モブトエキストラ

左利きのメモ魔が綴る名もなき日常

鳴き声

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この空のどこが「晴れ」なんだろうか。
政治家と天気予報士は嘘つきだな。

こんな空の下、男は歩き出した。
涼しい風が吹いていたが、病院に到着する頃には汗だくで、出かけに見舞われた地震の事なんかどうでもよかった。

待合室には老夫婦とスマホ中毒者、それと中年女性が2人いた。
テレビからはアナウンサーが地震の被害を伝えていて、「今のところ被害はない」と繰り返していた。
被害がないのであれば重要法案の報道をしたらどうなのかと、思いつつ汗を拭いた。
とりあえず今日は「ジェイゾロフト」と「サインバルタ」で目が霞みすぎてウザい話をした。正直、サインバルタはいらないので次回にその判断をする事に。
あとは、死の話をした。
死については考えるとキリがないうえに、精神的に疲れるので創作だとか他の意識を切り替えるようにしていると医師に話した。
すると医師は「死を考えない為に行ってる内は練習みたいなもので、それを意識せずにできたらいい」と答えた。
確かに、考えても仕方ない事を考えるよりも、自然と違うことをしているほうが精神衛生的に健康で楽しく暮らせるだろう。
しかし、死に疎く、上辺だけを見て生きることは単細胞に思える。私には無理だ。

処方箋を持って薬局に向かう。
窓口では老婆が薬剤師を相手に長々と会話を楽しんでいた。
歩く時は杖を持っていた老婆が、その会話をしている時は杖を手放しているのに気づいて観察していた。
窓口の漫談に気付いた他の薬剤師が気を利かせて薬を持ってきて下さった。
お金を払って歩き出した。


それは、家の近くまで来た時だった。
風の音に紛れて子猫の鳴き声が聞こえた。微かな声であったが、確実に子猫の声である。
声がした辺りに目をやると、そこは雑草が生い茂った、誰も手入れをしていない空き地だった。これでは子猫がいるかなんて確認のしようがない。
しかし、気になったので暫く辺りを見回ったが、子猫の姿は確認できなかった。
鳴き声も最初に耳にしたそれきりで、風に吹かれて擦れる雑草の音しかしなかった。
見殺しにしたような罪悪感の中で帰宅した。