モブトエキストラ

左利きのメモ魔が綴る名もなき日常

星砂物語の感想

隠したい秘密を知らせたい


装幀が夜空をイメージさせるものだったので、これは恐らく天文学者になりたい少年が主人公の青春群像劇だろうと思ったんです。
そうしたら戦争真っ只中の世界に引きずり込まれまして「何が青春群像劇だ!この非国民めっ!」みたいな笑
そんなだから、冒頭部分は頭に入ってきませんでした。
読み終わってから気づいたのですが、作者のロジャー・パルバース氏は「戦場のメリークリスマス」の助監督をやっていた方だそうです。言われてみれば確かにそんな感じがしないでもない。

物語の前半は16歳の少女が洞穴の中で出会った2人の脱走兵を匿う話です。
鳩間島を舞台に描かれています。コブクロの「ここにしか咲かない花」が作られた島ですね。
ウミガメやエラブウミヘビといった、蒼い海の匂いがしそうな生き物が出てきますが、食材扱いなので生々しい描写でお届けしております。(獲ったどー‼︎の世界)

小さな島の洞穴の中で、戦争をしているはずのアメリカ兵と日本兵が洞穴で生活をしている。少女はこの洞穴の中の小さな平和を守る為に必死で行動します。
子供の頃に出会う特有の秘密が、心的成長を促すというのは、よく描かれることではありますが、敵国の兵士を匿っているのが見つかれば国に殺されるのは明白です。
このあたりのドキドキ感は隠れて子猫を育てるのとはワケが違います。洞穴の存在がバレそうになる描写が2〜3回あるのですが、そのたび『\(^o^)/オワタ』という顔文字が頭に浮かびました。

物語の後半では少しのミステリー要素が織り交ぜられていて、面白いなぁと思いました。
前半の物語が戦後となった現代に日記という形で見つかるのですが、戦中に書かれたはずの日記が戦後に発明されたインクで書かれている事に大学生が気づくのです。
馬鹿な大学生ならオーパーツ扱いして終わりでしょうけど、ちゃんとした子だったので物語が急展開。
16歳の少女はお婆さんになって登場するのです。

胸が苦しくなるから戦争体験を語る人は少ないですが、少女は戦後を迎えてから日本兵とアメリカ兵が共に助け合って生活していた事を知らせる為に日記に書いたのでした。
この大学生とお婆さんが対面するシーンはただ涙を流すというものですが、記憶がフラッシュバックする感じが伝わってきます。
お婆さんが語る中で、美談だけで終わらせないところは歴史を継承するという点であるべき姿のように思いました。
とくに、戦後70年を迎えた私たちは敗戦を終戦と呼ぶ「永続敗戦論」の中にいて、人為的に起こした戦争を天災のように扱っています。
この物語の中で「いつ戦争は終わるのか?」という疑問を持つ描写があるのですが、それはつまり個人的な意思決定もなく勝手に戦争が始まってしまい、ただ殺し合いを見ているしかできない無力さを描いていると思うんです。
端的に言うと、「民主主義がない世界」なんですよ。どんなに空がキレイで海が蒼くても。
しかも、多くの人々はこれは間違っていると理解しているのに言葉にすれば殺される。でも洞穴の中ではそれが許されたんです。
そこで「ああ、なるほど」と私は思いました。

「もろたで工藤!お婆さんが伝えたかったっちゅーんはこれやで!」って大阪の高校生探偵なら言いますね。

あえて悪かった点を書くと、女子大学生のキャラ設定ですね。現代人を印象付ける為にギャルっぽい文章が使われているんですが、ロジャーさんが思うギャル像が何世代か前のものなのでチョベリバですわ。
思い当たるのはそれぐらいですかね。
深読みできるいい話です。

星砂物語

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