モブトエキストラ

左利きのメモ魔が綴る名もなき日常

「ボクの自学ノート~7年間の小さな大冒険~」と+αの感想

NHKドキュメンタリー - BS1スペシャル「ボクの自学ノート~7年間の小さな大冒険~」
少し前にEテレで「ボクの自学ノート~7年間の小さな大冒険~」という番組をやっていた。
物が売れない今の世の中、商品名や本のタイトルは消費者に分かりやすい名前が付けられている。調理しやすいように魚の骨を取り除いて並べるのと同じで、視覚情報を理解する時間を短縮する為の咀嚼だ。「ボクの自学ノート~7年間の小さな大冒険~」というタイトルからは、主人公が7年の間、自学ノートというものを書き綴っている事は分かる。でも、「小さな大冒険」という真逆な言葉が使われているのはNHKのドキュメンタリー番組でありながら、内容が想像できないのは大きな魅力に感じた。
何となく気になって見てみたら、面白くてあっという間に見終わってしまった。
学校よりも楽しい事を見つけた少年が、それにのめり込むがあまり、学校での居場所をなくしてしまう。そんな彼の心の支えになっていたのが、自分のアンテナに引っかかった事についてひたすらノートに書き記していく「自学ノート」で、そのノートを介して彼が人々と繋がっていく過程を追ったドキュメンタリー。
もともと自学ノートは授業がきっかけで始めたもので、彼は新聞記事のスクラップをノートに貼って感想を書くというスタイルで開始した。授業としての役割が終わると、クラスのみんなは当然自学ノートをやめてしまった。でも、物事を知る楽しさを知った彼は誰に見せるわけでもない自学ノートを継続する。そこで彼のお母さんが文化施設学芸員さんに見せてみたらどうだろうかとアドバイスをして、彼はそのノートを持って歩き始めた。そうやって活動範囲を広げていき、近所の文化施設業界のなかでは有名人になり、コンテストでも常連となってリリーフランキーさんとも繋がってしまう。
生徒の個性を削って合同な形に作り変える公教育の中では「勉強も体育も不得意でコミュニケーション不足な子」である彼が、学校の外では「押しの強い物知りな子」だったりする。評価値を上回るかどうか測るシステムのふるいにかけられ、彼は公立受験に落ちて私立高校に行くことになったが、彼の目を見て話を聞いてくれる学芸員さんや、館長さんは彼の才能を評価していた。それだけではなく、我が子が周りの子どもと違う事に悩む彼のお母さんにも寄り添っていたというのも大きい。番組の最後は福岡伸一さんの書籍『ルリボシカミキリの青: 福岡ハカセができるまで』の一文で幕を閉じた。
で、ここからは私の感想。
彼がやっていた事をそのまま他の生徒もやったとしたら、大量のノートを渡された人は仕事にならないだろう。この番組に関わらず「シッシッ、あっちに行け。仕事にならん」と、大人に門前払いを食らって小さな勇気を挫かれた子どもは星の数ほどいるはずだ。重要な事は彼がやっていた事の本質は「師匠を探していた」という事だと思う。
これもまた教育の問題で、日本は教育にかける予算が本当に少なくて、生徒の理解を置き去りにスケジュールありきで進んでいくし、教師が教師に暴力を振るったり、文科大臣が「身の丈にあった〜」と発言したり、試験をベネッセに売り払う事を平気でやる。こんな状況だからなおさら生徒は知的好奇心があっても師匠に飢えてるんだと私は思う。その一方で教師の労働環境もひどい。企業優位な裁量労働制が議論になっているが、すでに教師という職業は働かせ放題で、授業の資料作成や部活動の顧問など時間外労働が当たり前になっている。こうした現状が改善されない限り、教師になりたい人も増えない。現状の制度のままでは豊かさを失う一方だと教育者は気付くべきで、生徒一人一人が心から笑える空間を作るべきだと思う。
「ボクの自学ノート~7年間の小さな大冒険~」はここ最近見たドキュメンタリーの中で3本指に入る良作だった。
ちなみにあと2つについても書いておこう。

中西麻耶(パラ陸上競技選手) | 情熱大陸
情熱大陸』の中西麻耶さん。
歌手のNakamuraEmiさんがTwitterで「麻耶ちゃんが出るよ〜」とツイートしてたので見てみたら(毎週見てるけど)ドバイのパラ陸上に出場されてた方で、私そのパラ陸上の放送見てたから、情熱大陸のラストに記録更新の跳躍が出てきた瞬間に脳みその記録が繋がった。
自分でスポンサーを探したり、イベントのチケットを手売りしたり、あとは身体の痛みとは別に義足のソケットが合わないというパラアスリート特有の悩みや、マラソン大会にゲストとして呼ばれてるのに紹介もないぞんざいな扱いをされてる実態だとか、カメラがパラアスリートの目線から社会を映し出しているから、まざまざと社会に存在する障害が見えて、ドキュメンタリーとしてとても良かった。

尾畠春夫 人生は恩返し ~スーパーボランティアと呼ばれた男~ - FNSドキュメンタリー大賞
2つ目はフジテレビの深夜に放送された大分放送制作の尾畠春夫さんのドキュメンタリー。大分放送は3.11後から尾畠さんを追跡主催していて、全国的に有名になる前からのアーカイブが豊富だった。一番古いアーカイブは尾畠さんの家の隣に住んでた方(林さんだったかな?)が撮影していた登山道の整備の様子で、夜中に尾畠さんが縄を編んでいたところを帰宅してきた林さんが通りかかったのがきっかけだそうで、「よく撮影したなぁ」と感心すると共に、ずっと前からボランティアを継続してる尾畠さんの実直さが裏付けられたドキュメンタリーだった。
今現在、不都合な歴史は何でもかんでもシュレッダーにかける政府が問題になってるけど、ドキュメンタリー番組を見るたびにアーカイブの重要性に気付く。

 

おわり