腹痛と不屈の男、星野源
私が一番最初に星野源を見たのは2009年。糸井重里さんが運営している「ほぼ日刊イトイ新聞」の中で特集された腹の弱い男たちの記事だった。
今でも読めるのでリンクを貼っておきます。
この時点では在日ファンクのハマケンの存在も星野源の存在も知りませんでした。
ラジオ中毒の私がその存在を確かにしたものは「くだらないの中に」です。
ラジオから流れてきた深海魚みたいな「のぺーっとした声」は耳につきましたし、「首筋の匂いがパンのようってどういうことだよ」と想像させられました。
名前を聞いて「あのお腹痛い人ってこんな声してんのか!」と符合したわけです。
その後、始まったラジオ番組を聞いてみると「つまらないほど下ネタが好きな人間」だと言うことが分かり、さほど面白くもなかったのもあって毎回聞くことはありませんでした。
しばらくして、くも膜下出血でラジオに出ることができなくなり、帰ってきたかと思ったら再入院。この時ばかりは番組スタッフが醸し出す『死臭』がマイクを通じて漏れてきていました。←毎週聞いてるじゃねーか!
そんな時でさえ星野源という男は病室の中で作曲をしていた。
それが「地獄でなぜ悪い」と「知らない」
ストレッチャーに乗せられて手術室に向かう時、剃毛してくれた看護婦に「ファンです」と言われたり、全く動くことが許されない絶対安静の状態で、絶望を笑い飛ばせる「くだらなさ」を練り上げて形にする姿勢に胸を打たれました。
今でも分からないのは星野源の友人でもあるサカナクションの山口一郎さんがラジオの助っ人で来た回で、井上陽水の「傘がない」がかかったこと。
深夜のラジオだったため、とんでもなくテンションが下がったと同時に、リスナーとして「なぜスタッフは縁起でもない曲をかけたのだろうか?」と疑問に思いました。笑
そんなこんなで退院した後、ソッコーでラジオも終わりました。
少しして内村光良さんのコント番組に出てるのを見かけました。
今は新垣結衣と踊ってるのが話題ですね。
✳︎新垣結衣は意味の分からない歌手活動をしていたし、演技も上手くないのにちやほやされまくってるので、ポピュリストによる典型的な過大評価だと思います。
関連して「赤い糸」を歌っていたコブクロの小渕さんの不倫疑惑は驚きましたね。
裏タイトルは「く」をつけて…
単行本として発売されたのは2009年。
文庫本として発売されたのは2013年。
書店で目にして買った現在は2016年。
ちょうどイトイ新聞で知った頃に書かれたものだということが分かります。
オレンジ色の帯にはこう書かれていました。
初めてのエッセイ集です。
トイレか旅のお供にどうぞ。
最近、小説ばかりを読んでいた私は他ジャンルの本を探していたところで、偶然この本に出会いまんまと買ってしまったわけなのです。冒険やでぇ。
読み始めると止まらなくて、漫画を読むようなペースで読んでしまいました。
そこには今までの生い立ちと、今をどう生きていて、弱点を晒すことを仕事にしつつ、弱いからといって諦めることはせずに芝居も音楽も執筆もするけど腹痛が止まらない男の話が書かれていました。
もちろん「ユーモア」だけではなくて、自らのイジメ体験だったり、学校へ行く度に青ざめて帰ってくる息子を思いやる母親(ようこちゃん)の愛情、仕事をしながら孫の面倒を見るお爺ちゃん、そのお爺ちゃんの別れを通じて養われた死生観、湾岸戦争と911、ナポリタンに入ってるピーマンを無自覚に飛ばしながら「残念な人」「ダメ人間」「子どもなんですよ」「馬鹿なんですよ」と叱咤激励罵詈雑言を吐いてくる仕事仲間のKさんについて書かれています。
中でも印象に残っているのは、134ページ『舞台はつづく』
とある俳優に「今までで一番忙しかった日」について聞いたところ衝撃的な回答が帰ってきたのだったーー
- お世話になってるスタッフが嫁を残して死去した。「とある俳優」には嫁と子どもがいて、痛いほどその悲しみが分かった。その日は葬式だった。
- 予定より早く会場に着いてしまったので喪服のままカレー屋に入った。先ほど朝ご飯を食べたばかりなのにーー 時計を見たら予定時刻を過ぎている。夜は舞台の仕事があって大きな荷物を持ったまま会場へと走った。横腹が痛み、着いたのは予定時刻の15分後。
- 周囲にいた俳優は登山帰りかと思われるその男に目をやった。汗だくの男はリュックの中にあるはずのタオルが見つからないので、スポーツ新聞で汗を拭っていた。葬儀が始まると男の涙腺は崩壊し号泣。
- 男は葬儀が終わった後に差し出された寿司を食べていた。葬儀の席で汗だくでカレー臭くて寿司を食うデブを見た演出家は「申し訳ないけど、もう死んじゃえばいいのに」と思ったという。
- 夜の舞台までは時間があった。気づくと男は渋谷にある行きつけの風俗店でアロマオイルを使った性感マッサージを受けていた。カレーと酢飯臭い喪服の男はそこで一時間半過ごした。
- それでもまだ一時間も時間があった。男は劇場近くの店でチャーシュー麺を食べていて、店を出る頃には腹が異常なほど膨れていた。
- いよいよ舞台の本番が始まった。半分を過ぎる頃、男は異変に気付く。腹が痛いーー。小さな腹痛はだんだんと強烈な痛みへと姿を変える。彼は持ち前のプロ根性で約三時間の公演を乗り切った。
- 幕が降りるや否や尋常ではない痛みに耐えかねた彼は歩行不能に陥った。慌てたスタッフが救急車を呼び、彼は救急病院へと運ばれた。
- 医師はレントゲンを見ながらこう言った。「あばら骨が折れてます」 大量の食物に圧迫されたまま急に動いたため、内臓に圧迫される形で骨にヒビが入ったらしい。その日、男は病院のベッドで夜を明かした。
- ある俳優は世界一忙しい日の物語を語り終えると感慨深げにこう呟いた。「…あの日は忙しかったねえ」
笑わずにいられますか?
こんな俳優がいるだなんて、私には俄かに信じられません。笑
だって、知り合いのスタッフが亡くなって悲しいはずの人間が葬式の直前にカレーを食べるだなんて非現実的じゃないですか。その後は性感マッサージに行ってあばら骨が弾け飛ぶって滅茶苦茶ですし。
こんな『煩悩の塊魂』みたいな人がいるだなんて恐ろしい環境ですね。
「ひとりはつづく」 のパートでは「一人でいること」の自由と孤独と「一つになること」の多様性のない力強さを比較しているのが興味深かった。
それを戦争に当てはめて、自分は冷静なまま一人でいられるだろうかと自問自答している。(NY在住の音楽家というのは、おそらく坂本龍一さんのことだと思います)
巻末にはシティボーイズのきたろうさんとの対談も載っていて、この世界を面白く見るコツが話されています。
裏タイトルは「く…そして生活は続く」
マイケルジャクソンに憧れて踊り始めたイエローダンサーは最後まで下ネタだった。
彼ならきっとやってくれる。
そんな星野源に対する期待値はどこから来るのでしょう。私は知らない。