楽しみにしていたこの時を
安部公房作品を取り上げるみたいなので是非聴きたい→高橋源一郎と読む「戦争の向こう側」 - NHK 作家の高橋源一郎さんが、戦争にまつわる文芸作品を、多彩なゲストと共に朗読し、読み解こくことで、「戦争が引き起こす悲劇」を浮き彫りにします。 https://t.co/nWtIMAkIP8
— 海老原いすみ (@ebiharaism) 2019年8月3日
ここ数日、この番組が早く放送されないものかと楽しみにしていました。
というのも、私が読んだ小説の中でベストが安部公房の『砂の女』で未だにこの作品を超える小説が見つからずに困っています。
ちなみにゲームクリエイターの小島秀夫監督は安部公房の「なわ」をヒントに新作を爆誕させたそうです。
https://realsound.jp/tech/2018/10/post-264719.html%20
話を戻しますが、そんなヤバい安部公房の作品を高橋源一郎さんと一緒に読むのが漫画家のヤマザキマリさんだと言うのだから、期待値が高くならざるを得ません。
全く良いニュースが無い中で、この番組の放送だけを御守りのようにして、当日の夜を迎えました。
(ここからツイートメモ)
太宰治『トカトントン』
— 海老原いすみ (@ebiharaism) 2019年8月15日
【概要】
74年前の今日、陛下が喋っていると思われる音声は雑音に掻き消されて聞こえない。
「軍人として死ねるようにーー」
兵舎の誰かが金槌を叩く音。
「トカトントン」
この後、何かをしようとすると「トカトントン」という音が聞こえてきて、やる気を失くしてしまう。
高橋源一郎さん)トカで釘を入れて、トントンで打ち込むの。よく聞いてたなぁと思う。これって生活音なんですよ。もう家を建ててる。
— 海老原いすみ (@ebiharaism) 2019年8月15日
伊藤比呂美さん)『ヴィヨンの妻』の最後が「私たちは生きていさえすればいいのよ」で終わるのも同じですね。
武田泰淳『審判』
— 海老原いすみ (@ebiharaism) 2019年8月15日
塚本晋也さん)衝撃を受けました。
戦争というのは上の人間に連れてこられて、戦わざるを得ないものだと思っていましたが、人間の中にある「人を殺したい」という衝動を解放させているのではないかと。
塚本晋也さん)読み終わった後に、手に震えがきました。
— 海老原いすみ (@ebiharaism) 2019年8月15日
故郷では妻子がある良い父親が戦場では盗み、強姦する。ベトナム戦争の本を読んでもそういう兵隊が沢山いたそうですから、自分の中にある人間への期待が裏切られました。
【概要】
— 海老原いすみ (@ebiharaism) 2019年8月15日
通行証を持つ中国人が通り過ぎると、軍隊長は「やっちまおう」と言い、隊員は「当たるかな」と射的でもやるように銃口を向け、二郎は逡巡の後に「人を殺すのがなぜいけないのか?」という思想が脳裏をかすめ、頭の中は鉛のように無神経なり思考が消え失せる。
百姓の肉の厚みと泥、発射の命令と発砲音。
— 海老原いすみ (@ebiharaism) 2019年8月15日
法律も神の差別が通じず、暴力のみによって支配される場所。
【概要2】
— 海老原いすみ (@ebiharaism) 2019年8月15日
「自分の手で人が殺せない事はないだろう? ただやりさえすればいいんだ」
上官はそう囁いて闇に消えると、世界には二郎と老夫婦の3人だけが残された。
引き金を引けば元の私に戻れなくなるが、元の私に戻れなくなる魅力に取り憑かれ、二郎は老夫婦を肉塊に変えた。
高橋源一郎さん)最初の殺人は上官の命令でやったけど、上官が立ち去った後に殺人を犯している。老夫婦は目が見えずに耳も聞こえないから、手を下さずとも死んでしまう状況。これは『罪と罰』に似てる気がします。
— 海老原いすみ (@ebiharaism) 2019年8月15日
高橋源一郎さん)私と二郎が同一人物で、過去の自分から現在の自分に向けた手紙であれば書くことができる。
— 海老原いすみ (@ebiharaism) 2019年8月15日
塚本晋也さん)よく戦争が終わった早くに書いたなぁと思ったんですが、「お前だけじゃないんだよ」って言いたかったのかもしれませんね。俺の目の黒いうちは戦争に近付くのはよせって、こういう人達が居なくなると…。
— 海老原いすみ (@ebiharaism) 2019年8月15日
財部鳥子・詩『いつも見る死』『仲秋の月が』
— 海老原いすみ (@ebiharaism) 2019年8月15日
伊藤比呂美さん)財部さんは満州から引き揚げてきた方。終戦時は11歳で、髪の毛を刈って男の子の格好をして帰ってきた。8歳以下の子どもは全員死んだって。(体力的に)
【概要】
— 海老原いすみ (@ebiharaism) 2019年8月15日
『いつも見る死』
→黄色い川に姿を消した妹の死を描写。
『仲秋の月が』
→骸となり、陥ち窪んだ目の人々と暮らした日々、好きだった男に似た背中の描写。
✳︎色彩感覚が優れた方で「戦争が色を奪う」という点はトーベ・ヤンソンと同じだなぁと私は感じた。
高橋源一郎さん)これって告発してる詩じゃないよね。
— 海老原いすみ (@ebiharaism) 2019年8月15日
伊藤比呂美さん)財部さんから話を聞いたら、引き揚げ船の甲板も「面白かったわね」って言ってた。「腐りながら死んでいく」って聞いて涙が出た。父から戦争の話、聞いてなかったから。
安部公房『闖入者―手記とエピローグ―』
— 海老原いすみ (@ebiharaism) 2019年8月15日
伊藤比呂美さん)どうして安部公房を?
高橋源一郎さん)日本の物を読みたくなって、偶然イタリア語に翻訳されていたのが安部公房だったそう
ヤマザキマリさん)よく通っていた文壇のサロンで、日本の事を知らなかったのをバカにされて「お前これ読め!」って
【概要】
— 海老原いすみ (@ebiharaism) 2019年8月15日
主人公がアパートで寝ていると9人の人々が訪れて来る。
紳士淑女、その子どもであろう20代の青年と嫁と子ども達と老婆が訪れ、部屋の中に入って来た。
「何しに来たんです?」
「自分の家に来たのに、何をしに来たとはおかしな事を言う」
この家の持ち主について会議が始まった。
長男「この家は俺たちのものだ」
— 海老原いすみ (@ebiharaism) 2019年8月15日
家族「異議なし!」
主人公「なんの真似だ」
「君は民主主義の原理である多数決がくだらないと言うのか! このファシストめ!」
主人公は支配される。
高橋源一郎さん)長男と次男はガタイが良くて、多数決に従わないと暴力を使うんですよね。
— 海老原いすみ (@ebiharaism) 2019年8月15日
ヤマザキマリさん)アメリカなんて「じゃあ仕方ない。飛行機飛ばすか」って。
【概要2】
— 海老原いすみ (@ebiharaism) 2019年8月15日
主人公は助けを求めた。
管理人「私は人間に部屋を貸しているんじゃない。お金に貸しているんだよ」
警察「理性と物的証拠だけもってこい」
それでもめげずに、アパートの住人と世の中の人々に向けてビラを書いて貼った。
「私達は団結して立ち向かわなければならない」
— 海老原いすみ (@ebiharaism) 2019年8月15日
紳士「使用料としてビラ1枚100円×10枚=1000円 使用の許可が無いなら罰金500円。家賃滞納者が半数いるこのアパートで管理人に頭が上がるかい?」
主人公はロープで首を括った。
✳︎ここで台風の警報でアナウンサーがカットイン。何言ってたか分からないけど、たぶん小松左京の「地には平和を」の話。(バッドエンド)
— 海老原いすみ (@ebiharaism) 2019年8月15日
伊藤比呂美さん)寄生獣にも似てるよね。乗っ取られちゃうところ。
— 海老原いすみ (@ebiharaism) 2019年8月15日
高橋源一郎さん)民主主義だって言って、暴力的なことやってる。カフカ的なリアルな感じもした。
ヤマザキマリさん)民主主義が果たして人々の解決策なのか。
— 海老原いすみ (@ebiharaism) 2019年8月15日
高橋源一郎さん)『民主主義』が実現したのかって事ですよね。『多数決』って言ってる。
ヤマザキさん)「自由だ!自由だ!」と言いながら人々を洗脳した人が政治界に君臨してるの。
高橋源一郎)デモクラシーの名の下に。
— 海老原いすみ (@ebiharaism) 2019年8月15日
ヤマザキさん)コワイ…。
シリアに居た時にパレスチナの人が追われてしまったんです。「聖書に書いてある事をしてるだけだ」って、言葉も通じないのに。
高橋源一郎さん)「言葉が通じない」とディスカッションできずに『多数決』になっちゃう。同じ言葉を持っていたら殺せなくなっちゃうと思う。何が一番悲惨かって、コミュニケーションが無いでしょ?
— 海老原いすみ (@ebiharaism) 2019年8月15日
伊藤さん)うーん。分からない。南北戦争やセルビアみたいに紛争もあるから。
高橋源一郎さん)「戦争を起こさないためにーー」って言ってるけど、今やってる事って、戦争の時にやってる時と同じじゃないの?
— 海老原いすみ (@ebiharaism) 2019年8月15日
そういう事を起こさない為に、みんなで話し合える場所を作れたらいいね。
番組の構成としては、進行役の高橋源一郎さんと、聞き役の伊藤比呂美さんはスタジオブースに居て、塚本晋也さんとヤマザキマリさんはそれぞれに高橋源一郎さんと対談した別日の音声が流されました。
2時間足らずの中で、作者の紹介と作品の朗読をしなければならないので、編集した音声じゃないと収まらないというのは分かりますが、欲を言えば生の声でもっと聴きたかったなぁというのが正直な感想です。
ただ、今回のコンセプトである『トラウマ』から見える戦争の輪郭は、今の時代であっても十分なほどにトラウマを植え付ける力を持っていると感じました。
敗戦直後、戦争の最中、引き揚げ、侵略と、作品のチョイスと紹介する順番もかなり考えたのではないかと思います。(流石だなぁ)
とくに財部鳥子さんの詩の色彩感覚が凄くて、空の青の「自由」と、戦争によって色を失った大地の対比は惹き込まれるものがありました。ツイートのメモにも書きましたが、何でもかんでも奪っていくナチスを目の当たりにして、トーベ・ヤンソンが生み出したのがムーミントロールだったりします。戦争が色を奪うという点において、作家や芸術家が抱く感情は通じるものがあるのだと思いました。
それと、武田泰淳『審判』について塚本晋也さんが言った一連の言葉で思い出した事が1つあって。
井上雄彦さんの『バガボンド』で、武蔵が吉岡一門を死体の山に変えていくシーンがあるのですが、そのカットの中に空を飛ぶカラスが「この人間は何を思って死体の山を作っているんだろう」というニュアンスの言葉があるんです。これがそのずっと後の巻の「楽しかった」に繋がっているんだと、放送を聞いて気付きました。(ホント聴いてよかった)
ちょうどEテレの100分de名著でも『戦争論』をやっていて、まさに人間の攻撃的な部分について焦点が当てられているので、『戦争』が人間の生態の一部なのか或いは現象なのかとても気になります。(普段は理性的な人間が祭りというモノによって、理性を外すと考えると、渋谷のハロウィンで軽トラをひっくり返した集団の説明がつくかも…)
で、人間の暴力的な側面を言葉であぶり出したのがメインディッシュの安部公房大先生。
「民主主義=多数決」というパワーゲームは、バールのようなもので後頭部をトカトントンと叩くようなもので、この原理が中心にある限りは、分断統治の力が政治とされますよね。ステーキを一口に切って食べる作業です。
✳︎多数決=民主主義じゃないという話は以前に久米宏さんの番組でもやってました。
安部公房大先生はこの生々しい痛みを不条理文学に落とし込んだわけですが、時を経てヤマザキマリさんは、イスラエルとパレスチナの現状(約束の地)を見て同じ疑問を抱いたという。
エモい!
ただそれは同時に、人類の問題が解決されていないという事でもあります。
同一の言葉を話す人々が協力し、神に手を伸ばして塔を建てたところ、神の怒りを買い言葉が別々になってしまった『バベルの塔』という話がありますが、少なくともこの神話が誕生した時から、今夜話し合われた問題が解決されていないとすると途方もない時間経過を感じます。
さらに絶望に拍車をかけるのが、現代のアメリカにしろ中国にしろ、異なる言葉を話す人々が住む大国が独裁で統治するという点です。
米高官、自由の女神の詩を「改訂」 新たな移民規則に合わせ「自立」促す内容に - BBCニュース
アメリカの政府高官なんて、移民政策を念頭に自由の女神の概念さえ変えようとしてますから。
おわりに
感想の結びとしては「聴いてよかった」の一言に尽きます。よかった、よかった。
書いてるうちに気付いたら、日付けも超えちゃってるけどよかったです。
で、今さっきTwitterを見たら…
マリさーん!
偽物じゃありません! 公式アカウントからリツイートを頂きました!
やったでおい!
ホント聴いてよかったです。
最後に、記事のタイトルが長くなるので「源ちゃん」とした事で「おいおい!星野源じゃねーじゃねーか!このやろう!」と、取り憑かれたように怒ってブリッジで階段を駆けおりる方のために『地獄でなぜ悪い』でお別れしましょう。
星野源 - 地獄でなぜ悪い【MV & Trailer】/ Gen Hoshino - WHY DON'T YOU PLAY IN HELL? - YouTube
ただ地獄を進む者が、悲しい記憶に勝つ。
さよなら、さよなら、さよなら。