モブトエキストラ

左利きのメモ魔が綴る名もなき日常

はちのし

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これは鳥たちがウチのベランダに運んできたタネのコレクション。かなり充実してきた。今の季節は冬だから、鳥が美味しく頂ける木の実も少ない。それでも毎朝ベランダを確認するのが日課だ。

先日もベランダに何か落ちていた。どうやら虫の死骸らしい。

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拾い上げてみるとミツバチだった。「どうしてうちのベランダで死んでいるのか?」と考えながら大きさを測っていたら、少し動いているのが確認できた。
「寒さで凍えているんじゃないか?」と思い、日向で温めながらティッシュを濡らして水をあげてみたら、モゾモゾと歩き始めた。

私としてはこのまま元気になって飛び立って欲しかったが、どうにも様子がおかしい。真っ直ぐに歩けずにグルグル回ってしまうらしい。
ミツバチはダンスを踊って仲間にサインを送ると聞いた事があるので様子を見ていたが、やはり農薬か何かの影響で神経系に問題がありそうに見えた。その姿を見て私は水俣病のネコを思い出した。
この時点でこのミツバチの運命は悲しいものだと分かっていたが、放置して死んでしまうのも悲しい。という事でビニール袋の底にティッシュを敷いて、ペットボトルキャップの中にほんの少しだけ水を入れて保護する事にした。その日は「明日の朝になったら死んでるかもしれない」と思いながら寝た。

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翌朝、ミツバチを確認するとベランダに落ちていた時のように動かない。また同じように日向に置いて少しの水をやるとモゾモゾと動き始めた。観察すると昨日は動いていた片方の前脚が動かなくなっていた。それでもミツバチは、残った前脚で大きな目の掃除をして、身体のバランスが崩れないように後ろ脚で黄色と黒のストライプのお尻の掃除をしていた。
人間というのは勝手なもので、こういう仕草をされると情が湧いてしまう。部屋の中を飛んでる蚊なんて簡単に殺してしまうくせに、このミツバチにはどうにか元気になって飛んでいって欲しいと願う自分が確かにいた。
ミツバチには自分の力で起き上がる力はなく、うっかりひっくり返ってしまえば不自由な脚で空を掴もうともがいている。うっかり死なないように転ぶ要素を排除した。
その夜はティッシュの突端のところに捕まって動かなかった。即身仏のようだった。
「明日の朝になったら死んでいるだろう」と思いながら寝た。

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翌朝、ミツバチは三度動かない。

日向に置いて、少しの水をやる。尻を振動させるも全ての脚がほとんどもう動かない。微かに動くその脚でできる事は何もない。曇り空の晴れ間から日が差して、気温は上がってきたが、とうとうミツバチは死んでしまった。

ミツバチが死ぬ直前、別のミツバチがベランダにやってきて、顔の掃除をして飛び立った。どうせならコイツを仲間の元に連れて行ってくれれば良かったのにと思った。
「うちに花が咲き乱れていたら、蜜やら花粉やらをたらふく食べて飛べるようになったんじゃないか?」なんて考えたところで、うちには多肉植物やらバジルやら草しか生えてないのだし、現実はそんなに都合の良いものじゃない。
私はたった1匹のミツバチが救えなかった。
知らない名前の枯葉に包んで土に埋めた。
さらば。ハチ。

追記

Twitterに動画をアップしたら、アルゴリズムの関係かミツバチの記事がタイムラインに出てきた。

この飼育プロトコルは、1970年代に行われた実験とまったく同じであったにもかかわらず、成虫ミツバチの平均寿命が半減していたのです。

具体的には、1970年代におけるケージ内ミツバチの平均寿命が34.3日間だったのに対し、今回は17.7日間となっています。

その記事によると、農薬や寄生虫とも接触しない環境下でありながら、1970年代には平均34.3日間だったミツバチの寿命が17.7日間まで少なくなっているという驚きのものだった。

このデータはアメリカのミツバチの話だが、私のところに現れたミツバチにもこうした現象が発生してるのだろうか。