モブトエキストラ

左利きのメモ魔が綴る名もなき日常

「安倍三代/著 青木理」の感想

あああああ

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読書のしかたは人それぞれで、二冊買って一冊は家用or保管用でもう一冊は持ち歩くとか、読む時はカバーを外すとか、専用のしおりを使うとか色々あると思います。その中で、本に直接アンダーラインを引くとか書き込む人もいるでしょう。私は本が汚れるのが嫌いなので、書き込んだりカバーを外すことをほとんどしません。
なのに、どうして画像の「安倍三代」が素っ裸なのかというと、ありがたすぎて数日間は手に取れなかったです。

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\(^o^)/あたったぁぁぁぁ
ひゃっほー!あああああああああ!

サイン本が当たるだなんてまぁ無いですし、田舎に住んでいるので作家が書店にやって来てサイン会をする事もありません。「こんな事があるのか」と数日間は何かに祈ってました。(昭恵か!ってね)
そうは言っても読まないと本の真価は分かりませんから、黒いカバーに指紋が付くのを嫌って(指紋が目立つのも嫌っていう)カバーを外したところ、インクか何かで汚れた跡があるじゃありませんか!
普段なら精神的に凹みますが、汚れてるから逆に読みやすくなるというショック療法によって、私はようやく付箋だらけにして読む事ができるようになりました。

感想

で、私の感想に関しては「\(^o^)/あたったぁぁぁぁ ひゃっほー!あああああああああ!」がほぼ全てです。
というのも、ルポタージュ本に関しては取材に基づいた著者の考えが述べられているので、感想を書く場合は著者が書き残した部分について言及するぐらいしか書く事が無いのです。しかし、文庫化にあたって、文庫版ver'のあとがきに加えて中島岳志さんの解説も加わっていて、非の打ち所がないような濃度になっているのです。なので、私なんかの感想は「ひゃっほー!」に尽きるのです。笑

と、いいつつも安倍寛のパートはすごかった。生活者を守る為に「富の偏在は国家の危機を招く」などのマニフェストを掲げ、国粋主義者から罵詈雑言を吐かれたり、特別高等警察に邪魔されながらも選挙を戦ったという事に「この人凄いな」と単純に思いました。息子にあたる安倍晋太郎が父親を尊敬していたのも頷けます。
晋太郎のパートに関しては、特攻で戦争が長引けば命が無かったという事、記者としてリベラルな目線を養ったあとで、家族を失った孤独の中で強者と弱者との間で抜群のバランス感覚を見せたという人間としての年輪の重ね方が厚かったと感じました。
問題は三代目です。
「安倍三代〜総理は何を受け継ぎ、何を受け継がなかったのか?青木理の取材報告」【音声配信】▼2月15日(水)放送分(TBSラジオ「荻上チキ・Session-22」平日22時~)
青木さんが以前「安倍三代」についてラジオで語っていた通りに、晋三パートは本当に何もなかったです。笑
政治家や官僚が「記憶にございません」というのとは別に、陰キャラ(目立たないごくごく普通の生徒で政治について語る事もほとんどない)すぎて関係者は口々に「記憶にない」と語るのです。それどころか、父親の安倍晋太郎とは全く違う政治姿勢である事から、地元では晋三嫌いな支持者もいたりして。
【衝撃の事実】安倍総理が「芦部信喜」を知らないことに対する失望、驚きの声。 - Togetter
芦部信喜の事を知らないと言った事については、成蹊大学名誉教授の加藤節氏の言葉が強烈でした。

P256〜P257
ーー二つの「ムチ」というと?
「ひとつは『ignorant』という意味での『無知』。基本的な知識が欠如しているということです。もうひとつは『shameless』という意味での『無恥』。芦部信喜を知らないなどというのはその典型でしょう。よくもあんな恥ずかしいことを平然と言えるものだと思います」

また、集団的自衛権の行使容認に心底落胆した成蹊大学の恩師である宇野重昭氏は本書のラストで遺言となる言葉を遺しています。

P305
「私はいまでも彼を……安倍さんを、100%否定する立場ではありません。数%の可能性に、期待しています。目を覚まし、正しい意味での保守、健全な保守を発見してほしいと思っています。でなければ、(肯定的な意味で)歴史に名を残すのではなく、とんでもないことをやった総理として歴史にマイナスな名を残すことになる。名誉ある安倍家の名を汚すことになる。そう言いたいのです」

このパートを読んだ時に、私の頭に浮かんだのがスターウォーズのハンソロの息子。めちゃくちゃ薄っぺらいキャラクターでありながら、巨大な力を手に入れて暴走するカイロ・レン安倍総理がダブって見えました。

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↑「カイロ・レン」の後にミスタッチで「く」を打ってしまったら予測変換が散々だった。

 

面白かったのが青木さんが昭恵氏にインタビューした時の発言。

P286
「主人は、政治家にならなければ、映画監督になりたかったという人なんです。映像の中の主人公をイメージして、自分だったらこうするっていうのを、いつも考えているんです。だから私は、主人は安倍晋三という日本国の総理大臣を、ある意味では演じているところがあるのかなと思っています」

確信は持てませんが、この発言で何となく分かりました。
以前に亀井静香氏がラジオか何かで「本人はいい奴だが周りにいる奴(竹中平蔵氏など)がいかん」という事を言っているのを聞いた時に、私は「本人も腹黒なだけなのでは?」と思ったのですが、本書によって、良くも悪くもないごく普通の人間が相手の喜ぶ事を繰り返して、仲間を作り勢力を拡大していったというのが実態だと考え直しました。

つまりはポジショントークと処世術のテクニックさえあれば、空っぽな人間であっても上り詰められるというのが現代の政治。(トランプからは大量の武器を買い、プーチンに対しては北方領土が日本に帰属する旨の記載を削除とかね)
安倍首相が朝日新聞めぐる答弁で「NHKに圧力と捏造された」と大嘘! 裁判で明らかになった安倍の圧力発言|LITERA/リテラ
NHKに圧力をかけた際の「勘ぐれ」だとか、官僚組織の「忖度」というのはある意味で安倍総理のレガシー(負の遺産だけど)ではと思います。

私以外私じゃないの・・・甘利大臣、替え歌でアピール(15/05/26) - YouTube
今井絵理子議員が若者に投票を促すもネットから「何様?」の声 (2019年5月5日) - エキサイトニュース
(社説)桜田大臣辞任 守り続けた責任は重い:朝日新聞デジタル
全裸ピンポンダッシュ 宮腰沖北相に“使途不明金3384万円”|日刊ゲンダイDIGITAL

金銭授受問題の甘利議員、うちわを配布した松島みどり議員、ハードディスクを破壊した小渕優子議員、根本的な資質が欠けていた桜田議員、全裸で駆け回った宮腰議員、巨大看板の片山議員や、基地問題でも障害者雇用者の水増しでも存在感の無い今井絵理子議員…。

この政権が輩出する議員さんの活躍ぶりは、笑って済ませていい領域をとうに超えています。その任命責任を問われるべき総理はといえば、天皇陛下の退位にあたって「願って已みません」「願っていません」と読む大失態をおかしました。
ここで話を本に戻しますが、宇野氏は「彼らの保守は『なんとなく保守』」と評していて、中島岳志さんによれば1993年8月23日党内に設置された「歴史・検討会」が歴史感の起点であって、第9回の委員会では天皇陛下真珠湾攻撃の慰霊施設があるアリゾナ記念館で献花する事に対して不満を述べた事が紹介されています。
退位の際の言い間違いが意図的なものだったのかどうかは本人にしか分かりませんが、本書を読み進めるうちに現象自体は弁護士に大量の懲戒請求を送りつけた事件に似ている気がしてきました。

安倍首相が休暇入り 読書は本紙連載「全体主義と闘った男」など - 産経ニュース

年を取るたびにプライドが邪魔をして素直に勉強ができず、鳥の雛の「刷り込み」のように、手っ取り早くネットで初めて知った情報を確証バイアス(自分はそうとしか思わないからそういう情報ばかり求める)で塗り固めるという現代病というか、年功序列社会の弊害とでもいうか…。
私が一番怖いと思うのは、それが暴走した時に煽るだけの国会議員には止める力が無いという事です。インパール作戦だとか、ペリリュー島の戦いなどを見れば、威勢の良い事を言ってる為政者ほどいざという時にトンズラ一択なのは歴史が証明してます。
渋谷ハロウィン、今年も暴徒化…軽トラ横転、痴漢、盗撮、大量のごみ | ハフポスト去年、渋谷のハロウィンで一部が暴徒化して軽トラックを横転させるという事がありました。止める人間もなく、軽トラックは押し倒されてしまったわけですが、もしこれが国家規模の暴徒化だったとしたらどうでしょう?
私を含めて、誰がどうやって止めるのかをすぐ答えられる人は少ないと思います。そんな時代が実際にあって、安倍寛という政治家は反戦を掲げていたわけですから論理的に安倍寛スゴイ!と言わざるを得ません。(国内の工場だけで作ってるわけじゃないのに100円ショップのグッズを自慢する番組とか意味不明ですよね)

おわりに

第三弾「危険な読書」の感想 - モブトエキストラ

この本は「安倍三代」というタイトルながらも、自民党の歴史でもあるので、以前に読んだ危険な読書の第三弾と合わせて読んだら、また違った事に気付けるような気がしました。
あとは、記者の証言記録ってすごいなぁと思いました。インターネットによって既存の情報にアクセスする速度は速くなったけど、人と会話しないじゃないですか。だから余計に、人から話を聞いて立体的な情報におこす事が職人技に感じられました。
「あとがき」には「AERA」編集部の作田裕史記者と「週刊文春」編集部に移籍した宮下直之記者の共同取材だったからこそできた事であって、雑誌が売れない時代に手間も時間も金もかかる骨太なルポタージュが書けたのは編集長の浜田敬子さんと井原圭子さんの後押しがあってこそだと謝意が綴られていました。
ラジオでいつも「原稿の締め切りが〜」と愚痴をこぼしている人が書いたとは思えない丁寧な文章で。

ありがたや。ありがたや。