

はじめに

P6
つまり本作に登場する人びとは本来決して「異端」ではないし、「異端」であるべきではない。それでも本書の幕開けにふさわしいことを書けば、たとえ「異端」であったとしても彼ら、彼女らのような者たちが同時代に存在したことは、このろくでもない現実にかすかに灯された希望のようにも私には思われる。

「はじめに」という言葉でありながら、「おわりに」でも差し支えないような内容。この言葉を導入に置いている点で、世の中が逆転しているのではないかという予感を抱かせる始まりです。

翁長雄志

P12
沖縄の側から見ると、それをできたのは27年間も沖縄を米軍にあずけて、ベトナム戦争ではそこからB52が毎日飛び立っていって、枯葉剤から何からまだ残っているような状況で沖縄をベースにしながらやっていたんではないですかっていう想いが消せないんです。そういったことに一切触れずして、復帰から43年も経って、いまだ基地問題が抜本的に解決されないというようなことが大きな問題だと思うんです。

ドイツのメルケル首相が新型コロナの対策として移動を制限しなければならない事を国民に伝えた際、自分は東ドイツ出身なので移動の自由がどんなに大切な事なのかは分かっている。そのうえでお願いをしなければならないと訴えていましたが、日本で同様のメッセージを発する事ができる政治家がいたとすれば日本でもアメリカでもない時代を知っている翁長さんだったと私は思います。
「はじめに」で青木さんが「彼ら、彼女らのような者たちが同時代に"存在した"ことはーー」と、過去形を含む言い回しをしていましたが、翁長さんはもう居ません。しかしながらこの対談における言葉はとても重たく、そして血肉に刻まれたものである事を理解します。
そしてその眼差しは沖縄県民が平和的な日常を生きる事ができるよう向けられていて、日米同盟の重要性も安全保障上基地が必要なのも理解したうえで、日本の0.6%の面積しかない沖縄に73.8%の米軍基地施設を押しつけるのはおかしいと、あの27年間はなんだったのかと訴えています。
補足で書いておくと、安倍政権は翁長知事に対して冷遇したうえ、菅官房長官(当時)は歴史に対する理解を示さなかった事が報道で伝えられています。

翁長氏「菅氏とは別の戦後を生きてきた」 似た経歴でも異なる原点 基地問題で対立:東京新聞 TOKYO Web

菅氏の答えは「私は戦後生まれで、歴史を持ち出されても困る」。乾いた言葉に、翁長氏は「お互い別々に戦後の時を生きてきたんですね。どうにも擦れ違いですね」と無力感をにじませた。

そして現在、菅政権は沖縄戦の遺骨が眠る地域で土砂を採掘し、基地建設の埋め立てに使おうとしています。
「遺骨混入の土砂が使われることは絶対にない」 鉱山開発の業者に一問一答 | 沖縄タイムス+プラス ニュース | 沖縄タイムス+プラス
沖縄戦で亡くなった方の遺骨を基地の下に埋めるという行為は、許せないとか非人道的といった言葉さえ生温い、地獄に堕ちるしか救いがないほどの愚行だと思います。
……。
自分で書いておいてなんですが、38ページ読んだ感想が「地獄に堕ちろ!」って早っ!
あと翁長さんが言っていたのは今後オスプレイが100機以上来ることは既定路線という事。
特権を問う:住宅街、低空飛行常態化 基地と都心結ぶルートか 機体確認困難、行政動けず | 毎日新聞
最近になって米軍ヘリがスカイツリーだったり、世田谷だったり都心で市街地戦の演習をしているのではないかと毎日新聞が報道してますが、沖縄ではこれが日常であるという事に気付かないといけませんね。
対談の後半では同席していたジブリ鈴木敏夫さんも会話に加わっていて、読み応えのある貴重な対談でした。

美輪明宏

P59
もっと自由に、みんながそれぞれ共存共栄しているのが大事なんです。同性愛者もいれば異性愛者もいるし、いろいろな人がいる。なのに同性愛を否定したり、古くさい家族観をふりまわしている連中、政治家とかメディアの連中は、無知で傲慢なのであって、知に目覚めるべきです。それこそが知力です。

美輪さんとの対談は、戦時中に竹槍を作らされていた話、現行憲法の草案は日本人が作ったものであり押し付けられたものではない事、鎌倉時代までは男女同権だったという話など多岐にわたります。
LGBTQの問題であったり、夫婦別姓の問題であったり、明らかに政治家は国民の認識とズレているのに国民はその政治家を支持するという病。知力の低下を嘆く内容となっています。
ただ、読んでいる途中で一つ思い出した事があります。2019年に今村夏子さんが芥川賞を受賞した際に初めて私は文藝春秋を買ったのですが、その中で有働由美子さんと美輪さんの対談が載っていて、結構なルッキズムな発言をされていたなぁと。

有働 では、しばらく安倍首相で変わらないのでしょうか?
美輪 他に適任者がいないんですよ。というのも、まずは背丈の問題です(笑)。国際会議などでトランプ大統領ら各国首脳と並んだ時に、背が低く、少しやせ形で、貧相な背広を着た政治家が彼らと一緒に立って、日本代表として写真を撮られるとなると、それだけで日本のマイナスです。

文藝春秋 2019 9月号 P428より)

この後、「身長はともかく」と有働さんがフォローしつつ、「政治家で信用できるのは自分の命を引き換えにしてでも沖縄を取り戻してみせると言った佐藤栄作ぐらいまでです」と返し、その後に長い髪型の男は最悪だとか、女性のシャギーも最悪だと言っています。髪型に関しては美的センスであるとしても、背が小さい人間を国のトップにするのはマイナスだという発言はルッキズムでは…。
米大統領になるには背が高い方が有利? 指導者の身長の法則 写真5枚 国際ニュース:AFPBB News

ただ、その一方で高身長の男性ほど組織のトップに立ちやすいという記事をAFP通信が書いていました。ルッキズムとはまた別の、テリトリーを誇示する動物的な考え方にも感じられますが、内容ではなく外見で指導者を決める限りは知力の低下は止められないと思います。(誤解のないように書いておきますが、別に美輪さんは文藝春秋の中で政権を持ち上げているわけでなく、日本は文化しかないのにそれを踏み潰した軍国主義の愚かさについて語っています)

適任者が居ないと語られていた安倍晋三氏は辞任し「桜を見る会」の領収書の公開をゴネ続け、それを継承した(美輪さんの言葉を借りるなら背が低い)菅義偉総理が誕生し、その長男であり(美輪さんの言葉を借りるなら最悪の髪型をした)菅正剛氏と総務省のズブズブの腐敗が拡がっている現実がある訳ですから、八熱地獄や十六小地獄にも多様性を持たせて「ササニシキ送りますよ地獄」みたいな豊富なバリエーションを用意して欲しいと思いました。

木谷明

P83
木谷:被害者や遺族が加害者を徹底的に恨むのは人間の感情としてやむを得ないことですが、それをそのまま制度に持ち込み、人を殺した人間は全部殺すべしというふうにするのは文化国家といえません。

青木さんは刑事司法の問題をライフワークとされていますが、最高裁の部総括判事などを務めた木谷さんとの対談は問題点を浮き彫りにするものでした。具体的に挙げると「裁判官と検察官の人事交流制度」「人質司法」「調書裁判」「裁判所は検察と警察の言いなり」といった具合の負の連鎖です。ただ、自分が捕まるでもしない限りは日常生活の中でこうした問題を実感する事はないですよね。或いは観光旅行客としての目線で、国の法体系を理解するとか。権利は目に見えないからこそ大切なのだけれど、法律の良し悪しについては比較対象を持ちにくい。ドラマの取調べのシーンで、そこに弁護士が同席してない事をおかしいとは思えないですよね。(少し前までNHKで放送されていた『グッド・ファイト』というアメリカのドラマでは弁護士が同席してた)
で、その国の法体系を象徴するのが死刑制度。上記引用文はその部分です。
司法の砦である裁判所は政治を監視し、少数者の権利を守るべきだという木谷さんの言葉は力強く感じました。
文明国家でありたいのであれば、むやみに「地獄に堕ちろ」だとか「地獄の種類を増やそう」なんて呪詛を口にすべきではないのです。
🤔ん?

武田砂鉄

P106
編集者個々の問題というよりも版元の問題で、どこも自転車操業になってきていますよね。4月に20冊出したら、5月に20冊出さないと、夏に会社が潰れます、と。そのための冊数を確保するためには、「ノンフィクションの文化を守りたい? おまえらの言う正論もわかるけれど、この帳簿を見てくれよ、あと3冊必要なんだよ」と。

「ラジオあるある」として、砂鉄さんと青木さんの声が似ているという話があります。お二人の声は青木さんのパートナーでさえ聞き間違えるほど似ていて、それを逆手にとって砂鉄さんのラジオのゲストに青木さんが出た際に、チェンジして台本を読むなんて遊びをした事もありました。
本書にはそんなエピソードについては一切書かれていませんが、始まりに敏腕編集者であった砂鉄さんがライターになってしまって少し寂しいと青木さんが綴っています。私達には見えないところで繋がっていたお二人の関係が大空翼岬太郎、悟空とベジータジャムおじさんとバタコさん、ゴッホとテオ、松尾芭蕉曽良ムーミンスナフキン、農民と漁師、田中みな実と宇垣美里、晋三と昭恵、克行と案里のような関係だったのかどうかは分かりませんが、100%違うだろうと思います。
さて、楽しい文字稼ぎもそこそこに本題に入りますが、対談の内容は活字メディアやワイドショーといった言論環境についてのやり取りです。その中で青木さんが砂鉄さんに、日本スゴイ的な本だったり、嫌韓、嫌中本が売れるのかと訊く場面があり、砂鉄さんは編集者として特定の人種を刃物で斬りつけるこのジャンルの本が売れていると感じていたそうです。
その裏側が上記引用文の「この帳簿を見てくれよ、あと3冊必要なんだよ」というセリフに繋がります。美輪さんが知力の低下を嘆いていましたが、知識の塊である本を売る出版社までもが、このような状況だというのは読んでいてショックでした。それと「二番煎じの本をどれだけスピーディーに出すかばかり考えている編集者も多い」という部分を読んで、あの人がそうだったなぁと。頭の中に1人浮かびました。長くなるので書きませんが。
12/03/2019 ウメハラジオ 第12回 ゲスト:編集者田中さん - YouTube

対談の終わりは、逃げ切り世代の青木さんと悩み苦しむ砂鉄という構図で幕を閉じます。この対談が行われたのが2017年なので、翌年2018年に『新潮45』が優生思想をバラまいて廃刊になり、ノンフィクション作家さん達が発表の場を失った事については触れられていません。紙媒体のメディアには辛い時代で、言論環境を含めて年々悪化していると言っても過言じゃないでしょう。本を作る人間の悩みが理解できる良い対談でした。

白川優子

P136
なんでもかんでも自己責任とか、人質になったらどうするんだとか、税金を使って迷惑をかけるなとか、そういう風潮が広がると、私のあとに続きたいと思っている看護師さんやお医者さんの壁になってしまうかもしれない。それは本当に残念なことだと思います。

この対談のきっかけがJamTheWorld!
UP CLOSE | JAM THE WORLD : J-WAVE 81.3 FM RADIO

たしか私もこの回を聞いた記憶があります。白川さんがどれだけ戦地で医療活動をしても、戦争が終わらない限りは毎日誰かが傷付き続ける。だからジャーナリストになろうと思ったけど、こらえて医療活動を続けているというお話だったはず。
そんな予備知識を思い出しつつ対談を読み進めると、白川さんの人生観とべしゃりが面白い。翁長さんや美輪さんの口から語られる戦争は、戦火の渦に巻き込まれた当事者の目線でしたが、白川さんの目線の戦争は自らその渦に入って行って手当てをするというもの。18歳から病院に勤務する傍ら学校に通い、夢の国境なき医師団に入るサクセスストーリーと見せかけて、英語が話せないのでオーストラリアのメルボルンに留学したら全く残業させない天国みたいな労働環境を手に入れるのです。白川さんの話では、病院が残業を頼む時は特別な許可が必要で、ペナルティとして捉えられているそうです。「日本人は時間を守らない。決まった時間に始まるけど、決まった時間に終わらない」なんて話はよく聞きますけど、「残業させてしまって申し訳ない」というのは、まさにこの考え方だよなぁと思いました。給料は日本よりも良く、週末は旅行ができ、多文化都市の中で友達もでき、白川さんは幸せに暮らしましたとさ。めでたし、めでたし。fin...で終わっていいところですが、虚無感に襲われて国境なき医師団に入り、充実した毎日を過ごすのです。天国みたいな環境をエンジョイするよりも、紛争地で苦しむ人々を助ける事のほうがやり甲斐があると。ミドルネームに"菩薩"を入れて白川・菩薩・優子と名乗っても誰も文句は言わないと思います。
そんな菩薩に青木さんが質問したのが、紛争地に赴く際に言われる「自己責任論」。個人的にはこのような反応は本人の身を案ずるよりかは、国粋主義者が口にするものだと思っています。本人からすれば命の危険があるのを知っているし、現地の人々の生活が少しでも改善して欲しいから行くわけですよね。そこに思いが至っていないというか、感情や情報の遮断を感じます。最近の話で言えば、2021年の2月からミャンマーで国軍がクーデターを始め、市街地で実弾を水平射撃するという残忍な殺人行為を繰り返しています。それを受けて日本にいるミャンマーの方々もデモをしているわけですが、先日ラジオを聞いていたらミャンマーの留学生がインタビューに答えていて、ネットで「日本でデモをするな。自分の国でやれ」とか、「日本は関係ない」と書かれていたのを目にしてショックだったと語っていました。その学生さんは日本でデモをするのは申し訳ないと思いますが、日本政府に動いて欲しい。皆さんに知って欲しいです。と言っていました。もちろんそんな日本人ばかりではなく、ジャーナリストの堀潤さんや、作家の高野秀行さんは日本のミャンマーコミュニティの方々のメッセージを拡散していたり、様々な形で支援されてる方もいるでしょう。こういう現状と比較すると、国境なき医師団って凄いなぁと改めて思いました。

河野洋平

P162
それは70年経とうが、おそらくは100年経ったって、この火種自体は無くならないでしょう。植民地支配をし、言葉を奪い、名前も変えさせ、朝鮮民族だというだけで蔑んできたのは事実であって、それだけのことをしてしまったのです。だから、相互にどんな話をするにしても、仮に口で言わなかったとしても、われわれは過去に植民地支配し、ひどいことをしてしまった歴史があるんだということが頭のどこかにあれば、ものの言い方にしても、対応の仕方にしても、こんな外交には決してならないはずです。

私は政治に詳しくないし、自民党の歴史だったり変遷についても詳しくありません。なので河野洋平という名前を聞いても、原発反対って言ってたのに入閣するや否や口にしなくなって北方領土も返ってこなかったけど自己顕示欲の強いマスクをしてる人のパパぐらいの知識しかありません。そんな浅い知識の私が読んでも飽きずに読めました。この対談が行われたのは2019年。それを踏まえても、言葉が通じる政治家がいる事に感動します。山本太郎さんに対する評価だったり、官邸主導の忖度政治や少数派の意見を取り入れない議会運営についての言及がありつつ、小選挙区制導入に関する話。それと戦争の歴史を知らない政治家が多くなっている事。
まぁ、まともな意見だこと。
今の自民党なんて平和教育に力を入れる広島で選挙買収してますからね。官房機密費が使われたんじゃないかと言われたりして。金を受け取った議員もカメラの前で泣きだしたり、丸坊主にしたりして。意味わかんない。
これだけの権力を持ってるのだから、もっと真面目にやらなければならない事に使って欲しいという結びの言葉に私は激しく膝を打ち、スピードバッグを殴るボクサーになっていました。
“(*`ε´*)ノ ¿彡 ¿ バンバン

北丸雄二

P201
男女の関係と同様、若い時は惚れた腫れたの話でも、いざとなったら命の問題や生き方の問題、現実社会にかかわる生活の問題になり、最後はやはり社会的なシステムの問題になってくる。だから「私的な領域」に押し込めず、「公的な領域」で声をあげなければならない。

私が初めて北丸雄二さんの名前を耳にしたのはたぶん、荒川強啓さんのラジオ番組。とてもアメリカに詳しい気さくな人というイメージでした。今回の対談の中で語られているのはLBGTQについての歴史です。フェミニズムについてはここ数年、少し理解が進んで大学の不正入試だったり、森喜朗だったり、生理の貧困といった事がニュースになるようになりましたが、私自身、この対談を読んで初めて知る事が多くありました。クロン・カイトの問題提起で議論が活発化した事や、とんねるずのコントに見られる日本の問題。女性は戦い続けてきたけど、社会の前提が男性社会なので、戦うのをやめてしまったゲイもいるとか。これは読むべきもの。そして読めてよかったと率直に思います。
それと北丸さんが「個人のストーリーに回収するのではなく公に訴える事が大切だ」という話をされてる部分で、私の頭の中に電気が走りました。
是枝裕和監督の『万引き家族』って取調べで終わるじゃないですか?
ポン・ジュノ監督『パラサイト 半地下の家族』は手紙で終わるじゃないですか?
ケン・ローチ監督『私は、ダニエル・ブレイク』は世間に訴えかけて終わるんですよ! ダニエル自身が壁にスプレーで書くし、ラストシーンでは知人の女性が訴えている!
この気付きは大きいです。作品を楽しむ目線を手に入れました。見える!見えるぞ!と。笑
対談の後半ではBL(ボーイズラブ)というカルチャーについての見解もありつつ、男(ホモソシアル)はどうしょうもないという答えに帰結するのでした。

半田滋

P232
「いずも」を空母化したいだなんて、保有する海上自衛隊も、そこに載せる戦闘機を運用する航空自衛隊も、誰も言っていないんです。日本防衛に空母が必要だなんて、制服組は誰も思っていない。
P235
自衛隊が将来、F35Bを保有して運用できるようになれば、アメリカが中東に出て行って戦争するときにイギリスがやっているのと同じような戦力の補完ができるようになる。つまりイギリス化です。自衛隊のイギリス軍化が進んでいくということでしかないと思う。

国防に関して取材し続けてきた半田さんのお話はこれまた刺激が強い…。
翁長さんがオスプレイa.k.a.未亡人製造機の問題について語っていましたが、半田さんはイージス・アショアや空母化の問題について解説されています。現場は誰も必要だと思ってないのに、背広組の防衛官僚が忖度して予算要求をしてるだとか、防衛大学校という閉鎖的な縦社会の環境で歴史修正主義に染まり、まともな幹部自衛官は半分以下かもしれないとか。
えええええ…。
自衛隊の危機 01―なぜ、ネトウヨの浸透を許しているのかー
気になったので検索してみたら、よく分からないサイトに防衛大学校の講師に異変が起きているという取材記事がありました。戦前を取り戻すという日本会議的な思想であったり、保守論壇の本に染まっていて、完全に武田砂鉄さんに任せる案件です。
私はドナルド・トランプを最低の大統領だと思っていますが、基地負担を減らしたり、自衛隊の独立性を高める事はできるのではないかと少し期待していたのですが、結局はアメリカの言いなりになっているところを見ると、防衛問題でも改善した事はないのではないかと気分が暗くなります。

平嶋彰英

P267
とにかく極端な人です。あそこまでひどい人はほかにいません。
〈中略〉
秋田の農家から集団就職で上京したというような物語をメディアが流布しましたが、実像は全然違いますよ。むしろ実家は裕福な農家です。

P276
そういえば最近、京都大学の奈良岡聰智さんという先生が、安倍政権がかつて近衛文麿内閣と似た面があると指摘していたのが印象的でした。
〈中略〉
それに倣って言えば、まさに菅さんは近衛内閣の次に政権を率いた東条英機です。

翁長さんが沖縄の歴史を語り、美輪さんが文化の衰退を語り、木谷さんが司法の焼け太りを語り、砂鉄さんが言論環境の劣化を語り、白川さんが人道支援の必要性を語り、河野さんが自民党の変質を語り、北丸さんが少数派と社会の関係を語り、半田さんが自衛隊と陸軍からミサイルにシフトするアメリカの国防を語ってきました。本書は70年前の日本から現代社会に連なる構成となっているわけですが、そのラストを飾るのは「ふるさと納税」という高所得者を優遇する制度に反対し、クビを切られた元総務省自治税務局長だった平嶋彰英さん。これも読み応えがある対談でした。
菅義偉氏が総理大臣になって原稿を読み上げている姿を見た時「あっ、これやばいやつだ」と私は率直に思いました。それと同時に、官房長官時代に東京新聞の望月記者から質問され「ご指摘はあたらない」と言っていたのは、答えられないからそう言ってたのかと変に納得してしまいました。
前任者はプロンプターとシュレッダーとゴルフを三種の神器に、パフォーマンス好きで平気で嘘をつくというのが特徴的でしたが、菅総理は予算と人事で忖度させ、自分に都合のいい情報を出させて説明責任を果たそうともしない。前者も後者も陰湿な攻撃を好んでいるように見えますが、日本学術会議に対する人事介入を見て分かるように菅総理はあからさまですよね。そんなガースーと対峙し続けた平嶋さんの話は、影に隠れてろくに会見を開かない現総理大臣の人物像を浮き彫りにする貴重な内容だと思います。

平嶋さんのスタンスは逆進性の強い消費税の増税を議論している時に、ふるさと納税なんてありえないというものでしたが、菅氏は話を聞き入れようとはしませんでした。意外な事にテレビ局の電波の停止に言及し物議を醸した高市早苗大臣(当時)は問題を共有していて、間に入っていたそうです。そして、固定資産税における不平等の問題を指摘したところ、コネクティングルームで官僚と繋がっていた和泉洋人首相補佐官も登場し、平嶋さんはパージされます。和泉氏は加計学園問題でも前川喜平氏に「総理は自分の口から言えないから私が代わって言う」と証言されています。読んでいると政府の中にまともな人はいないのかと不安になってきますが、東北新社の問題で揺れる総務省のトップである武田総務大臣も株式の公開買い付け時期にNTTの澤田社長と会食していた事が判明しました。あー。もうだめだ。
武田総務相とNTT澤田社長が会食していた | 文春オンライン

そしてまた文春…。大手メディアは一体何をやっているのでしょう…。
話を本に戻しますが、対談の終わった後のページに青木さんが付け足しを書かれています。それは平嶋さんが脳梗塞を患って痺れの残る身体で対談に応じた事、少し涙ぐまれていた事が書かれている。
読み終わって本を閉じ、表紙に目をやった時に「このろくでもない現実に抗う」という言葉が輝いて見えました。

おわりに

ジョージ・オーウェルが描いた1984年の世界に「二重思考」というものが登場します。明らかに間違っていると知りながらも不都合な記憶を消し去って、言葉の意味を上書き保存するというものです。つい先日も二重思考を見かけました。時事通信が報じたものですがその見出しは「緊急事態宣言、全面解除へ調整 政府、再拡大防止に全力」

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本来はこれ以上感染が拡がらないように苦肉の策ではあるけれど、100年前と同様の都市封鎖をしなければならないというのがロックダウンです。国民の自由と引き換えに感染者数を抑え込むという劇薬なわけですが、日本で行われている2度目の緊急事態宣言は1度目の緊急事態宣言と違い、国民に10万円の補償もなく飲食店をスケープゴートにしたような内容となっています。そのうえ協力金も一律6万円なので、消費税やふるさと納税と同じように不平等な格差が存在します。もうめちゃくちゃです。PCR検査は迅速にウイルスを検知できる最適な方法(フランスで変異ウイルス感染者がPCRをすり抜けた事例が確認されたと報道があり完全ではないが)だと私は思いますが、医療をパンクさせるものという二重思考により抑制された結果を踏まえれば、名ばかりの緊急事態宣言の効果が限定的である事も、政治家と官僚の言葉遊びが限界を迎える事も初めから分かっていた事なのかもしれません。
もし、本書に登場した9人のように人々が日常的に社会の問題を語っていたら、今私たちが生きる現実は変わっていたように思います。私を含めて日本人の多くは言葉を奪われた記憶がないのかもしれませんが、現在進行形で政治的意図やポジショントークによって言葉が壊されていくのを目撃しています。文明が衝突した時の言語はピジン、継承してクレオール。他国であったり、異なる時代から新しい知識や文化を持ってこれたならバベルの塔を築けるかもしれない。そんな事を考えながら読み終えました。
まぁ、新型コロナで世界がピンチになっても人類は手と手を取り合って力を合わせないという現実が横たわってはいますけど。
(おわり)

追記

JamTheWorldの津田大介さんと、青木理さんと、安田菜津紀さんと、堀潤さんが3月で卒業ですって😢

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(;ω;)うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
嘘だと言ってぇぇぇぇぇぇぇぇ