モブトエキストラ

左利きのメモ魔が綴る名もなき日常

第四弾「危険な読書」の感想

危険な読書2020 — BRUTUS (ブルータス) — ポップカルチャーの総合誌 — マガジンハウス

世の中には2種類の本しかない。読むに足らない本か、読んでもロクなことにならない本。今号は、シリーズ4冊目となる「危険な読書2020」。いま最も危険な作家・阿部和重インタビューから、古くて新しい読書法“マルジナリア”案内、非英語圏で紡がれた文学作品、驚愕の自家装幀本に、ブックインブック「危険なマンガ」……。人生変えちゃうかもしれないあの一冊、に出会うための指南書です。

早いもので、今年もまたブルータスの「危険な読書」特集号が発売されました。

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第一弾は白、第二弾は黒、第三弾は赤と表紙が毎回一色に染まっていたので、書店に並べられていると異彩を放っていました。また、これまでのシリーズの総集編となる特別号(黄色)も発売されたので、第四弾は「青なんじゃないか?」と予想していたのですが、これまでの流れは踏襲されないポップなデザインでした。

中身については、マルジナリアという本の余白に書き込んでいく読書スタイルだったり、背表紙の歴史、自費出版であるZINEは限られた予算の中で製作しないといけないからデザインが面白いとか、本の内容だけでなくハード面の特集は楽しかったです。読んでいるうちに、以前YouTubeで見た本の修理の動画を思い出しました。
https://m.youtube.com/watch?v=iSjI-BjrGLo
あとは「新世代SFの現在地」で、日本には短編小説を発表するための場がほとんどないとか、海外の女性作家や社会的な問題を扱った作品の翻訳本が少ないという意見が書かれているのは確かにそうだよなぁと思いました。(折りたたみ北京、三体、テッドチャンの息吹が少し紹介されてた)
「消費税」や「表現の不自由展・その後」を特集してるのは有意義だと思いますし、とくに表現の自由に関しては全員に関係する事ですから、そういうテーマを扱った書籍を知れるのは良い。

ただ、全体的な感想としては物足りませんでした。これは私が悪いのでしょうけど、存じ上げない方が多くてほとんど楽しめなかったんです。(坂口恭平さんとか、辻田真佐憲さんぐらいしか)
私みたいな初心者からすると、読書好きな著名人が選ぶ危険な作品という形じゃないと取っ掛かりがなくて見にくいです。
宇多田ヒカルが選ぶ!」とか、「菊地成孔が選ぶ!」とか、「ヨシタケシンスケが選ぶ!」とか「羽海野チカが選ぶ!」とかドーン!と企画に太い柱があったら100%買いますよね。知ってる人だからといって、必ずしも作品の良さが伝わるわけではありませんが、紹介者の魅力と作品の魅力の相乗効果があるので普段ブルータスを買わない人でも読んでみたいと思える。でも、知らない人がPRする場合は作品の魅力を100%伝えられるかどうかが鍵になってきます。(いわゆるプレゼン能力)でも、写真の下に掲載されてる本の紹介文は短いし、紹介者の読んだ感想だけを言われても、作品の世界観が分からないと読者は置いてけぼりです。
『危険な読書』という企画の面白さは、今や手に入らない幻書の内容を知っている証言者の話とか、発売禁止になるような内容の毒素を薬に変えられる読解力だったり、ワクワクさせてくれる対談が目玉だと思います。今回はそこらへんの満足度も低くて、私はワクワクしませんでした。

企画の他の部分で言うと、「詩人と暮らし」にある菅原敏さんの詩がカッコよかったです。

「危険な読書」
溺れる人が出ないよう
図書館の監視員は
目を光らせているのだが
避難する人は後を絶たず
僕らはみんな
浮き輪をしながら本を開くべきだった
あのページは潮の流れが早く
危険だと何度も言ったのに
無謀にも飛び込んでしまった人
ときおり彼らを
行間に見つけることがあって
遠くの朝焼け
流れ着いた椰子の実
時間の砂つぶ
ページをめくるたび
僕らは果たして
何を手に入れているのか
分からぬまま
黒いインクの波しぶきを浴びながら

カッコいい! この詩こそトップページに持ってくるべき完成度だと感じます。

おわりに

『危険な読書』のブルータスは確実に買おうと考えてきましたが、もしこのまま濃度が下がり続けるなら、黄色版と同じように特別号を買うという選択になりそうです。(特別号が出るか分からないけど)

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その一方で、いいちこの広告は相変わらず良い味を出してます。商品を中心にするのではなく、商品が欲しくなるように作ってるデザインですね。

本編もこれに負けず頑張って欲しいなぁ。