幼形成熟の国
しかし、今回の場合はそうではない。
本の表紙にはソファに足を伸ばす少女が一人居て、その本のタイトルは「ロリータ」である。はっきりと言っておきたいが私はロリコンではない。
それは以前から漠然とした疑問として私の中にあったこと。例えば他国のジョンベネという少女が殺されたことを大々的に取り上げていたマスコミやそれに興味を寄せる大人たちも理解できなかったが、昨今の我が国ではJKビジネスに飽き足らず、戦車や戦艦を少女に擬人化して遊ぶのが流行っているのを皆さんはご存知だろうか?
こうした趣味を個人が楽しむことについては自由だと思うし、嫌悪したところでその感情が存在するのであれば理解すべきだと私は考える。それによって社会の多様性が確保されるのだから。
問題はその価値観を教育教材や防衛省が取り入れ始めたことだ。
権力が腐敗するのは言うまでもなく、コントロールしようとする力が働くのは当然のこと。少数の人間が好むジャンルを権力者や資本主義者がポピュリズムに植え付けようとしていたら私は私の自由でそれを拒否したい。
こんな私にとっては何も考えずに支配を受け入れてしまう人間の精神は理解し難い。
なげーよ乁(๑˙ϖ˙๑)ㄏ
枕がロールケーキぐらい長くなっちゃったから本題に入ります。
今年、読んだ本の中でナンバーワン੯ੁૂ‧̀͡uわんわんお
久しぶりに本を読んで衝撃を受けました。
月並みな表現だと素晴らしいの一言に尽きますが、私のなりの言葉で表すならば「ナボコフさんは天才すぎて変態紳士を創造してしまった!」です。
いやぁ、どの角度から感想を書くか迷いますおサザエタラオ。
この本を読む前の私が頭に描いたストーリーは、連続幼女誘拐殺人が発生して、名探偵が犯人の形跡を辿ると、なんと犯人は犯行現場で警官の格好をし陣頭指揮を執っていたという…サスペンス小説。
ナボコフ氏はそんな私の想像をいとも簡単に超えてシマウマです。やばいです。
あらすじからざっくりと書いていきたいと思いますがーー
この小説は独特な構成をしているとともに、それはストーリー上そうせざるを得ない展開から始まります。
いきなり序章で小説の作者であるハンバート・ハンバートが「とある裁判」の初公判の数日前に死去してしまうのです。
遺書にはこの小説の出版を自分の代わりに弁護士へ委託する旨が書かれており、弁護士はその通りに小説を出版したという流れです。「出落ち」とも取れる展開で幕は上がり、二章構成の長い文体が読者を引きずり込むのです。
第一章 変態紳士
この小説は序章で亡くなったハンバートが書いた自叙伝であると同時に、裁判の内容を知る上で重要な鍵として位置付けられます。
ハンバートは1910年パリに生まれました。父はホテルの経営者で母はジェローム・ダンという登山家の娘と30歳の時に結婚。
ハンバートが3歳の時に行ったピクニックで落雷を食らって母が死亡←えっ?
母が死んでからは母の姉であるシビルが家政婦兼家庭教師としてハンバートを厳格に育てます。(だがしかし!ハンバートが16歳の誕生日を迎えたら自分は死ぬという趣旨の詩を残し、その通りに彼女は死亡するのだ←はっ?)
ハンバートは12歳の時にアナベルという少女に恋をします。これが初恋ですね。
周囲には常に大人がいる状況だったので、二人きりになれる時間はありませんでしたがアナベルもハンバートに好意を抱いていました。
ある時、岩かげでいちゃつくチャンスを得ましたが通りすがりのヒゲのおっさんがガン見してきて失敗。この苦い記憶の4ヶ月後にアナベルは発疹チフスで死亡。
ハンバートは絶望←すでに3人死んでます笑
周囲の人々はハンバートのことを大切にしてくれたし、父親も愛情を注いでくれたので「幸せで健康な少年時代」と記載されています。それでもアナベルを失ったトラウマは癒えることがなく、これが24年後に暴走するのです。
学生時代はパリで精神医学を学んでいましたが、単位が足りずに英文学に転向。
書き上げた論文が学者の目に止まり、フランス文学の入門書を製作。
社会人を相手にした英会話教室の講師の仕事を得た後、続けて男子校が雇ってくれた。ソーシャルワーカーや精神療法医のつてを利用して施設を訪れる機会があった時には少女たちをジロジロ見て楽しんだ←アナベルを失ったことで変態紳士が生まれました
ニンフェット
ハンバートの理論では、9歳から14歳の少女が自分よりも何倍も年上の異性に対して邪悪な魅力を発すると記載されていて、この少女をニンフェット(悪魔のような)と定義づけ、魅了される変態紳士をニンフェット狂としています。
この小説の中では現代使われているロリコンという言葉は一度も出てきません。
ハンバートは自らの外見を、指を鳴らすだけで女性を自分のものにできるぐらいのイケメンと書いています。変態紳士とは彼の為に存在する言葉ですね。
ニンフェット狂を隠す為、または通常の人間になれるかもと考えたハンバートはポーランド人医師の娘であるヴァレリアとの結婚を決めます。
脳内補整をかけておてんば少女に見ていたヴァレリアと一晩過ごしたハンバートはこう書き記しています。
初夜を過ぎると、大柄で肥満で、短足で、巨乳で、ほとんど脳なしの田舎娘になってしまったーー
笑うしかないです。
さらに面白いのは、このヴァレリアが浮気をして離婚するっていう…(´・ー・`)
この後、ニューイングランドに住むマックー氏という人物の家を間借りすることにしますが、引越しの当日にマックー宅が火事で全焼\(^o^)/オワタ
マックー氏の代わりに部屋を提供してもいいと名乗り出たのがヘイズ夫人。
30代後半の未亡人で、普通の小説ならば昼ドラ展開へ向かうはずだ。
普通の女性に性欲を持たないイケメンハンバートは「うわぁ、こいつの愛人としてこの家に住むの嫌だわぁ」と、ドン引きしながら早々にお断りしようとしていた。
しかし、そこで夫人の娘ドロレス(ロリータの語源)に遭遇し、アナベルをフラッシュバック。変態紳士は「アナベルの生まれ変わりダァァァ」と脳内変換をして、ここに住むことにしたのだった。
ハンバートは考えた。
ヘイズ夫人がいなければドロレスと二人っきりになれる。ヘイズを殺すにはどうしたいいんだろうーーと…笑
その直後に夫人からドロレスはサマーキャンプで3週間不在になると聞かされる。
そのあと、夫人がハンバートに「出て行って! 貴方に恋して辛すぎる!」的な置き手紙をする昼ドラ路線が浮上(笑)
無慈悲な変態紳士は「夫人と結婚して殺してしまえば、法的にドロレスと二人っきりになれるぞ!」というアイデアを思いつくのであった。
その後、誰もいない湖畔に出かけた時に水泳中のヘイズの足を水中から引きずり込んで殺そうとしたが、変態紳士はチキンすぎて殺すことができなかった。
ここら辺の文章は読者に語りかけるように書かれているので印象深い。
ヘイズは敬虔なキリスト教徒で「もしあなたがキリストを信じていなかったら自殺するわ」というぐらいクレイジーな面を見せ、それと同時に嫉妬が激しい人間だった。
そんなヘイズからしてみれば、ハンバートと二人きりになるにはドロレスは邪魔な存在でしかなく、サマーキャンプが終わったら全寮制の大学へ入学させると決めていた。
これを知った変態紳士はふざけんなよ糞BBAと思いながらも、常人のフリをして、なぜ夫である自分には選択肢がないのかとヘイズを問い詰めた。
これによって精神的優位を確保することに成功。
変態日記
変態紳士のハンバートは自分の頭に浮かぶ妄想を紙に書き記しており、それを鍵のかかった机に保管していた。
ある日ハンバートが帰宅すると、そこには何もかもを知り、怒りに震えるヘイズの姿があった。
彼女は3通の手紙を書き終え、ポストに投函する為に家から出た。
そこにトラックが突っ込んでヘイズが死亡\(^o^)/
ハンバートは喜びを抑えながら彼女が出そうとしていた手紙を抹殺し、悲しむ夫を演じたのであった。←ゲスぅぅ
ドロレスをサマーキャンプに向かいに行き、お母さんが入院したと嘘をついた変態紳士はドロレスに薬を飲ませてエロいことをしようと考えた。
しかし、薬が効かないハプニングが発生。
下手に手出しできない均衡状態が続くも、いきなりドロレスにディープキスをされた変態紳士は我を失い昇天。
その後、ヘイズが死亡したことをカミングアウトして第一章が終わります。
長くなるから、あらすじはこれくらいで ✄カット
とめどなく濃密な比喩と詩的表現
考えてみれば、この作品は読書が苦手だった私が初めて読んだ長編小説であるとともに、初めて読んだロシア文学?になるのかもしれない。
この作品だけを読んでナボコフを理解した気になるつもりはないが、正直言ってこの人は天才だと思う。
濃密な比喩表現を詩的に表現していて、これは今までに読んだことのない天才的な表現力と、そこらへんの作家にはとうてい超えることのできないハードルで書かれている。
具体的に取り上げてみます。
↑これはハンバートがヘイズ夫人宅を初めて訪れるシーンです。
ハンバートをもてなすために作っている料理が焦げてしまうシーンが頭に浮かびます。
このサザエさんに出てくるテンプレ風景を覚えておいて下さい。次に、膝の上にドロレスが乗ってきて絶頂を迎えたことを肯定するハンバートの一文をご覧あれ。
私は自分が誇らしい気分になった。未成年者のモラルを損なわずに、痙攣という蜜を盗んだのである。まったく何も危害を加えていない。若い女性が持っていた新品の白いハンドバッグの中に、奇術師がミルクと、精蜜と、泡立つシャンペンを注ぎ込んだのに、見よ、バッグは元のままなのだ。かくして、下劣で、熱のこもった、罪深い夢を巧妙に組み立てても、それでもまだロリータは安全だし、私も安全なのだ。私が狂おしく我がものにしたのは彼女ではなく、私自身が創造したもので、もう一つの、幻想ロリータだったーー おそらくそれは、ロリータよりももっとリアルなロリータだ。彼女と重なり合い、彼女を包み込む存在。私と彼女とのあいだにただよい、意志ももたず、意識もないーー それどころか自分の生命も持たないのである。
↑全く別の人間が書いたかのような振れ幅です。この部分は小説の全てなのではないかと私は考えます。✳︎これについてはあとで書きます。
↑これはドロレスに飲ませる薬の比喩を比べたものです。右は医者に薬をねだるところで、左は人を死んだように眠らせる薬を「魔法の弾薬」と呼ぶ狂人ハンバート
↑この部分は具体的にニンフェット狂の生態を書き記した文章。興味深いのは「詩人はけっして人殺しをしない」という点です。
小説の最後でハンバートは歯科医の男を一人殺しました。それを表している秀逸な文章がこちら。
自分からドロレスを奪った憎き相手に撃ち込んだ弾薬を「若返りの妙薬」と表現しています。ハンバートのサディスティックな人間性があらわれた瞬間であると同時に詩人ではなくなった瞬間です。
読み返してみてもこの矛盾について語られてはいないので解釈に困りました。
✳︎これについても後ほど
天才ナボコフを翻訳した天才若木島正
物語を読み終えた私は「こんなにも読者を挑発的な文章で煽る(アメコミのデッド・プールのハシリですね)のだから、さぞかし攻撃的な躁鬱飼いなんだろう」と思いました。
読み進めると天才ナボコフのあとがきには、凡才の感情をたしなめる一言が書いてあったのです。
心優しき人々の中には、『ロリータ』が何も教えてくれないから無意味だと言う人もいるだろう。私は教訓的小説の読者でもなければ作家でもないし、ジョン・レイがなんと言おうと、『ロリータ』は教訓を一切引きずっていない。私にとって虚構作品の存在意義とは、私が直截的に美的至福と呼ぶものを与えてくれるかどうかであり、それはどういうわけか、どこかで、芸術(好奇心、情愛、思いやり、恍惚感)が規範となるような別の存在状態と結びついているという意識なのだ。〈中略〉
ある国について、あるいはある社会階級について、あるいは作者について情報を得るために虚構作品を勉強しようというのは子供じみた考えである。それなのに、私のごく少ない親友の一人は『ロリータ』を読んだ後で、私が(この私が!)「こんな憂鬱な人々に囲まれて」暮らしているのを本気で心配してくれたーー この私が実際に体験した唯一の居心地の悪さと言えば、仕事部屋で破棄された手足や未完成のままに終わった胴体と一緒に暮らしているということだけなのだ。〈私的解釈〉
まだこの世に存在しない私の欲しいモノの存在価値は、当たり前に私を満たすというそれだけの為に存在するのであって読者に教訓を教えるためではない。
それなのに私の友達はまるで事実のように受け止めて心配してくれた。
私にとって事実なのは不完全なまま存在している物語と生活を共にしているということだ。
この解釈を先程に挙げた「核の文章」と「矛盾」に反映させると「たけしの挑戦状」と同じジャンルではないか!!!
うわぁ。ナボコフのドッキリ大成功ですわぁ笑
面白いけどさ。
それと脱帽するのは翻訳を担当した若島正氏のあとがき。
一つはハンバートが死去した日付に3日間の矛盾点があると指摘していること。これには気付きませんでした。(数学ってなぁに?美味しいのてへぺろ)
ナボコフは翻訳版の原稿にも目を通していて、その日付を強調するような表現にしたことから、意図的に仕組んだものという見方が語られています。
(それ込みでマジになっちゃってどーすんのbyナボコフ だと私は解釈しますけど)
もう一つは、信じられないんですけど、これだけ多種多様な比喩表現が滝のように流れている作品をわずか2ヶ月で翻訳したそうなんですよ笑笑
それを2ヶ月ですよ?考えられます?
ぱねーっすよ。
全てをお一人でやったわけではなくて、中田晶子、皆尾麻弥、秋草俊一郎という方々に原稿をチェックしてもらいつつ、ドロレスの言葉使いが古くならないように、ご自分のお嬢様から若者言葉を取り入れて完成させたそうですよ。
「舟を編む」みたいな話じゃないですか!
あとがきだけで映画作れそう笑
いや〜。もう言葉が出なくなりますわ。
で、最後に若島氏について検索してみたんですね。虚構作品ではなく実在の人物ですから。
詰将棋作家、チェス・プロブレム作家でもある。中学生の頃から詰将棋の世界にのめりこみ、1966年「詰将棋パラダイス」誌で入選。詰将棋の二大賞である塚田賞を7回、看寿賞を9回それぞれ受賞。詰将棋作家の親睦団体「創棋会」の会長もつとめた。
チェス・プロブレム作家としては、チェス・プロブレム専門誌 "Problem Paradise" 編集長。日本チェスプロブレム協会会長。『NPOチェス将棋交流協会』理事長。チェス・プロブレムを解く世界大会の日本代表でもあり、チェス・プロブレムの解答者として、最高資格の「グランド・マスター」に次ぐ「インターナショナル・マスター」の資格を、1997年、日本人で初めて獲得。世界ランキング8位にまでなった。プロブレム創作の国際審査員(フェアリー作局限定)でもある。
また、チェス・プロブレムの解答選手権をヒントに、2004年から『チェス将棋交流協会』主宰で毎年、「詰将棋解答選手権」を開催している。実行委員長であったため自らは出場していなかったが、2014年には初めて選手として出場。久保利明や広瀬章人などのトッププロや、宮田敦史、船江恒平などの歴代優勝者を抑えて61歳で初優勝した。
Σ(゚Д゚;o)えええええええええ
久保先生と穴熊王子とフナエモンに勝ったって笑
羽生さんかい? 若島さん天才すぎますよ!
もうどうしようもないです。
この世の全ては天才達が気まぐれに作った知恵の輪に過ぎないのですから。。。
- 作者: ウラジーミルナボコフ
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