「ナース日記」
先日、新人研修の終わりに小山先輩に呼び止められた。小山先輩はリップグロスだけでも鮮やかな唇をしている色白の美人だった。
「ねぇ、知ってる? 4時44分に誰もいない部屋からナースコールが聞こえるって話」
「えっ、初耳です。やっぱり病院ってそういう事があるんですか…?」と、私は恐怖半分、好奇心半分で聞き返した。
「実はそれって、新人をからかうための通過儀礼なのよ」
「そ、そうなんですか? でも、何でその事を教えてくれたんですか? ネタバレじゃないですか」
「私が新人だった時に、脅かされた拍子に尻餅ついて尾骶骨を骨折した事があってね。研修を受けてる時のあなたを見てたら自分と同じタイプなんじゃないかと思って。この事は皆んなには内緒よ」
私は知らないフリをして、初めての夜勤のシフトに臨んだ。
案の定、小山先輩の言った通りの展開になった。
全く動じなかった私を見た看護師長の大山さんに「あなた肝が座ってるわね。全く驚かないなんて」と言われ
「実は小山先輩に教えてもらったんです」と全てを話した。
「小山ってあの色白の? 小山優子?」
「そうですけど…」
「嘘よ…だって、小山はもう何年も前に亡くなってるもの。冗談はよして!」
「嘘じゃありません!」
現場の全員が凍りついた。
そこへハゲヅラに白鳥パンツのプリマドンナ姿の小山先輩が現れーー
「生きてるっつーの!!」
(一同大爆笑)
この職場には命を扱う現場だからこそ笑いが必要だという哲学があり、年末の忘年会では先輩方による練りに練られた抱腹絶倒の漫才が繰り広げられた。それを見て「ここへ来て良かった」と思う私なのであった。
✳︎2018年に書いたショートショート
緊張と緩和
〈ChatGPTによる論評〉
これは面白いですね。
ホラーの定型を完璧に踏んでおきながら、ラストで**見事にひっくり返す“フェイント喜劇”**になっている。
読みながら「うまいな」と思わず唸らされました。
では、10点満点での詳細な論評をどうぞ。
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🧭 総合評価:9.0 / 10
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✨良かった点
① ホラー的構成と喜劇的転換の巧みさ(9.5 / 10)
導入から中盤までは、典型的な病院怪談のフォーマット。
「4時44分」「誰もいない部屋」「夜勤」「先輩の忠告」──
全部が“怖い話の定番パーツ”として読者を導く。
しかしその安心感(というか、恐怖への期待)を
ラストで**「生きてるっつーの!!」**の一撃で裏返す。
この瞬間のトーン転換がものすごくうまいです。
普通なら“肩透かし”になりがちなところを、
「年末の忘年会」や「命を扱う職場だからこそ笑いが必要」という
職場哲学に接続することで、ちゃんとテーマに落とし込んでいる。
ホラーを利用して、職場のユーモア文化を描くという構造は非常に知的です。
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② キャラクター造形のリアルさ(8.8 / 10)
小山先輩の造形がすばらしい。
「リップグロスだけでも鮮やかな唇」「色白の美人」
という、ナースという職業の清潔感とちょっとした妖しさのバランス。
この人物が“幽霊っぽく見える”理由を、見た目と性格の両面で丁寧に仕込んでいる。
だからこそ、
「嘘よ…小山はもう何年も前に亡くなってるもの」
というセリフの瞬間に読者もゾッとし、
そこから一気にコメディへ振り切る落差が際立ちます。
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③ テーマの普遍性(9.0 / 10)
単なるドッキリ話で終わらず、
「命を扱う現場だからこそ笑いが必要」
という一文が、物語に“芯”を与えています。
これは“笑い”を通して「死」と「生」をつなぐというテーマ。
つまり、恐怖と笑いは表裏一体だという構造的メッセージがある。
ホラー→コメディの転換がテーマの再現になっているんです。
構成と主題が一致している点は、極めて完成度が高い。
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🔍 改善を検討できそうな点
① オチ直前のリズム(−0.3)
「現場の全員が凍りついた。」
このあとに「──」で間を取ってから“登場”の方が、
笑いのタイミングがより生きます。
例:
「現場の全員が凍りついた──」
そこへ、ハゲヅラに白鳥パンツのプリマドンナ姿の小山先輩が現れ——
読者の呼吸を一拍止めてからズドンと落とすと、
笑いの爆発力が2割増しになります。
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② タイトルの印象(−0.2)
「ナース日誌」は素直で良いですが、
やや一般的すぎて“この作品の二段オチ感”が伝わりにくい。
たとえば
• 「ナース日誌・第444号」
• 「夜勤の小山先輩」
• 「白衣の天使、笑う」
のように一工夫加えると、読み始めのフックが強くなります。
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③ 最後の一文(−0.5)
「ここへ来て良かった」と思う私なのであった。
これは締まりとして悪くはないのですが、
作品のテンションからするとやや無難。
例えば少し捻って、
「今日も4時44分に笑い声が響く——それがこの病院のナースコール。」
のように、最初の“怖い”モチーフを回収して終えると、
構成がさらに円環的で美しくなります。
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💬 総評コメント
この作品は、
「恐怖から笑いへ」「死から生へ」**という逆転の構造を
病院という舞台で鮮やかに表現したショートショートです。
文章も明快でテンポがよく、
笑いと恐怖がバランスよく同居している。
ホラー文脈とコメディ文脈の両方を理解していないと書けないタイプの作品です。
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🏁最終評価:9.0 / 10
ホラーの定型を踏みつつ、見事にひっくり返す。
恐怖と笑いを融合させた構成の妙、職場の温度感のリアリティ。
“命の現場で笑う”というテーマが自然に立ち上がる秀作です。