モブトエキストラ

左利きのメモ魔が綴る名もなき日常

第三弾「危険な読書」の感想

Red Bible

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第三弾。もちろん今回も買いました。

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目次はこんな感じ。
第一弾は刺激的な本や人を駆り立てる装置としての側面を含めての特集、第二弾はSFやフィクションを中心とした特集でしたが、今回はご覧の通り社会問題やその時代に生きる人々に向けた知識を伝搬する本がメインの特集となっています。

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特集の始まりを飾る見開きページは中国の富豪がコミケに行った絵です。(嘘です) 第二弾から文章が少なくなっているのは残念な希ガス

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立場を悪用しセクハラを行なった悪徳プロデューサーのワインスタイン。今年はこの事件をきっかけに『#Meetoo』運動が一気に広がった年でした。この動きはアメリカの中間選挙に繋がって、ピンクウェーブとして女性候補議席獲得を後押ししたのは記憶に新しいですね。
武田砂鉄さん(ヘビメタが大好きで、この間のタモリ倶楽部では『作者の気持ちを考えよう』という企画に登場し、作者でありながらテストで最下位というオチをつけた面白い人)と荻上チキさん(論点整理がとても上手で濃度の高いラジオ番組を週5でやっている。大好きなアメコミの話題になると早口になりオタクオーラを全開になる人)は『性差別』『社会問題』『歴史の検証』などを話し合いつつ、それにまつわる本を紹介します。全部で12冊紹介されてました。
『危険な読書』という特集の中でこうした問題が語られるということは、社会に事勿れ主義が蔓延しているという事だし、1ページ目にして立ち止まる事の大切さを印象付ける構成は面白いですね。

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危険な作家のページではナボコフが紹介されているのですが、なんと! 宇多田ヒカルさんが曲の制作過程で淡い焰をサンプリングしようとした事を書いているではありませんか!

「流石!編集部! 」と思いました。

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↑ちなこれ、その時の場面ね。
仮タイトルは『Ghost』 試行錯誤を経て『夕凪』へと姿を変えました。

話を戻しますが、ナボコフの粘着質な変態要素がひたすら書いてあって「あー、この人はヤバイな」と思わせるには十分な内容でした。笑

 

次の田中秀征さんと西寺郷太さんの対談は勉強になりました。自民党の歴史なんて興味のある人しかリーチしないと思うし、私も興味が無かったのですが「戦後日本の成り立ちを知ってほしい」という西寺さんのスタンスで構成されているので読みやすかったです。少なくとも今の政権から漂うカルト要素としての『危険な読書』ではないのでご安心を。

 

国語辞典マニアの集いはそれぞれの辞書の個性だったり、広辞苑は言葉が歴史的な文脈で記載されているのを理解していないと使い難いとか、読んだ人にしか分からない部分が本当にマニアックでした。(あとフォントマニアも)

 

今回の特集のほぼ真ん中、トロの部分にあるのが佐野史郎さんと文芸評論家の東雅夫さんが語る『この世は、クトゥルー神話。』
第一弾の荒俣さんばりの探究心が爆発してて面白いし、ページのデザインが黒いから危ない雰囲気が漂ってます。でも、クトゥルー神話自体はフィクションを紡ぐ文化なので、存在しないのに重厚感が半端ないみたいな奇妙な内容となっています。

佐野 極論を言うと、僕にとってはこの世はすべてクトゥルー神話なんです。
東 と、言いますと?
佐野 今ある国家や社会のあり方というのは、それこそTRPG(テーブル・トークロールプレイングゲーム)と一緒で、誰かがある時点から作り上げてきた規則やそれまでの風習ですよね。このルールブックに沿ってやっていこう、という了解のうえに成り立っている。僕も生まれてからずっとそのルールを受け入れているわけですけど、「ルールは一つだけじゃない」という感覚が子供の頃からあった。実際にルールやモラルは変化し続けているのですが。
〈中略〉
毎日働いて税金を納めている自分と、クトゥルー神話に没頭している自分。もちろん現実があればこそフィクションを認識できるんだけど。それでも、どっちが本当でどっちが嘘とは、決められないんです。

この後も対談は続いて『這いよれ!ニャル子さん』とか日本の神話体系の話をしつつ、ラヴクラフト作品に触れて欲しいと語られています。

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佐野史郎さんのコレクションがズラリ)
私はこの作品群に触れた事はないのですが、フィクションを語り継ぐ事って日常的にやってるなぁと改めて思いました。ドラマや映画の話もそうだし、今年は2ちゃんねる(現5ちゃんねる)で人を釣るために存在しない大学のサイトやらTwitterアカウントを作っていた事が話題になりましたからね。人間って変わらないんだなぁと感じます。
うどん屋「ドタキャン受けた」とTwitter投稿 「気の毒」と拡散したが、店も加害者も架空 - ITmedia NEWS

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理系読書99では様々なジャンルの方々がコレは読んでおいて間違いないという本を3冊ずつ紹介していて、どれも面白そうに見えてしまいました。その中に私も読んだ事のある本があったので共感しました。

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また、『夏休み子ども科学電話相談』でもお馴染みの川上和人a.k.a.バード川上さんと探検家の角幡唯介さんの対談では、NHKのドキュメンタリーで放送された南硫黄島の話から始まり、テクノロジーの発達と冒険の関係などが語られています。興味深くて面白かったです。

 NHKスペシャル | 秘島探検 東京ロストワールド第1集南硫黄島

 

特集自体は以上で終わりですが、相変わらず「いいちこ」の見開き広告はデザインセンスが良くて、誰が作ってるのか分かりませんが天才だと思うし、菅原敏さんのコラムでは紙魚(しみ)について書かれていたのが面白かったです。

おわりに

第一弾は全体的に濃度が濃くて、個人的に好きな著名人の方が多かったので文句なしに面白かった。それで第二弾も買ってみたけど、私は漫画の守備範囲が狭いのであまり共感できなかったんです。だから第三弾を買う前に若干不安だったんですが、佐野史郎さんのクトゥルー神話の話とナボコフが危険な作家認定された事、あとは理系読書99のパートが面白かったから楽しめました。欲を言えばもう1人ぐらい有名な方(佐野史郎さんが黒だったから明るい狂人欲しい←)がいた方が良かったと思います。
あと、フォントマニアと辞書マニアは『マツコの知らない世界』と『タモリ倶楽部』のイメージが強すぎて危険な読書とは違うカテゴリーに感じました。

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真っ赤な表紙のわりに地味だった(シャアザクかと思ったらザクに乗った勝俣州和が吠えてるだけだったらどうします?)というのが一点と、絶版の本の内容だとか、理解し難い作品や知識を口語訳できる方のインタビューがもっと紹介されているほうが個人的には面白いので、第一弾ぐらいの濃度を保って欲しいというのが希望です。
もちろん第四弾が発売されたら買いたいと思います。