モブトエキストラ

左利きのメモ魔が綴る名もなき日常

「世界から猫が消えたなら」の感想

 
久しぶりに本でも読んでみるかと図書館へと足を運んだ。
図書館といっても大都市圏にあるような、膨大なアーカイブを保存している図書館ではなく、田舎の公民館の一室にある小さな「図書室」である。
図書室に入ると掲示物の更新がされていたり、週刊誌も新しいものへと変わっていた。小さいながらもしっかりと運営されているのが見てとれた。
 
私は読書をする習慣を持たない人間であるが、興味のある事についてはしばしば調べ物をしたり、或いは好きな漫画を読んだりする。(冨樫先生はいつハンター×ハンターを描くのか。バガボンドの最新巻はいつでるのか…)
たまには興味の範囲外のものを読んでみようと、面白そうな本を探していた。
壁には貸し出しランキングが貼られていたが、SF作家の百田尚樹には興味ないし、他の本のタイトルもイマイチ頭に入って来なかった。
ふと、本棚に目をやると「猫」がこちらを見ていた。
 
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世界からネコが消えたなら

という「もしもシリーズ」的なタイトルに興味を持った。作者は川村元気
 
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(SWITCH 2013.12月号の一コマより)
 
スタジオジブリの『かぐや姫』の人だ」
名前に覚えがあるのだし、面白そうだからこの本を借りることにした。
 

文体がちゃらくてメタファーが多い。

家に帰って、さっそく読んでみようとページをめくると目次には「曜日」が書かれており、どうやらこの作品は1週間で構成されていることがわかった。
そして前書きには主人公が読者に向けて書いた「遺書」が書かれている。
 
『ほほう、つまり主人公の最期の1週間ってわけか。おら、そんなにワクワクしないぞ』
 
この時点では選ぶ本を間違えたと思っていたが、一度手に取ったものは食べないといけないのがバイキングのルールです。(知識のバイキングを図書館と呼ぶのだょ)
読みますよ。
 

月曜日に悪魔が来た

冒頭から主人公は医師からガンの宣告を受ける。
ここで印象的なのが『こんなとき人は意外なほどおちついているものだ』という一文。
あとで分かりますが、実はこの主人公は泣き虫です。
深読みすることも可能だが意図して書いた一文なのだろうか?なんて考えてシマウマ。
 
気になったのが、タメ口(話し言葉)で綴られている文が多くて、ちょっとウザいなぁと…笑
それでも読み進めていくと、だんだん肩を組めるようになっていく感じです。
死をテーマに扱うわけだから、固苦しくすればするほど読み手の体力も奪いますから、これぐらいのほうがいいのかなぁと、今になって思いました。
 
映画に「運命のボタン」ってあったのご存知ですか?
ボタンを押すとお金をもらえる代わりに人が死ぬ映画です。
この作品の主人公はガンで死ぬ運命にありますが、目の前に現れた自分と瓜二つの悪魔と契約して、1日延命する代わりに悪魔が言ったモノが地球上から消えるという選択をして物語がスクロールしていきます。
全体の構造が分かったほうが読みやすいですよね。だから私でも読めたのでしょう。
 
このパートでは「きのこの山」と「たけのこの里」が実名で出てくるんですけど、こういう小説を読んだことが無いので「むむむ?」って…
他のパートでは映画の名前と名ゼリフがたくさん出てきました。
例えば、シェイクスピアの戯曲の一節だったり、聖書の言葉を使う作品はザラにありますから、「むむむ?」って川平慈英っぽいリアクションをしている私のほうがむしろ少数派なのでしょうね。
暗喩しない感じがなんか嫌っす←
 

火曜日に恋人に会いに行く

 
月曜日の悪魔は消すものを電話に決定。
主人公は電話が消される前に、昔に付き合っていた彼女の元を訪れることにしました。
映画好きという共通の趣味を持っていて、キャッハウフフで海外旅行。
そこで知り合った男が死亡。
からの〜自然消滅(主人公は彼女の好きなものをほとんど覚えていない)。
で、現在に至ります。
 
主人公は猫を飼っているのですが、後にこの猫が悪魔の魔法で喋るようになります。
その際に主人公の母親のことを猫に尋ねるのですが、猫は主人公の母親の記憶を持っていません。
どんなにアルバムの写真を見せても思い出しませんでした。
飼い主に似てしまったんですね。
さらば電話。
 

水曜日に映画が消える

 
彼女との共通点だった映画が消えることになります。
もともと、主人公は映画が好きだったわけではなく、親友の蔦屋の影響で映画オタクになりました。
関係ない話ですが、このパートを読んでる時に千葉パルコが閉店するのが頭に浮かびました。
駅から少し遠いので仕方ないのかもしれませんが、面白い雑貨なんかもあったりして、閉店するのは残念です。
これも全て主人公のせいですね。
 
 

木曜日に時計が消える

次に悪魔が消したのは時計。
世界から時間の概念が消え去ります。
ここで先ほど書いたように、飼い猫が喋るのです。
主人公は猫の気持ちを分かっているようでいて、本当はチグハグな会話を日常茶飯事にしていたことが分かります。
主に描かれているのは、人間が定めた基準で規則正しく生きていたとしても、その基準そのものが間違っていると、私たちは規則正しくチグハグに生きているのだというニュアンス。
主人公の父親は時計屋を営んでおり、小さい頃は仲のいい3人家族(猫います)でしたが、母親の死を境に疎遠になっていきました。
主人公は父親が母親を大切にしていないと思い込んでいたのですが、物語の後半で父親は妻のことを愛していたことが分かります。
そう!この主人公は自己中で視野が狭いマザコンなのです!
 
さらば時計よ。
 

金曜日 世界から猫が消えたなら

エンディングに向けて物語はスクロールしていきます。
とうとう悪魔は主人公の飼い猫を消そうと言い出しました。
それをキッカケに昔の思い出を回想するパートになります。
 
私はここで少し泣きそうになりました。
猫が主人公の命と引き換えに自分を消してくれというシーンがあって…
「なんていい猫なんだ!」と笑
ただ、これってネットでよく見かける
「ここはオレにまかせて早くいけっ!」と大して変わらないんですよね。
 
このままだと笑い話になってしまいますから、そうだなぁ…どのくらいの感動かといえば「クレヨンしんちゃん ブタのヒヅメ大作戦」と同じぐらいの感動ですね。感覚的なものですが、多分この例えは合ってます。
 

土曜日 自分のいない世界

 
主人公は猫を「消さない」ことを決めました。
当初は自分の命の為になら、無駄なものなら消しても構わないというスタンスでしたが、「死」ということがどのようなモノなのかを考えていくうちにこの結論に辿り着きました。
もう一度、ここで物語を振り返ってみると、悪魔と契約した主人公は悪魔と大差のない残酷を行っていました。
自分にとって大切な猫は消しましたが、元カノと親友が大好きな映画は消しましたし、父親の好きな時計でさえ消したのです。
これについては物語の中であまり触れられていませんが、私には残酷に思えました。
 
話を戻しますが、猫を消さない事を選んだ主人公はいわゆる「終活」をします。
再び彼女の元を訪れると、死の間際に母親が書いた手紙を手渡されます。
そこには「死ぬまでにしたい10のこと」を考えた母親が「あなたにしたい10のこと」を記していました。
ここが物語の「まえがき」とリンクします。
主人公は母親と父親が相思相愛であったことに気づき、同時に、母親が望んでいたことは自分と父親の仲直りだったことにも気づきました。
そして、主人公も手紙を書きます。
郵便局の制服を着て、父親の元へと向かったのでした。
めでたし、めでたし。
 

点数は87点ぐらいかな。

  • 読みやすい
  • 分かりやすい
足りない13点を挙げると、物語は主人公の勘違いで成り立っているから、設定が後から出てくるところ。
てっきり主人公の父親はDV夫だと思っていたのに、感情表現が下手な仕事熱心な時計屋のオヤジでしたから。
和風総本家で特集されるような人格者じゃないですか。
なのに、時計を消しちゃったし…笑
 
それと、主人公が死んだ後に電話と映画と時計は元に戻るのかがよく分からないんですよね。
猫に魔法をかけた際に、悪魔はいつ魔法が戻るのかは神様しだいなんて言ってましたから。
その神様は登場しませんし、主人公の母親の前に悪魔は現れなかったのに、なぜ主人公だけ悪魔と契約できたのか分かりません。
細かいところが気になる人にはオススメしないほうがよさそうです。