3月が近づかないと原発事故の話題に触れなくなったように感じるなか、報道特集がチェルノブイリの新しい取り組みについて特集していたのでまとめておこうと思います。
立ち入り区域の再編
現在もチェルノブイリでは大型のドームによって事故を起こした原子炉が覆われています。(ちなみに福島第一原発でも同じようなドーム型のカバーが今月の31日と来月の2日に設置される予定です)
立ち入り禁止区域となっていた場所の線量が落ち着いてきたので、再編が議論されているそうです。
禁止区域に住んでいるガンナさんの畑の空間線量は0.06〜0.08μSv/hと紹介されていました。セシウムの半減期が30年なのでこれくらいのオーダーに落ち着いたのでしょうね。
一方で事故直後に作業員が運び込まれていた病院の中に取り残されたガーゼに線量計を近づけると、1.1mSv/hという数値を叩き出しました。なぜこんなものが放置されているのかは推測するしかありませんが、建物そのものが汚染されているから、ガーゼやらなんやら残置するしかないのでしょうね…
このように生活できる場所と線量が高止まりしている場所があるので、日本の福島大学環境放射能研究者、筑波大学などのチームとウクライナの研究者が共同研究が決まったそう。
調査対象はいくつかあって、その一つがチェルノブイリ原発の冷却水を供給していた貯水池。近年になって水位が低下しているので、もし露出した際にダストの舞い上がりが懸念されるそう。
難波所長は放射性物質が水溶性に変化して地下水を経由して地下水の外へ漏れ出すリスクも懸念していました。
貯水池の一番深いところから採取した泥からは1.45mSv/hという値が計測されました。この計測器が検知したのは恐らくガンマ線でしょうから、ストロンチウムなどの影響は詳細な分析をしないと分かりませんね。
東北の阿武隈水川系で継続調査(汚染の低い地域と高い地域にヤマメを放流して傾向監視するもの)をしている和田准教授の話では、この貯水池の魚のセシウム濃度は福島と近い印象を抱いたそうです。
つまりは環境が似ているからデータを比較することができるのではないかということですね。環境センターの職員さんの話ではコイやレンギョはナマズが多く、1.5mを超える個体もいるそうです。
あと大量のブヨが発生するので調査がやりにくそうでした。蚊とか蜂は黒によってくるから、作業着を白くしたほうがよさそうですね…
森が汚染されたことによって野生動物や昆虫は継続的な被ばくを受けるわけですが、その森で火事が起きるとどのような影響をもたらすのかというのも調査対象だそう。
普通なら放射性物質は専用の容器に入れて厳重に保管されますが、森そのものが汚染されてしまったら管理方法を考えないといけませんよね。
話は再び4号機へ。これはドームの中の4号機。経年劣化を防ぐための補強工事が行われています。
こちらは事故後のに確認された溶融燃料いわゆる「象の足」
4号機の廃炉責任者のブリタンさんは「どれくらいの年数がかかるのか、おおよその年数を言うのも難しい。廃炉までどれくらいかかるか今は言えない」とインタビューに答えました。
今言えることはドーム型のカバーの耐用年数が100年であることだけだそうです。
甲状腺がんについて
環境影響の他にもう一つ大きな問題が健康被害についてです。
ウクライナ内分泌代謝研究センターでは事故から31年が経った現在でも、訪れる患者が後をたちません。
原発周辺に住んでいたナターシャさんは当時3歳でしたが、今になって甲状腺に5ミリの塊が発見されました。
チェルノブイリ原発事故が発生した4〜6年後に小児甲状腺ガンが急増しましたが、これは放射性ヨウ素で汚染されたミルクを飲んだことなどが原因だとされています。
しかし、今は数十年たってから甲状腺がんを発症する女性が多発しているのです。
ボルゴフ教授)(数十年後に甲状腺がん発症は)なぜか今 研究者たちが大変注目をしている。放射性ヨウ素は事故後2ヶ月間でなくなったのになぜ 後になって腫瘍ができる人がいるのか
ん? なんで放射性ヨウ素しか見てないんでしょうね…
チェルノブイリネックレスと呼ばれた昔よりも、今は手術の傷が小さく済むような方法に変わっているように見えました。術後2、3日で患者さんは退院するそうです。
医師の話では放射線がどのような影響を及ぼしているのかは分からないが、チェルノブイリ事故の何らかの影響があるだろうと見ているとのことです。
こちらが事故後に発表された報告書のデータ
10万人あたり何人が甲状腺がんを発症するかというグラフです。
もともと甲状腺は女性に多い病気なので低汚染地域でも、高汚染地域の男性よりも高い確率で発症することが分かります。
ただ、それにしても高汚染地域に住む女性のトレンドが跳ね上がってますね。現在でも10万人あたり20人の女性が甲状腺がんを発症している。
こちらはウクライナのオブルチ中央総合病院。妊婦さんの健康被害が確認されているようです。
医師) ほとんど全ての妊婦に出産の際、何らかの問題があり、心臓や血管などの循環器系、内分泌系などにも問題が出ることがある
国際機関が因果関係を認定しているのは事故後に多発した小児甲状腺がんと作業員の白血病や白内障。
継続的な調査によって、汚染地域では他の地域と比べて免疫系や循環器系など、さまざまな病気を発症する割合が高いことが確認されています。
これについて国立放射線医学研究センターのバジーカ所長は以下のような見解を示しました。
バジーカ所長)人々が経験したストレスや移住などの要因が血液循環システムに影響を及ぼしている。放射性物質は血液循環疾患の1番の要因にはなっていない。そして食生活も生活様式も血液循環疾患に影響する。
放射性物質の影響を立証するには、あと60年かかるそうです。(隔世遺伝を考慮して三世代ということでしょうか?)
ウクライナ国立放射線医学研究センター チュマク教授)もし、福島の事故が起きなかったら私たちは「チェルノブイリなんてもう飽きた」「これ以上混乱させないでくれ。終わったことじゃないか」と言われていただろう。でもそうではない。心理的な影響も、ずっとずっと残り続ける。
バジーカ所長) 多くの人がシェルターの建設が終われば100年は大丈夫で、チェルノブイリの問題は終わると考えているがそれは違う。
チェルノブイリの健康への影響はまだ解消されていない。終わっていない。
取材にあたった金氏記者の話では、継続的な調査による多額の費用を理由に「やめるべきだ」という意見を話が持ち上がった時に、研究者たちはその調査によって子どもへの影響が分かったのだからやめるつもりはないと意見したそうです。
日本にもこういう研究者や医師がいてほしいですね。全ての疑問がなくなるまで調査をしないとストレスはなくなりませんからね。
燃料デブリ取り出しの技術的方針9月めどに|日テレNEWS24
東京電力はこの夏にデブリの取り出し方針を決めて、2021年にデブリを取り出すと言っています。
取り出すと決めてから方針を決めるという論理構造が私には分かりませんし、思考回路が「もんじゅ」と変わっていないように思います。
格納容器の内部調査をしても外見からは判別できませんから「デブリのようなもの」と表現するしかなく、広範囲に飛び散っている可能性も高い。それが3機もあるわけです…
チェルノブイリから学べば学ぶほど頭をもたげてしまいますが、冒頭で紹介されたガンナさんが「ネギでもニンニクでも何でも育てているよ」と言っていたのが印象的で、継続的な絶望感の中にも希望があるように思います。絶望感に苛まれて目の前の幸せに気づかないのは不幸ですからね。
おしまい