モブトエキストラ

左利きのメモ魔が綴る名もなき日常

震災関連番組の感想

3月11日が近付き、テレビでは震災関連の番組が多く放送された。8割型NHKの番組なんだけど、せっかくなので感想を書いておこうと思う。

原発事故最悪のシナリオ〜その時誰が命を懸けるのか〜』

当時の政権、防衛省アメリカ軍がどのように原発事故を捉えていたのかを検証したドキュメンタリー。情報が無い中で協力を強いられる防衛大臣自衛隊のストレスは大きく、東電の勝俣氏が原子炉のコントロール防衛省に丸投げしようとした事が浮かび上がり、勝俣氏は番組の取材に答えなかった。
原発事故が起きた際のリスク評価をしていなかったという点が注目されているが、津波のリスク評価はされていたので人災であることを忘れてはいけない。
Eテレが本気を出すと必ず良い番組ができる。

『思い出レシピ』

震災の時に何を食べたのか、視聴者から寄せられたエピソードをもとに『あちこちのすずさん』のようなアニメーションを交えて紹介する番組。
食事を提供してくれたインドカレー屋さんに感謝したいという依頼があって、カレーマニアの方の力を借りたらすぐ見つかった。依頼者とのやり取りはリモートだったけど、店の外観とスプーンの形なんかを見せたら「ココです!」って。それは凄かった。そのVTRが終わってスタジオで、安田菜津紀さんが震災の時はイスラムの方も炊き出しをしていたという捕捉をしたりして、全体的に良い番組だった。

報道特集(3月6日 O.A)

基地や原発と同じように畜産や酪農もまた、都市部から離れた場所でしかできない。それを考えながら原発事故で避難を強いられている酪農家の女性の特集を見た。
この方は牛達を置いて逃げた事をずっと責め続けていて、なんて人間は勝手なんだと言っていた。生き残った牛は希望の牧場に預けていて、再開した時に女性が話しかけると牛が歩みを止めて、少ししてから頭を触らせる。きっと10年前と同じように会話をしてるそのシーンを見ていて涙が出た。

ザ・ドキュメンタリー『海の声が聞こえますか』

ナレーションは鬼滅の刃でイケイケの早見沙織さん。
海洋研究開発機構が2012年に調査した結果、津波により480万トンの瓦礫(町そのものが津波に引きずり込まれた)が海に流出し7割が今も未回収となっている。2019年には海流によって移動したと考えられる瓦礫が、それまで何もなかった地点に大量の瓦礫がある事が判明し、PCBによる汚染も懸念されると指摘されていた。妻を亡くした男性が潜水士の資格を取り海に潜る様子、あの時小学生だった方が語り部として活動する様子が伝えられた。行方不明という状況は津波という災害の特徴的なダメージなのだと、改めて感じた。

暴走する原発に突入せよ〜事故拡大を防いだ下請け企業〜

2018年に放送された番組の再放送。原発城下町の下請け企業に事故直後の事を取材した証言記録。私は先ほどの『原発事故最悪のシナリオ〜その時誰が命を懸けるのか〜』を見た後にこの番組を見たので内容が頭に入りやすかった。政府と東電と1F吉田所長のやり取りを受けて、企業さんが現場に行き正常な計器を探し当てて確からしいパラメータを中央制御室に伝えるというミッション。炉心溶融して頭が出ているところに注水したら爆発の可能性があるという話があった裏側での作業なので、吉田所長としては危険なところに技術者を送り込んで死なすわけにはいかない。だから政府や東電にどうやって注水するか考えてくれと投げていた。
下請け企業が1Fに入ると吉田所長が出てきてくれて、本当にすまないと頭を下げたという。(線量管理がかなり厳しい現場なので)
楽しくやっていた職場が変わり果てた姿になっていたので、夢みたいだったと言っていた。事故直後の状況を補足するうえで、重要な証言記録だと思う。

東北ココから 震災10年へ 定点映像が紡ぐ"復興秘話"

復興にフォーカスした番組も見てみようと思って録画して見た。
NHKの取材クルーが2011年3月から各地で定点撮影を行い続けてきた映像をもとに、そこに映っていた人々を取材するという内容。復興住宅を作って欲しいという声がある中、「Tokyoぉぉ!」「うぇぇぇい!」という例の買収された五輪に狂喜乱舞する映像は狂気じみて見えたし、復興住宅よりも早い速度で空に連なる都心の再開発の映像は理不尽を地方に押し付ける態度を象徴するようだった。そういった自然災害とはまた別の、大きな力に踏み潰されようとしてる人々の声を掬い取ることは、3.11というカレンダー報道とは別にやはり必要だと思う。

『逆転人生』&『サンドのお風呂いただきます』

加害責任を問われるべき東電は事故を起こしてもなお、柏崎刈羽の再稼働を進めているし、東通原発への出資と東通村への企業版ふるさと納税にいそしんでいる。「でんこちゃん」はいつの間にか居なくなったが、企業イメージを刷新するためのコマーシャルは再開され、渡辺直美指原莉乃、メープル超合金、3時のヒロイン、大泉洋といった面々が担当している。そんな中NHKの番組でも山里亮太サンドウィッチマンという視聴率を持ってる芸人の番組で東電を扱った番組をやっていた。
『逆転人生』の中で印象的だった「東電が悪いのであってあなたを責めるつもりはない」という言葉は、問題の分別を付けるうえで正論だと思うし、エリート街道を進んでいた人々が、一瞬のうちに悪人に変わるという変化に焦点を当てるドキュメンタリー番組はあって良いと思う。でもそれは同時に慎重であるべき。同じロジックで言えばこうだ。
「個人が反省しているのであって、東電は反省していない」
企業城下町という特性は企業と個人の主従関係の上に生活が成り立っているので、どうしても言論環境は歪になるだろう。こうやって3月11日が近付かない限り原発問題を報じない放送業界もそうではないか。無意識のうちに大規模な組織犯罪を助長し、シビアアクシデントが発生した際に声を出せなくなるというのは事故の教訓ではないだろうか。
個人がどうであれ、構造に問題がある限りは、加害者が着ぐるみを着てすり寄って来ているように見えてしまう。

徹底検証"除染マネー"

以前から問題となっている除染にフォーカスした内容。少し前に「新潮」がヤクルトとタニマチの記事を出していたけど、その球団の問題にも触れていた。これまで巨大な事業をやった事がない環境省が担当した事で、マンパワー的にも調査能力が足りず、文書の改ざんがあっても見抜けないまま、業者は数字をいじった差額を懐に入れるという話。
後半パートでは東電の株価に依存する除染事業の根本的な立て付けにも無理がある事に焦点が当てられ、政治家の無能さと未だに放置されたままの土地がある事に脱力させられた。

音楽の日

『花の匂い』は中居くんが出演した『私は貝になりたい』のテーマ曲で、原曲だとダダダダッ♫ダダダダッ♫と兵士が行進するようなドラムが強調されているのだけど、14時46分に祈りを捧げた後に「どんな悲劇に埋もれた場所にでも幸せの種は必ず植わってる〜」のラインを桜井さんが語りかけるように唄っていた。人によっては黙祷をステージの一部として使ったと思うかもしれないけど、私からするとその逆で桜井和寿小林武史という2人のミュージシャンが3月11日14時46分の一部になった瞬間に見えた。
番組の後半ではBankbandが演奏を担当した。「はるまついぶき」は新潟中越地震があった時につくられた曲。災害があるたびに小林さんは「音楽の炊き出し」といって演奏を続けてきた。カースケさんはずっと現役でピッチコントロールをし続ける。Bankbandは無形文化遺産というか、継承していくべきバンドだと思う。
あと、安住紳一郎さんの前髪がモルカーみたいだった。

NEWS23(3月11日O.A)

その日一日の各地の様子、打ち上がる花火の映像の後、津波により児童が被害にあった大川小の特集があった。裁判が結審した事を受けて、去年11月に初めて教育委員会が跡地を訪れ、語り部となった遺族の言葉に耳を傾けるシーンは印象的だった。

原発事故から10年 エネルギーの未来を決めるのは誰なのか?』

https://youtu.be/dA_bMjHnQAo

Choose Life ProjectとD2021の共同企画。オードリー・タンさんのビデオメッセージが流れるというので見た。申し訳ないけど、第1部の若者と政治家との交流は飛ばした。私が見たのはビデオメッセージと第2部。
デンマーク風力発電所を稼働させ、飯田飯也さんの30年来の友人でありオランダ王室から称号をもらった元ヒッピーのSorenHermansenさんの話は「そういえば以前に、いとうせいこうさんもオーナーシップの話をしてたなぁ」と思い出した。社会が袋小路に入った時にはアウトサイダーの着眼点と専門的な技術が必要不可欠なんだと思う。だからこそ、オードリー・タンさんが言うように透明性が確保された統治機構がなければ、合理性があっても少数派の意見は反映されない。
歴史的経緯を踏まえるとデンマークも台湾も奪われた時代がある。国民が必死で民主主義というテクノロジーを作ったのだと思う。台湾はLGBTQの理解度が高いし、レゴなんかもマイクロプラスチックの問題で自然に優しい材質に変える方針だし、社会の声に反応できるアンテナがある。
日本は老人達が密室で決めた事を広告代理店とテレビが拡散して、空気を読むのが得意な芸人を使って無知に刷り込むのが一般的。国民は学校で服従を習い、理不尽な命令であっても従う事が正解だと錯覚している。権力者に批判が向かないよう自滅を賛美するのも特徴的。
八木アンテナは捨てるし、SPEEDIは隠蔽するし、PCR検査は抑制するし「わけわからん殺し」の伝統が根付いてる。学術会議も人事介入されるし、基礎研究の予算も減ってるし、差別も横行してる。(この文章を書いてる今日現在も、テレビがアイヌの方々を傷付けたって話を見た)

おわりに

東日本大震災から10年が経った当日、いつものように私は東電会見をメモしていた。その日のトピックスとしては小早川社長の取材拒否、1Fで新型コロナ新規感染者、作業員の全身汚染、3号原子炉建屋北東エリア水位上昇の原因は排水口の詰まりといった具合。いつもはツイートしてもほとんど読まれる事はないのだけど、この日は室井佑月さんが見てくれたらしく、よく分からないうちに沢山リツイートされていた。正直にいえば、私は見て欲しいのは私のツイートではなく東電会見だ。世間の関心は薄れ、ニコ動の配信もなくなり、説明担当者はテンプレートに沿ったようにその場しのぎの回答に終始する。そこを見て欲しい。でも今はコロナ禍にあって、そこまでの関心はないだろう。私はもう世間も東電も信じていない。どうせまた忘れるだろうと思っている。だからダイイングメッセージのように書くのだろう。

10年か…。力が抜けるね。