AI論評
「パンクしたネコ」⒈熱日中の強い日差しで、熱を溜め込んだアスファルトの上。雨が降ったかと思えば、いきなりの青空で、判然としない感情を霧が包みこむ夜21時45分のこと。 遺書を書き終わった男は国道沿いを棺桶に決め、走り過ぎるテールライトに愛着を持…
「ドーン!!」坂道の上で。 誰かの紙袋からオレンジが落ちた。 本人は気付かず、すぐ後ろにいた青年が駆け寄って手を伸ばしたが、オレンジはスルリとすり抜けた。 開店前のブティックの前を転がったあと、 音楽スタジオの前で清掃していたスタッフがそれに…
「クマと幻のシカ」それは2025年の事でした。 里山に住むクマ達がサミットを行ったのです。 議題はここ数日、里山を駆け巡っているある噂についてでした。 「本日、皆様にお集まり頂いたのは、かの噂についてであります。一部の心無い人間によって、シカ達が…
「小枝」すっかり数を減らしたビーバーの夫妻がいた。 家の周りの木を齧り、枝を運んでは組み合わせ、小さな体で器用に堤防をつくっていた。 水中深くの通路は安全な家に繋がっており、生まれくる我が子を迎える環境は整いつつあった。 ある日の早朝、上流で…
「たぬき」香川県の山奥にたぬきが居た。 廃村に繋がる国道沿い。 農道の横に小さな駐車場。 駐車場よりも小さな蕎麦屋。 たぬきはそこに飾られていた。 蕎麦屋が暖簾を下ろしたのは廃村と同時期の5年前。 開拓された道も原も、あっという間に自然に飲み込…
「観音梯子」1. 千葉県のとある山奥に「観音梯子」という言い伝えがあった。もともとは水無月の晩にカラスが鳴くのを合図に観音様が天から梯子を下ろし、水子の霊を天界へと連れていくという伝承だったのだが、いつの頃からか救いを求める人間が山に入るよ…
「沼地のピヴォ」試合は静かに始まり、一進一退の攻防が続いていたーー。 だいたい、自信がある奴っていうのは寄せが早い。そういう動きをしてくれるなら逆手にとって、簡単に抜き去ることができるんだが、問題は一定の距離を保ったまま飛び込まない奴。これ…
「緑の花」ウチに男が住んでいる。掃除、洗濯、料理といった家事の一切合切は完璧にやってくれる男だ。 でも、この男は買い物が得意ではないからわたしが買い物に行かなくてはならない。 ずっと前に家具を買うためにホームセンターに連れて行った事がある。…
「イモットトユッコ(Imottotwoukko)」⒈ 財布もスマートフォンも持たずに家を出ると、この世界のどこにも自分の居場所がない事を痛感する。それでも私はどうすれば生存率を上げる事ができるのかを考え始めていた。「あの時ああすれば良かった」なんて、後悔…
「The unity」⒈ 「これ有名プレイヤーじゃないっすか?」 「そうなの? 俺あんまり分からないわ」 「たしかそうっすよ。ほら、キルレ高いし」 「へぇ。分かんないわぁ」 「さっきからワカンナイワーばっかじゃないですか。クックック。最初は着地点をズラし…
「来世の涙」「どうして先生は教師になろうと思ったんですか?」 この仕事をしていると何度か同じ質問に直面することがある。 「君たちに世界の広さを教えてあげることができるからだよ」 たいていそう答えるし、この言葉に嘘偽りはない。しかし、どこか言葉…
「趣味のいい隣人」新聞を定期購読できる家庭は裕福だということに最近になって気づいた。 それ以外の人間がどうやって情報を得るのかといえば、テレビやネットニュースから情報を無料で手に入れる。 では、それさえできないの人間はどうだろうか。そもそも…
「点在」堀内はいたって普通の毎日を生きてきた。 朝起きて食事と身支度を整えて、早めの電車に乗って席を確保して、インターネットのニュースを読み、駅に着いたら近くのコンビニで昼食の弁当を買って出社する。仕事が終わったら今度はコンビニで夜食を買っ…
「星を飼う者」1.「私は私を繰り返す」小さい頃から私はよく疑問を抱いていた。「どうして?」と訊くと先生は答えてくれたが、それは最初だけで、何度も何度も質問しているうちに「自分で調べてごらん」と促されるようになった。今思えばそれがきっかけで私…
「Fan troglodytes」その日、私はドブ川の酷い匂いで目を覚ました。近頃はどうにもならない異常気象のせいで、朝も夜も関係なく暑い日がある。そうすると熱されたドブ川は発酵し、川の底部からガスが噴き出してくるのだ。考えただけでも「オエッ」である。た…
「 2021年」真夏のむせ返るコンクリートの上で選手達は「頑張れ」という優しい命令を背に競争を強いられていた。 「お願いだ。競技の時間をズラしてくれ」という声が挙がったが、遠く離れた大陸のテレビ局と広告代理店は首を縦に振らなかった。 アナウンサー…
「30歳」「お前疲れてんだろ?」 「なんで?」 「顔見りゃ分かるよ。ここんとこ家族にも会ってないだろ。後は俺に任せて帰って休め。なっ?」 僕は単純に嬉しかった。結婚したばかりでこれからは何をするにもお金がかかる。その手前、頑張らなければと思い、…
「夜の光」山奥に小さな診療所がありました。 その日の夜は雪が降っていて、先生はコーヒーを飲みながらしんしんと積もる雪を見ていました。しばらくすると黒い夜と白い雪との間にぼんやりとした光の玉が見えました。 「こんな時間に誰だろう?」 緊急外来を…
「ボクは防衛隊員」「ウー!ウー!ウー!」 地球防衛隊は24時間体制で任務にあたっている。父と母に言っても理解してもらえないが、誰かがやらなければならない。孤独な戦いだ。 ある日、家を留守にしていた両親が帰宅するのと同時に怪獣が現れた。ボクはす…
「Slur」四月のとある夜の事だった。 その晩、外は雨が降っていた。時折強い風が吹くと窓ガラスが揺れ、振幅によって生じた数ミリほどの隙間から鋭い風が部屋に侵入した。電気の消えた暗い部屋の中には一人の女がなかなか寝付けずにいた。雷は鳴ってはいない…
「幸せを願う」その日、にわかには信じ難い知らせが入った。親友の善人(よしと)が捕まったというのだ。朝早くから新聞配達のおじさんを手伝い、家々を回った後に朝ご飯と牛乳をご馳走になるのが彼の日課だった。僕が遊びに誘うと嫌な顔一つせず遊んでくれ…
「チャイム」「ピンポーン。ーーー」 ああ、まただ。またチャイムが鳴った。 僕は覗き穴を見る勇気がなかったし、居留守がバレるのもなんだか怖くて、チャイムが鳴るたびに息を止めていた。 「小谷ぃ。みんな心配してるぞ! 早く学校来いよな! 待ってるから…
「あさましテレビ」その日、都内で長い渋滞ができていた。事故が起きたわけでもなく、催し物が行われているわけでもなかった。テレビ局はその姿をカメラに収めるためにヘリコプターまで出して空撮を行った。ズラリと並ぶ車の列をなめるように、画面は上下し…
「ピエロのポスト」わたしは今、小学校の頃の卒業アルバムを見ている。あの頃は口裂け女やら人面犬やら怖い話が流行った影響もあって、今覚えている事が現実にあった事なのか、それとも創り話なのかハッキリしない。 覚えているのはーー。 朝、学校に着いて…
「残存」おーい、おーいさっきの話の続きしてよ――おいっ、オレはここだそれでさぁ――気づけ、ここだってばうっそだぁ――もっと探せって、ココだよここだからその時、俺はこう言ったわけ――なぁ、おいっ、気づかないわけないだろ 気づいてるんだろでさ、あの子っ…
「銀の◯ジ」医師「次の方どうぞ。こちらへお掛け下さい」 患者「随分と汚い病院だが治るのかね?」 医師「すぐに処置します。これでどうです?」 患者「いやぁよかった、よかった」 医師「ちなみにご職業は?」 患者「政治家だがね」 医師「お大事に。次の方…
「こびと」こんな事を言っても誰も信じてくれないだろうから、今までに一度も家族や親友に打ち明けたことはない。だけど、いよいよ正体を明らかにしないといけない。 この日記を読んでくれているあなたは小さい人間を見たことがあるだろうか? 背が低い人間…
「ナース日記」先日、新人研修の終わりに小山先輩に呼び止められた。小山先輩はリップグロスだけでも鮮やかな唇をしている色白の美人だった。 「ねぇ、知ってる? 4時44分に誰もいない部屋からナースコールが聞こえるって話」 「えっ、初耳です。やっぱり病…
「黒い箱の競争」On your mark… Get set… GO! パーン!! On your mark… Get set… GO! パーン!! On your mark… Get set… GO! パーン!! そんな具合に競技は一瞬で処理され、全ての種目が終わった夕方ごろに閉会式が行われた。 映し出された仮想現実の…
「人間の証明」わたしは街角で小さな食堂を経営しています。人気のメニューは天ぷらそばで、長くお客さんに愛されているメニューでもあります。もともとこの店は父と母が開いた店で、父が亡くなった際にわたしと母とで畳もうかと悩みましたが、常連のお客さ…