淡々と綴られる事件たち
それぞれ独立した物語ですから、順番は関係ないのでしょうけど、正直なところ、先日に読み終えた「犯罪」のほうがストーリー構成が上手かったので物足りなかったです。
イラストは「犯罪」と同じで、タダジュンという方が担当されています。
サイトのリンク貼っておきます。
物語の書き方も「犯罪」と同じように、弁護士が語り手として事件を説明し、その後どうなったのかまでが一話分の流れです。
多少、時間軸が前後することがあるので「彼」が誰のことを指すのか分かりにくい箇所があります。読みにくさとしてはそのくらいです。
ただ、後味が悪い!っていう別の問題がありますが…
ちょっと、簡単にタイトルと内容を書き出してみたいと思います。
主な内容は…
- ふるさと祭り→集団暴行事件
- 遺伝子→日の打ち所がない夫婦の過去がDNA鑑定の発達によって判明する
- イルミナティ→少年たちのイジメがカルト化して集団暴行事件へと発展
- 子供たち→冤罪
- 解剖学→用意周到に殺人を計画した男の想定外
- アタッシュケース→運び屋を頼まれた一般人の話
- 欲求→セックスレスになった妻が窃盗に走る話
- 雪→薬物の受け渡し場所を提供していた孤独な老人の話
- 鍵→犬が鍵を食べてしまう話
- 寂しさ→強姦されて身籠って赤ん坊を殺してしまった過去と幸せな現在
- 司法当局→名前が似てるだけで犯人扱いされたけどシカトする話
- 清算→酒を飲むと人が変わったように暴力を加える夫の殺し方
- 家族→過去にいくつもの犯罪を犯した父親を持つ息子は「私たちで終わりにしよう」と呟く
- 秘密→毎日、弁護士事務所を訪れてくる頭のおかしい男を親切に病院へと送り届けるシーラッハ氏
ドイツを舞台にした話ですが、改めて概略を書き出してみると日本でも実際に起こり得る話もいくつかあるなぁと感じます。
「イルミナティ」という話は「川崎市中1男子生徒殺害事件」を想起させますし、「清算」は死亡に至るような家庭内暴力を受け続けている妻が唯一、夫の暴力を止める方法が「殺人」だったという話です。裁判では正当防衛が論点になりますが、最後に大逆転があったりして。
一番最初の「ふるさとまつり」という話は100点満点で後味が悪いです。
「後味が悪い話」って「救いのない話」とも言い変えることができると思うんですが、語り手が弁護士なだけに「罪悪」が凄いです。
弁護士だったらトラウマになるでしょうね。
「子供たち」も嫌ですね。実例を挙げると、今月の頭に「難民に集団強姦された」という話が少女の嘘であったことが判明しています。
冤罪はフィクションではないなぁと感じました。
あとは、ドイツにおける司法の性格が書かれている文章があって、勉強になりました。
殺人未遂と傷害事件について記載されています。
容疑者が何をしたか?という点で裁くのと、意図的に何をしなかったのか?という点で裁くのとで国の持つ特性も窺い知ることができそうですね。
端的に言えば、いかに犯罪者に重い罰を与えるか、いかに犯罪者を救済するかの違いです。
全ては驚きから始まる--
- 作者: フェルディナント・フォン・シーラッハ,酒寄進一
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