モブトエキストラ

左利きのメモ魔が綴る名もなき日常

【小児甲状腺ガンの増加について】 岡山大学 津田敏秀教授

岡山大学の津田敏秀教授が疫学の視点から、福島第一原発事故福島県内の小児甲状腺ガンの因果関係について論文を発表した。
外国特派員協会で会見を行い、調査結果を公表していたのでまとめておこうと思う。


今回の調査について

2011年当時に18歳以下だった福島県民を対象に調査は行われ、その結果は2013年以降に公表された。

しかし、発表されたデータに対して疫学的な分析がほとんど行われていない為に因果関係を考えたり、公衆衛生学的、臨床的な対策の立案、或いは将来予測や住民への情報公開を行うためには極めて不十分な状態が続いています。

今回、私たち岡山大学のチームは疫学的に標準とされるもので福島県が開示したデータを解析し、国際環境疫学会の学会誌に論文を投稿して受理されました。

オープンアクセスなのでどなたでも見ることが可能ですが、和訳がまだありません。

ISEE Abstracts – Thyroid Cancer under 19 years old in Fukushima, Japan

事故によって放出された放射性物質と住民の健康に対する定量的な解析を行いました。

スクリーン検査は先ほども言った2011年10月から行っているが、今回のデータは2014年11月31日までのデータを用いている。

その後に公開された2015年3月31日までのデータは追加資料にまとめました。

解析の内容

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①日本全体の小児甲状腺ガンの年間発生率との比較
✳︎用いた数字は国立ガンセンターが公表している19歳以下が対象で発生率は年間に2〜3人
ガンの最少潜伏期間は2.5年としており、検診だとこれよりも短くなり、子どもは1年となる。

福島県内で小児甲状腺ガンの発生が多いところと少ないところを比較

→その結果、日本全体と福島県内の最も多い地域を比べた場合、約50倍甲状腺ガンの多発が起きていると推定されました。発生率の低いところでも約20倍の多発が起きています。

最も低いところではまだ1人もガンが見つかっていません。
県内比較で最も低いところと比較した場合、無限大の多発となるので二番目に低いところを比較対象としました。
この二番目に低いところというのは放射性プルームが避けて通ったことが分かっていますから、比較的汚染が低かった。

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この二番目と最大を比べると2.6倍の違いがあることが1巡目(2013年まで)のデータから分かりました。

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2014年に行われた二巡目の結果は発表され始めています。
『今発表されている小児甲状腺ガンの症例数は全員ガンがないであろう』という極端に低い仮定においても10倍以上の多発が確認されています。

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これらの結論から
福島県内において放射線による著しい影響を受けて小児甲状腺ガンがおきており、それはチェルノブイリにおいて4年以内に観察された小児甲状腺ガンと同じように5年目以降に大きな多発が起こることが避け難い状態である」ということが分かりました。
これはWHOが2013年に発表した『原発から20km以外の地域でも甲状腺ガン、白血病乳がん、その他の固形ガンが多発する』という予測を大きく上回っています。

現在、日本ではこのことが理解されず、何の準備もされていません。
今後、このことを理解したうえで対策を立案し、実行していくことが必要です。

【反論 】スクリーニングや過剰診断ではないのか?


2013年にスイス、2014年にシアトル、2015年ブラジルで行われた学会で発表し、多くのディスカッションを重ねてきました。海外の研究者とメールのやり取りをしてきましたが『時期尚早』と言った研究者は1人もいません。むしろ、『早く論文にしろ』という意見が非常に多かったです。
ですから、批判として『なぜゆっくりしているんだ!』という意見にはあたると思います。
日本には海外と比べて疫学者の数が圧倒的に少ないです。岡山大学は日本で一番多くの疫学者が在籍していますが、その中で『時期尚早』と言う人もいませんし、『事故の影響ではない』と言う人は一人もいません。
スクリーニングや過剰診断を持ち出す先生の多くはその倍率を示す論文を読んだことが無いのでしょう。
せいぜい2〜3倍や6〜7倍といった一桁のデータです。
福島では二桁ですからスクリーニング効果があったと仮定してもほんの一部にすぎません。
もし、「過剰診断だ」という意見を言うあれば「過剰診断によって何倍の多発が予測されるのか?または論文を示して下さい」と訊けばいいのです。

チェルノブイリの経験から何も学ばず、放射性の人体影響に関する論文もほとんど読まない中で日本ではアナウンスが行われています。
私に直接批判をしてくる人はいません。
もし、私の批判をしている人がいたら「直接本人と議論をして下さい」と言って下さい。或いは「議論の場を設けます」と。
まぁ、こういうのを「陰口」と日本語で言います。
日本の保険医療政策の多くはこういった、「陰口」や「噂話」や「立ち話」に基づいて行われています。
そして、医学的根拠や論文に基づいた保険医療政策は行われていません。
この点が日本の保険医療政策の遅れている点だと認識して頂きたいと思います。

福島県民はどうすればいいのか?


産業医学の現場では新規の作業従事者に対して、その仕事の危険性を理解してもらう就業前教育が義務付けられています。
詳細な情報を得ることで有害な曝露は桁違いに低くなります。
今の福島県、日本全体において100ミリシーベルト以下はガンが出ない。出たとしても分からないというアナウンスしかされていません。
「若い人ほど放射線の影響が大きい」というような、誰でも知っている知識さえ説明されていません。
この知識だけでも教えてあげれば、様々なきめ細やかなコストのかからない対策はいくらでも思いつきます。
被ばく量の多い場所を特定し、そこに滞在する時間を短くすることによって大きく変わってきます。こうしたコストのかからない対策が全くとられていません。
福島県に住み続けなければならない人こそ、こうした知識を与えられなければなりません。【まとめはここまで】


会見の会場には東電会見でお馴染みの木野さんの姿も見かけられた。こうした追跡取材を行うジャーナリストには頭がさがる。
また、反対意見を持ちながら会見で質問をしない人間は2ちゃんねらーと同レベルで、ジャーナリストとは呼べないと私は思う。
津田教授の「煽っていくスタイル」も面白かった。