モブトエキストラ

左利きのメモ魔が綴る名もなき日常

飛ぶ教室(第6回)の感想

たのしいな!放送事故と黒歴史

高橋源一郎の飛ぶ教室 - NHK

今週はこの放送を聞くために生きたといっても過言ではないぐらいに楽しみにしていました。今のご時世、テレビ業界もラジオ業界も大変でしょうけど、テレワークで高橋源一郎さんと島田雅彦さんがいかにして絡むか、「すっぴん!」レギュラーだった能町みね子さんとどんなやり取りをするのか注目していました。
先に書いておきますが、以下私のメモなので、正しい「書き起こし」を読もうと思って間違って迷い込んでしまったおっちょこちょいさんは、公式サイトのほうへ裸足で駆けてルールルルッルーでお願いします。
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冒頭の高橋源一郎さんの語りはトーマス・マンの『トニオ・クレーゲル』をくれた田舎育ちの秀才とのお話。女性と話しをすると顔を真っ赤にするウブな方で、初の合コンでは何を話していいか分からず基礎工学の話をしていたそうです。その後、25歳の若さで脳溢血で亡くなってしまい、当時の高橋少年は部屋の隅で本を読むことしかできなかったというとても苦い記憶でした。私はこの時点でグッとくるものがあったのですが、高橋さん側の音声が聞こえなくなるトラブルが発生して、小野アナとスタッフさんが凍りついて、スタジオがパニックルームになってしまい余韻も何もなくなりました。多くのリスナーから「あっという間に終わってしまう」という声に応えて2時間の拡大版を放送したのに。笑

〈復٩( 'ω' )و活〉

高橋さん)最近本を買いに行けないので、誰でも読んでる可能性がある『心』と『人間失格』を選びました。中学に入った時に漱石の『心』の感想文を書かされたのが本当に嫌で。
小野アナ)なぜですか?
高橋さん)理解を絶するぐらいつまんなくて、いい小説だと言われてたので褒めた覚えがあります。主人公である私が先生の秘密を解き明かすミステリーがあり、なかなか謎が多い作品です。私、先生、Kに名前は無いのに奥さんには静という名前があったり。
先生と私は男で、秘密を知らされない奥さんの立場はどうなんだろうという感想は女性読者に多い意見ですが、漱石のために言っておくと、後の作品では女性が主体性を持って男がダメになっていきます。

書く都合端折りましたが、放送事故があったせいなのか、高橋さんとの会話がバッティングすると小野アナが被せて強引に進行するのは気になりました。分かりやすく言うと『アメトーーク』でザキヤマがお喋り泥棒するのを可愛くしてNHKに漬け込んだ感じのやり取りです。(逆にわからん🤔)

ゲスト:島田雅彦さん

小野アナ)お二人はどんな関係なんですか?
高橋さん)デビューした時の年齢が近いんです
島田さん)さよならギャングは群像ですよね?
高橋さん)はい。あとお互いに顰蹙を買うような作品を発表していたり。
島田さん)そのあと良い人ぶるのも似てますよね。笑
小野アナ)島田さんはここまで聞いてきて『心』についてどう感じましたか?
島田さん)高校の授業で必ず通るけど、遺書の部分だけを読んでくる。一応共有されているから入りやすいとは思います。僕は『心』を通じて「誤読の自由」を教えたいと思います。この作品は何となく道徳的なものに結びつけられがちですが、ハッキリしたことは書かれていないんです。
先ほどもありましたが、女性の読者からすると奥さんに対する冷遇や扱いの酷さを感じると思います。要求があるなら言えばいいし、そういうのを差し引いても先生は変だし、なんでKに対してそんなに思い入れがあるのか? なぜ主人公に打ち明けたのか?
小野アナ)なぜなんですか?
島田さん)要するに先生とKはボーイズラブで、その後に現れた私に打ち明けて死のうとする話です。
小野アナ)高橋さん!どう理解すればいいんですかっ⁉︎ 焦
高橋さん)この小説はどう解釈してもいいようになっています。前に会った事があるような気がするという部分があって
島田さん)伏線ですよね。物書きならそうするよ。
高橋さん)私と先生は同一人物で、無垢な頃の自分に宛てて書いている。
島田さん)自分との対話なんだよ。
高橋さん)有力なのがKは金之助のKという説。そういう風に読むと面白い。
島田さん)先生35歳、私20歳で歳が近いんですよね。その間に奥さんがいる。先生が亡くなった後、未亡人になった奥さんと私が結びつくという。
高橋さん)この小説は穴だらけなんですよね。
島田さん)読み方が自由であるべき作品で、道徳的な方向に引っ張っていくだけの作品ではない。
小野アナ)そんな作品が受験に使われているというのはどうなんでしょうか?
高橋さん)その通りで、一番不自由な受験に使われている。今まで僕らは騙されてきたと考える事から自由が始まる。
島田さん)誤読が許され、開かれている。源一郎さんの作品なんて開きっぱなしでしょ?笑
小野アナ)島田さんは最近どのような行動をしていますか?
島田さん)物書きの原点と言われる行動をしてます。
小野アナ)それはどんなものですか?
島田さん)散歩です。
高橋さん)最近まとまる事を言うようになったんじゃないの?笑
島田さん)散歩してたらまとまるようになりました。笑
高橋さん)以前は島田さんの家に押しかけて酒を飲んだりしてましたけどね。
小野アナ)ここでお時間となりました。島田さんありがとうました。2コマ目の授業の先生は能町みね子さんです。
高橋さん)あとでまた言いますけど、僕は能町さんを現代の太宰治だと思ってるんですよ。

 

ここまでが『心』の話。
ブロマンスが教科書に載っているというのは面白いですけど、寛容な価値観があって載ってるわけじゃないところが不幸に思います。このパートのキーワードは『誤読の自由』ですが、これは前前回だったでしょうか、写実的な視点では物事の一側面しか捉えられないというピカソキュビズムにも繋がってますね。あとは異なる価値観を持ってくる「おじさん」の話もそうでしたし、今回のオープニングも高橋さんの価値観を広げてくれた話です。今は新型コロナの影響で「教壇に立つ」事も難しい状況でしょうが、学ぶ事の楽しさを教えてくれるものが教育であって欲しいと思いました。

 

小野アナ)1コマ目どうでしたか?
高橋さん)ちゃんと繋がるかどうか、それどころじゃなかった。
リスナー)飛ぶ教育が飛べない
高橋さん)うまいこと言うね!笑

〈リスナーが読んだ本の感想のコーナー〉
『ぼくはイエローでホワイトでちょっとブルー/著 ブレイディみかこ
高橋さん)環境は大変なんだけど、文句を含めて立ち向かっていく逞しさがあって元気が出てくる。力付けてくれる本はステキ。
『文字禍/著 中島敦
高橋さん)僕もこの本が好き。文字を読んでるうちにバラバラになって見えてくる。(ゲシュタルト崩壊)これは霊の仕業という話で、今でも言葉によってインターネットで炎上という現象があったりする。言葉は人からまともな判断を奪う。これが良い力だったら良いけど、悪い力だったら…。だから文字に禍(わざわい)って書いてある

人間失格 ゲスト:アマビエとは関係ない能町みね子さん

高橋さん)日本で一番売れていると言われてる作品で、両方ともすごい暗い話です。この本も『心』に似ていて、先生の手紙がほとんど全部みたいな。ほぼ太宰の自伝で、カッコよくてお金持ちで非合法的な事をしたり、女の人の所に行っては裏切ってを繰り返し、精神病院に入って、どこまで堕ちていくんだろうというような最低の男。笑 自分で人間失格って言ってるし。読み返してみるとなかなか良くて、最後どうなるか知ってます?
小野アナ)最後好きでした。
高橋さん)「どんな人でした?」「あれでお酒さえ飲まなければ、いえ、神様みたいな人でした」って、どう読んでも許しちゃいけないよね。笑 太宰が言わせたかったんだと思う。「ふざけんなっ!」って言われても仕方ないけど、救いようのない人間でも生きていていいというメッセージがあって、懐かしい感じがした。
リスナー)戦後に生まれた僕らに言ってるのではないか?
高橋さん)さっき島田さんが言っていたように、自由に読むのは大切で、ひどい事したのに僕らは傷付いたのか?と考えてしまう
リスナー)この作品で救われる人物は誰なのか?
高橋さん)女性の立場からすると、これはないって話は多い。漱石も太宰も後の作品ではキチンと女性を描いてます。ダメなところを徹底しているから、そうじゃないところが分かる。
小野アナ)小説家って完璧な人だと思っていたけど、反省して次の作品に活かしている人もいるんですね。
高橋さん)そういう人もいます。笑
リスナー)太宰は喜劇ですよね?
高橋さん)その通り。悲劇で終わってはいけない。

✳︎前半の放送事故の合間に
YEN TOWN BANDの『Swallowtail Butterfly 〜あいのうた〜』が流れました。これは高橋さんが『心』を実写化するならテーマ曲にしたい曲で、『人間失格』ならUAの『ミルクティー』だそうです。

高橋さん)能町さん、こんばんわぁ。
能町さん)もしもし、よろしくお願いします。いやぁ〜緊張しますねぇ〜。
高橋さん)今、家ですか?
能町さん)家です。
高橋さん)ライフスタイルはどうなってます?
能町さん)実は微熱が出てて、今は良くなったんですが…恐いです。
小野アナ)ここまで番組は聴いてましたか?
能町さん)聴いてましたけどビッグネームすぎて。笑
高橋さん)太宰は読んでました?
能町さん)『人間失格』は読んでなかったみたいで。他の短編は読んでいたんですけど。私が書いたものと一致するところもあって、他の人を主人公がコケにしてる。それを筆を緩めず描いてるのが私には痛快でした。行動では何をするにもビクビクしてるのに、筆を取るとボコボコにしてる。
高橋さん)普通は理由があってコケにするけど、太宰は自分を含めて人がやってる事が全部見えてしまって尊敬できなくなるんだよね。
能町さん)俯瞰で見えているんですよね。最後の部分は私は解釈が違って、本人が言うとナルシストすぎるから、私は頭も良いし、顔も良いし、俯瞰で物を見えてますけど他人から見ると〜(酒飲みすぎなきゃ神様)というのも含めて見ていたと言いたいのかと思った。
高橋さん)僕は作家として感じるのは、救いの無い話でしょ? だから美しい花とか入れたくなる。これは作家の本能で、最後のここだけ綺麗でしょ?
能町さん)私は細部が好きで、全部「ですます調」なのも可愛いし、句読点も多くて、「これだけ言えば分かりますよね」って感じがする。私が好きなシーンは堀木と葉蔵のやりとりでちょっと読んでもいいですか?
「世間とは、いったい、何の事でしょう。人間の複数でしょうか。どこに、その世間というものの実体があるのでしょう。」
点の多さ、こういうリズムが文体として好きです。
高橋さん)これって、男性的な文章の反対側でフェミニンなんですよ。つまり「男性の文章」って「世間」なんです。
「それって何ですか?」って言うのは普通女性なんですけど、太宰がそれを言ってる。
能町さん)なるほど。
高橋さん)能町さんがこっちのほうが似てると言うから、『私以外みんな不潔』を今日読みました。
能町さん)ありがとうございます。この作品はとくにそう思います。5歳なんだけれど大人の言葉で書けるという形です。
高橋さん)太宰が戦後ずっと人気なのは現代の作家からすると頭にくるけど、今の事を言ってるんじゃないかと思うところがあるからスゴイ。
小野アナ)最後に一言あれば能町さんお願いします。
能町さん)私「共感した」って言葉が最近嫌いで、個人個人違うんだから簡単に共感するのはやめようと思ってます。

下校の時間
小野アナ)いかがでしたか?
高橋さん)スタート地点でどうなるかと思ったけどテレワーク面白かったです。
小野アナ)島田雅彦さんとも繋がってます。
島田さん)最近メンタルやられそうですからねぇ〜(なんかふにゃふにゃしてる)
高橋さん)あれ?島田さん。飲んでる?
島田さん)もっちろん。
高橋さん)能町さんもまたお願いします
能町さん)ぜひぜひ!
小野アナ)リスナーの皆様にはお聞き苦しいところがありました。改めてお詫び申し上げます。

 

こんな感じで最後は小野アナウンサーによるNHKっぽい謝罪がありつつ、「芥川賞」の審査員である島田さん(酔いが回ってる)と、高橋さん曰く「現代の太宰治」が間接的であれ同じ時間軸の中にいたのは夢がありました。黒歴史をほじくり返されて玩具にされてる太宰治も喜んでいる事でしょう。(あと能町さんの微熱が続いていたというのは心配)
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来週は通常放送で、伊藤比呂美さんと再び人生相談をやるみたいです。1時間番組と言いつつ、5分からスタートして55分で終わるので、あっという間に終わってしまうのは仕方ありませんね。

(おわり)