モブトエキストラ

左利きのメモ魔が綴る名もなき日常

「土 地球最後のナゾ 100億人を養う土壌を求めて / 著 藤井一至」の感想

買いました

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毎日Yahoo!のトップページを目にするのですが、その中で9月に面白い記事がありました。
世界の「土」はたったの12種類に分類できる | 先端科学・研究開発 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準
東洋経済の記事で地球上の土は12種類に分けられるというものです。私は植物を育てているのでとても興味深く「この本買おっと♪」と思っているうちに季節は流れてどんぶらこっこ…←おいっ!
「土」は地球にしかないって知ってます?土壌学者・藤井一至さん(森林総合研究所)
忘れかけた頃に久米宏さんのラジオに著者の藤井一至さんがご出演されるというサプライズ。
お話がまぁ興味深くて、全ての土に関して説明し終わる前に時間が来てしまいました。ダーウィンが最後に研究していたのが土とミミズって渋いですよね。
私が書店員だったら「フェルマーの最終定理」とか「アインシュタインの最後の宿題」とかあるから「ダーウィン最後の観察っぽい本」みたいな感じでこの本をプッシュアップするでしょう。
では、早速まとまりのない感想を書いていきたいと思います。(書いてるうちにどっか行っちゃうのなんで?)

100億人を養う土壌を求めて

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ページを開くと世界地図と土の絵が総出演。とても分かりやすいマッピングで、いかにロシアの広大な大地がカッチカチなのかがよく分かります。それと「これ最初に見せちゃっていいの?」というネタバレの心配もありますが、刑事コロンボと同じように最初に犯人が分かってるパターンのワクワク感がありますね。

まえがき
この本を執筆するきっかけは、若干の嫉妬と被害妄想にある。巷ではNASAアメリカ航空宇宙局)の作成した火星出現"土"で農業に成功したというニュースが話題になった。もし地球がだめになった時には火星で暮らすことができる。宇宙飛行士という仕事も格好いい。宇宙には夢やロマン、希望があふれている。これに対して、あえて「地球の土も頑張っている」と対抗するのがこの本の目的だ。

まえがきの冒頭で決意に満ちたこの文章がドンッ!と記載されています。NASAの話題についてはこちらをご覧よパトラッシュ。
映画「オデッセイ」が現実に? 国際じゃがいもセンターが火星環境でのじゃがいも栽培の可能性を発表 - ねとらぼ
映画「オデッセイ」はたしかに面白かったですし、ジャガイモしか食べ物がなくても順応するしかないから調味料も重要になってくるあたりがリアルに感じられました。(順調に栽培できてる時に爆発したのウケる)
BUMP OF CHICKEN『宇宙飛行士への手紙』 [ LOW QUALITY SOUND ] - YouTube
音楽を見渡しても宇宙を歌ったものは多いですが、地球の土を歌うものは思いつきません。「手のひらを太陽に」は生命の讃歌であってミミズとオケラが若干かする程度だし、サブちゃんの「与作」は与作の日常だし、もっと言うと林業なのでオケラとミミズより遠い。近いのに遠いという意味では恋人のようなロマンティックさがありますが、虫とオッサンのイチャラブなんて誰得なのでしょうか。(知らん)
さて、話を本に戻しましょう。
「まえがき」では藤井先生の決意と生い立ちなどが書かれていましたが、「目次」はこんな感じです。

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この目次のデザイン良くないですか?
整った感じと文字の間隔が良い。
さっきの文章構造も結果を書いてから理由を書くという順番でしたから、理系の匂いがしますね。(この印象の斜め上を行く展開が待っているのだった…)

P25
学園ドラマにたとえるなら、体育祭や文化祭を通して熱血先生と個性豊かな生徒たちのやる気に温度差が生じ、クラスの団結力にヒビが入る。場合によっては、バラバラになる。学園ドラマでは、再び新たなかたちで団結することもあるが、月ではそのままだ。

岩石の風化による変化を擬人化するのがジワジワきました。さらにーー。

P41
少し難しいので、擬人化して紹介しよう。一人では寂しがり屋なケイ素は、アルミニウムをパートナーとして求める。

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(真面目な話の途中でこんなん笑うって)

ーーと、擬人化が進んで個人的には逆についていけなかったです。普通に化学式を書いてくれた方が…いやでも、イラストが面白かったからいいや。笑

P54
つまり、その他の土と出会うためには、高所恐怖症であることを忘れて飛行機に乗らないといけない。土によっては、近くに町すらない。卓球部と将棋部をハシゴして少年時代をすごしたインドア派には、すべての土を見るために探検家まがいのことをする覚悟まではなかった。大誤算である。自らの選択の末に、世界を渡り歩くことになった。

『バッタを倒しにアフリカへ』の前野ウルド浩太郎さんもそうですが、最近の研究者さんはお話が面白いですね。

リリックも良くて歌も上手くてトークも上手い「さだまさし」みたいな学者さんがたくさんいるのではないでしょうか。

P65
5本乗り継いだ空の旅の末に、最新機器を荷詰めしたスーツケースは紛失し、金象印のスコップだけが無事に手元に届いた。トラブルはしばしば、己が使命に気付かせてくれる。文字通り、裸一貫にスコップ1本。脱サラしてギター1本で勝負しようと決めたミュージシャンの気持ちが分かる瞬間だ。

高所恐怖症でありながらもやっとカナダまで到着すると、大切な機材がロストバゲッジで紛失という事態に…笑
スタートの時点でこの展開ですから、最後どうなるのか全く想像できません。
読み進めていくと、面白パートと専門的な知識との間が丁寧な文章によって繋がっている事が分かります。個人的に目から鱗だったのは、地球温暖化を伝える映像でよく見かける氷河が崩れ落ちているシーンというのは、実は氷河が押し出されて成長しているシーンだという事。キャタピラが回るように、表面が上から下へと移動しながら体積が多くなっているわけですね。
この後また面白パートに突入するのですが、私にとってはとても興味深い一文でした。

P77
カナダの湿地林はビーバーに加えてリスやウサギなど動植物の宝庫だが、蚊の巣窟でもある。
〈中略〉
インドア派に足りないアウトドアの経験と知識は、探検家・植村直己の冒険録で補ってみたが、冒険録にはホッキョクグマと戦う術は書いてあっても、メガネの裏に蚊が入り込む問題への対処は載っていなかった。

「旅をする木 /著 星野道夫」の感想 - モブトエキストラ
星野道夫さんの本に続いて、再び大泉洋さんがユーコン川編で用を足しに行った時に尻を大量の蚊に襲われて森から「あぁぁぁーーー!!」と悲鳴をあげるシーンを思い出してしまいました。現地の人からすると、あるあるネタになっているのでしょうか。昆虫というのは「数」という武器がありますから、集団で吸血されてしまったらひとたまりもありません。地質の調査も一苦労ですね。
それとまた本題と関係ない話で申し訳ないんですが、「モンスターハンター」というゲームがあって、この中で湿地帯に棲むミミズのバケモノみたいなヤツを狩猟するクエストがあるんです。コイツは洞窟の中で活動してるのですが、洞窟の中にランゴスタという蚊がウジャウジャ居るんですね。

%E3%83%A2%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC/%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B4%E3%82%B9%E3%82%BF の編集 - モンスターハンター大辞典 Wiki*

ゲームを遊んでいた時は「カプコンの嫌がらせかよ」と思っていたのですが、この本を読むと忠実に再現していたんじゃないかと感心してしまいました。(ちなみに最新作の「モンスターハンター:ワールド」では生態系そのものが作り出されており、ハリウッドでは映画化も決定してる。ついでにミラジョボビッチのインスタのリンクを貼っておこう)

Milla Jovovich (@millajovovich) • Instagram photos and videos

さて、内容を戻しますが、藤井先生はカナダで「永久凍土」と「泥炭土」を掘ったあと、世界で最も風化した「未熟土」があるタイを訪れ、そしてエストニアで「ポドゾル」を掘ります。
私は以前に『キノコの教え /著 小川眞』という本を読んだことがあって、その中で菌類が植物の根に付いて岩石を分解しているというのを知ったのですが「ポドゾル」という地層はまさにその生成物だというのです。

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(ついでにこれマイクラのポドゾルね)

キノコの教えP81にはこんな事が書かれています。

日本でもそうだったが、どの国でもキノコは経済成長の指標である。国にある程度の資本と安い労働力があって、初等教育が普及していると、工業化が進む。安い製品を輸出して外貨を手に入れて事業を拡大し、収益が上がると利益分配率も上がり、所得が多くなる。所得が増えると、まず食べ物の質が上がり、衣類がきれいになり、住まいから電化製品、車へと手が伸びていく。食べ物の質はでんぷん食からたんぱく質や油脂の多い食事に替わり、高所得の階層に肥満した人が増えて成人病が出始める。この社会変化を、レスター・ブラウンは「ジャパン・シンドローム」と名づけているのだが。
すると、健康が気になりだして、野菜や果物を食べるようになり、つぎにキノコに手を出す。

現代社会においては低所得者層(私もナカーマ)が糖分を摂りすぎるという問題があるので、肥満=高所得とは一概に言えないと思いますが、社会の変化が食生活に現れるという点からキノコを見るのは面白いので興味のある方は読んでみて下さい。
話を土へと戻します。
ポドゾルは砂質&酸性なのでマツタケ特化の土壌であって、農業には適さないというのです。だから酸性土壌に強いブルーベリーやジャガイモを育てる農家か、針葉樹林を切り倒す与作生活の二者択一を迫られるのだそうです。
人間誰しも生まれる場所を選ぶ事はできません。だから選択肢を増やすために工場という隔離された環境を作って、野菜やらGM作物or生物を作ろうとするのでしょう。そういえばカナダは遺伝子組み換え大国なんですよね。読んでるうちに頭の中にある知識が繋がって面白くなってきました。

P100
プレーリー地帯では、あちこちにプレーリードッグやジリスの巣がある。ひょいと顔を出すジリスかわいいなと観察していたら、周りはジリスだらけだった。私のランチを狙ってきたのだ。バナナを死守したものの、リンゴとサンドイッチを奪われた。今頃フンとなってチェルノーゼムの肥やしとなっていることだろう。

100ページにサンドイッチを狙ってるジリスの写真が載っていて、そのジリスの若干笑ってるような表情が面白い。
しかも1匹300グラムのジリスが一年間に運ぶ土の量は1トンから4トンだというのだから驚きです。他にはフンコロガシによる分解も紹介されていて、土というものは気象や生物活動によって生み出される複合的な生成物である事が分かります。
12種類の土壌の紹介が終わると、今度は「どうすれば100億人を養う事ができるのか?」という研究のテーマに迫っていきます。国連の食糧農業機関(FAO)にデータを共有して土壌の世界地図を作ったり、痩せた土地でも大量のリン酸肥料と石灰肥料を撒いて農業に成功したブラジルの事例などの紹介もあって面白い。
そして、最後に日本の土壌のポテンシャルの高さについて触れて結びとなります。

人口と土壌のバランスが取れていない現実があるので結果として明確に「コレだ!」という答えはありませんでしたが、総合的に面白かったです。(強風化赤黄色土、若手土壌、粘土集積土壌の期待値は高く、泥炭土とポドゾルは使い方によっては可能性があるそうだ)

「土」という地味な存在をユニークな先生が紹介しているという対比も面白いですし、化学サイエンス、植物学、動物学、気象学、文化人類学とありとあらゆる学問に広がっていく感じに奥深さを感じました。だからより多くの本を読んだ人ほどこの本は面白く感じられると思います。ただ、面白パートで五輪真弓が出てくるのですが、私は世代が違うのでボキャブラリーが無くて付いていけませんでした。ぜひ、五輪真弓ファンの方に読んで欲しいですね。

(おわり)

土 地球最後のナゾ 100億人を養う土壌を求めて (光文社新書)

土 地球最後のナゾ 100億人を養う土壌を求めて (光文社新書)