モブトエキストラ

左利きのメモ魔が綴る名もなき日常

「パラサイト 半地下の家族」を見た感想(事実は小説よりも奇なり)

金曜ロードショーで『パラサイト 半地下の家族』が放送された。
35周年記念という事でオープニングも特別仕様。私が小さい頃に見た、夕焼けとオッサンとヨットを背景に哀愁漂うラッパが鳴り響くアレが流れた。それをバックにアカデミー賞で初めて作品賞を受賞した『パラサイト 半地下の家族』のタイトルがドーン!
時代が巡ってエモすぎる。笑
内容に関しては2時間以上のサイズでありながら最後まで飽きずに見れた。構成がすごい。個人的に段落をつけるとしたら3.5章ぐらいある。ここからズラズラと感想を書いていくんだけど、相変わらず私は人の名前が覚えられない病なので、そこはご了承ご愁傷ください。

第1章は物語の中心となるキム一家がどのように生活しているかが分かる内容。
キム一家は半地下と呼ばれる場所に住んでいた。半地下は地表から3mぐらい低いところにあるアパート。日本で言うところの体育館の通気窓、柔道場で言うところの柔道部員の脛のあたりにある窓が、唯一採光できる窓。部屋の中は薄暗く、開けておかないと息が詰まり、開けておいても排気ガスがバンバン入ってくるし、酔っ払いが立ちションするので不衛生。立地条件が最低。
キム家のパパは無計画な人、ママは元砲丸投げの選手、長女と長男は貧困で大学に行けないという設定。家族全員でピザの箱を組み立てる内職をしていた。そんな中、長男が幸運のチケットを手に入れる。豪邸に住むパク一家の長女の家庭教師のアルバイトをしないかと友人に持ちかけられた。それをきっかけに金持ち一家をダマして、生活をコントロールしていくというのが第1章。成りすましてミッションを遂行していくのは『オーシャンズ11』みたいな面白さがありつつ、「パラサイト」という名前にふさわしい内容。
パク一家は社長と妻と長女(高校2年)と長男(幼稚園の年長ぐらい?)という家族構成でキム一家とは対照的に描かれる。人数として違うのは家政婦さんがいる事だった。
第2章のキーパーソンはその家政婦さん。パク一家がキャンプか何かに行ってる間にキム一家は豪邸で酒池肉林に舌鼓を打っていた。そこへ桃アレルギーを利用して解雇したはずの元家政婦がチャイムを鳴らす。外は雨が降っていて、若干のホラー演出。元家政婦さんは「地下に忘れ物をした」と言い、現家政婦である砲丸ママは仕方なく中に入れた。そしてここからが急展開。なんと!豪邸の中には地下シェルターが存在し、そこに元家政婦の夫がいるではないか!(ナンダッテー)江戸川乱歩の『屋根裏の散歩者』さながらの展開だ。
元家政婦は「住む場所がない。お願いだからこの人に食事を下さい。お金は払います」と砲丸ママに懇願。しかし、警察に連絡すると伝えた時に、後ろで聞き耳を立てていたパパ、息子、長女がズッコケて元家政婦がナンジャコリャー。動画撮影をして立場が逆転。笑
家政婦夫妻は旦那様に暴露するぞと脅しながら「こいつらに芸術なんて分からないだろう」とか「核のボタンみたいだ」なんて言ってふざけていた。その一瞬の隙をついてパパがアメフトタックルをかましスマホを奪ってすったもんだありつつ、金持ちのパク妻が「川が増水してキャンプできねぇから帰るわ。あと数分で着くからジャージャー麺作っておけ」と電話。キム一家は血相を変えて急いで酒のボトルや食い散らかした犬のジャーキーやら何やらを片付けつつ、家政婦夫妻を地下に幽閉。
第3章は王の帰還ならぬ、金持ち一家の帰宅。砲丸ママが会話をして時間を稼いでいる中、ここに居てはいけないキムパパ、長男、長女は半地下に住むゴキブリのようなムーブで脱出ミッションを開始する事になる。元家政婦が最後の力を振り絞って階段を駆け上がるも、砲丸キックが炸裂し、階段を転がり落ちて頭を強打。パパは元家政婦の夫と会話をしてから家の中に戻った。その後、パパ、長男、長女はテーブルの下に隠れる。そこへ金持ち夫妻が現れ、近くのソファの上でSEXをしだすという屈辱の構図。3人はどうにか豪邸から脱出するも、元家政婦夫妻の存在をどうするべきか悩む。さらに豪雨災害が発生し、半地下の区画には大量の泥水が押し寄せていた。窓は開けっぱなしで家の中はグチャグチャ。下水も逆流して住める状態ではない。3人は避難所で一夜を過ごした。
いよいよクライマックスとなる3.5章。
避難所では住処を失い、着るものもない人々が困り果てているが、豪雨災害なんて関係のない金持ち一家は息子のトラウマ克服の為にパーティをするので長女の家庭教師(長男)、長男のアートセラピスト(長女)とドライバー(パパ)を朝一番で呼び出した。豪邸には金持ちの友達も勢ぞろい。
パパは無計画だったので、完全犯罪を達成する為に長男は映画の冒頭で友人から貰った石を手に、元家政婦夫妻の息を止める為にシェルターへ向かった。しかし、元家政婦は頭を強打して事切れており、復讐の鬼と化した夫はテグスで長男の首を括った。急いで地上に向かって階段を駆け上がるも途中でつかえて倒れてしまう。そこで夫が長男の頭を石で強打。包丁を手に砲丸ママへの復讐へ走る。パーティ会場はパニックに陥り、長女が刺され、パパが止血するも社長は「早く車のキーをよこせ!」と気にも止めない。砲丸ママが殺人鬼をバーベキューの串で刺し、殺人鬼は倒れた。社長は殺人鬼を横目に車のキーを拾う。その一瞬、半地下に住む人間の匂いを嫌う社長の顔は、ゴミを見るような目だった。パパはそれが許せず社長を刺して逃亡。
長女は死亡。長男は頭を強打され脳手術を受け、砲丸ママと共に裁判で裁かれた。パパは豪邸の地下シェルターに息を潜め、ランプをチカチカさせて(モールス信号)を送る。
豪邸の見える山からそれを見た長男は「いつかあの豪邸を買うから、その日まで待っていて」と決意して物語は終わる。

といった感じでとても面白かった。

貧困をテーマに扱うとどうしても作品のムードが重くなってしまって、そういうタイプの映画は倦厭されがちだと思う。でもそれをコメディとホラーを上手く使って、2時間以上も観客を引き込むテクニックは凄い。常に上下のヒエラルキーを意識させる画面になっているのは分かりやすいし、そもそもの幸運のチケットを手にしたきっかけも学歴社会という縮図があって、学歴がなければ上には行けない。だから文書を偽造した事に繋がる。それとパク家の妻が家事ができないという特徴付けも、女性が男性の所有物であるかのような父権社会を表現するものに見えた。また、有能な社長と無能なパパという対比だったけど、人間に対する愛情があるパパのほうが殺人を犯してしまうというのも考えさせられる。酒池肉林のシーンでパパが砲丸ママを殴ると見せかけて殴らないという冗談があったけど、そのパパが差別に対しては殺意を押し殺す事ができなかった。改めて無駄なシーンが少ないなと思う。
キム一家が半地下で過ごす多くのシーンはアットホーム。プライバシーなんてないような狭い家なのに、みんなでセリフを考えてパパが一生懸命覚えたり、服の匂いが同じだから別の洗剤に変えようと話し合ったりする。(犯罪なんだけどねッ!) 一方で豪邸に住むパク家はバラバラで、妻は夫が機嫌を損ねないように振る舞いながら、子供達によりよい教育を与えなければと頭を抱える生活を送り、遊びたい年頃の長女は自由がなくスマホを手放せない。長男はわざと変わった行動を取って両親の愛情が離れないように必死だった。豪邸の中には生活の形跡がほとんどなく、美術館のよう。どちらが幸せな家族なのだろうかと問いかけているように思える。
少なくとも、家政婦夫妻を殺害した砲丸ママと社長を処理したパパのほうが戦闘力は強いと思う。筋肉は嘘をつかない。

昔『スラムドッグ$ミリオネア』という映画があったけど、近年は『私は、ダニエル・ブレイク』『万引き家族』『ジョーカー』『パラサイト 半地下の家族』と多くの話題作で貧困が扱われている。人間は自分とかけ離れた存在について感情移入はできない生き物だから、こうした映画達がこの時代に輝くというのは、誰がどう見ても格差と貧困が拡がっているという事だと思う。ほとんど韓国映画を見ない私でも楽しめる良い映画だった。

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で、この感想文を書いてる2021年1月10日現在、アメリカを動かし続けたトランプ一家が終焉を迎えつつある。先日、武装した支持者達が連邦議会なだれ込むというあり得ない事態が発生し、議会では現職大統領による反乱を許すべきではないとして罷免すべきとの意見が出ている。トランプ一家がホワイトハウスを追われてもこの分断は続く。
事実は小説よりも奇なり。

(おしまい)