モブトエキストラ

左利きのメモ魔が綴る名もなき日常

『ぼくのなつやすみ』の話

テレビを見ていたら『クレヨンしんちゃん オラと博士の夏休み~おわらない七日間の旅~』のCMをやっていた。通称『オラのなつやすみ』 クレしんのアニメーションに『ぼくのなつやすみ』のエッセンスが足されたハイブリッド作品に見えた。その影響を受けて『ぼくのなつやすみ』についてボーッと考えていた。

ぼくのなつやすみ』は1と2と4はやった事がある。プレステ3は持ってなかったから『ぼくなつ3』はやった事ないけど、北海道の牧場を舞台にしたストーリーだった。
「どれが一番面白いの?」と言われたら、私は『ぼくなつ1』>『ぼくなつ4』>『ぼくなつ2』の順かなぁと思う。
このゲームのコンセプトは記憶の追体験にあるので、昔を知ってる大人と、まっさらな状態の子どもとでは面白さの基準が違う。『ぼくなつ1』の何が良いのかといえば、親戚の家のアウェイな空気感が変化していく感じだ。主人公のぼく君はきょうだいが生まれるという事で、カリオストロ城に出てきたビートルっぽい黄色い車に詰め込まれて親戚の家にデリバリーされてしまう。名前は知らないが自分と血が繋がっているという奇妙な関係、その中で集団生活をしなければならない現実は、兄になるという焦燥感を増幅させる。家族が会話をしながら食事をして、ぼく君は相槌を打つのが精一杯。「ごちそうさまでした」と席を立って各々が持ち場に戻ると、家の中が静まり返るというのが妙にリアルで印象に残ってる。都会と違って田舎の家は大きいから、あえてこういう演出にしたんじゃないかと思ってる。(メモリの量が限界だっただけかもしれない)
この家のおじさんは陶芸家で、居間で新聞を読んでたかと思えば夕方5時になると亜空間からぼく君を迎えにくる能力を持っている。いかにルートを開拓して、心を許していないおじさんから逃げ回るかというのがこのゲームの醍醐味だったりする。(食べ物で買収されるほど安くないぞ!と)
私が『ぼくなつ1』を評価してる二点目は、大人の目の届かないところで成長するところ。さっき書いたように親戚の家ってアウェイなんだけど、家の玄関の石段をジャンプする感じってぼく君の本来の姿だと思うんです。大人の目を気にせずにアレは何だ?って好奇心で突き進むと、ヒビ割れガタポンな木を見つけて甲虫を手に入れたり、蜂の巣があって全身を刺されて生死の淵を彷徨ったり、ヘビだぁ!ってビビったり、クジラの耳の骨を拾ったり、小高い丘で人工衛星を見たり、真夏の通り雨を経験する。(宇多田ヒカルファンが反応するワードをぶち込んでみたよ)昆虫相撲はシリーズお馴染みのシステムで、子どもの世界のルールに従って順位付けがされて、認められると大人が知らない場所に行けるようになる。プレイヤーの達成感とぼく君の成長とが程よく重なり合っているから、よくできてるなぁと思う。
三つ目はダンカンさんのナレーション。この声の深みが凄くて、経験した事がないのに経験した事があるように錯覚させる。これは何もかも鮮明に映し出してド派手なエフェクトを加えたがる今のゲームは真似できないと思う。初代プレイステーションの画素数だからこそできる部分でもあると思う。スイカ畑の感じとか、おじさんが夜に不在になって約束を破ってホタルを見に行くイベントとかたまらない。なかでも、オオカミ娘のテントのエリアでアキアカネが飛んで夏が終わっていく感じは名シーン。以上、トータルで『ぼくなつ1』は良いし、クリア後の楽しみとして8月32日のバグがあって、そりゃあ亜空間から出現するわけだよね。って納得してしまう。このイレギュラーな怖さと面白さには後にも先にも勝てないと思う。

『ぼくなつ2』は1にはなかった海で泳げるという要素が加わって、操作性も改善してるんだけど、水死って辛いじゃん? 私の中では蜂の巣を突いて助かるのはギリギリセーフだけど、海底の王冠を拾うためにブラックアウトして助かるのはアウトな気がする。そのうえで、『ぼくなつ2』には診療所に幽霊のお姉さんが出てくるので『死』の存在が若干強い。だからなのか『ぼくなつ1』だと夜に家を抜け出すイベントはワクワクしたんだけど、『ぼくなつ2』だと夜に知り合いの女の子の家に行くのちょっと怖いもん。(この家庭は父親が亡くなって母親もどっか行っちゃったみたいな設定。田舎の闇が強いよね)音楽は確かジムノペディか何か流れてたかな。夜に捕まえられる虫ってバッタ系しか居ないしさ。ピョンピョンしてんの。王冠サイズ求めて暗がりの中で網振り回してさ。ぼく君も狂人だよね。「やった!」って。
あとこの女の子とロケット飛ばすお兄さんのイチャラブイベントがわりとメインだから、プレイヤーが置いてけぼりになるのは致命的。幸せになって欲しいけど置いていかないで欲しい。
良い部分は民宿に来てるゲスト達との会話劇で、金塊事件が絡んで警察が出てくるのは『ぼくなつ1』とは違う味を出してる。

『ぼくなつ4』は一番ポップで子ども達が活き活きとしてるから単純に楽しめる。ただ…虫相撲が玄人すぎてガチなプレイヤーしか先に行けない気がする。笑 虫が嫌いな人も当然いるわけじゃん? そういうプレイヤーの為なのか、キン消しみたいなモン消しが用意されてるんだけど、こちらもトントン相撲で勝たないといけないから大変。虫も集めないといけないし、魚も集めないといけないし、ジェットサイダーの王冠も集めないとだし、ほんとスケジュールがガチガチなんです。だから遊びのはずなのに、機械的な作業になって遊びが無くなっていく。それを一番感じるのが4。個人的に難しかったのがトンボのコンプと学校の屋上の隠しルートの蝶々。虫あみがギリギリ届かないとか、レアな種類は出現ポイントが限定的だから達成感よりも疲労感のほうが強い。もちろんそんな事せずとも、駄菓子屋のコインゲームでずっと遊ぶとか、盆踊りで適当に太鼓叩くとか、稲川淳二さんの真似をする芸人さんのラジオとか楽しい部分もたくさんある。とくに虫が好きな人は昆虫相撲にどハマりすると思う。ルリボシカミキリだったかな、噛み付かずに足技を多用する意外性とカッコよさを兼ね備えてて好きだった。タフさはないからすぐやられるけど。
あと、なんだかんだ自分で釣った魚をおばちゃんのところに持っていって晩御飯のおかずにしてもらうのが楽しかった。命を食べるという学びでもあるし、絵日記に記録して思い出が増えるのは良い。
やる事の多さは『ぼくなつ4』はズバ抜けてる。
それでもやはり『ぼくなつ1』が最強。
8月32日の事はぼくなつを遊んだ事のない人でも知ってる人多いけど、1がぶっ飛んでるのは何のイベントもせずに、ぐーたら夏休みを過ごして「今日は何もない素晴らしい一日だった」で絵日記を埋めると、クリア画面で村がダムに沈むっていうバッドエンドを迎えるところ。
すごくない?
「何の記憶にも残らなかったんでしょ? ダムに沈んでも悲しくないですよね?」みたいな、マイナス方向にも感情を揺さぶってくる構成は衝撃を受けたし、ミレニアムキッチン凄いなって思った。

未来を変えてしまうからこそ幼少期は大切なんだというメッセージにも感じる。
なので優勝は『ぼくのなつやすみ1』なのです。
(おしまい)