モブトエキストラ

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「働く男(文庫版)/著 星野源」の感想

とうとう買ってしまった

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『ハンター✖️ハンター』の新刊と『旅をする木』と一緒に買ったのがこの本でございます。
絶対に面白いと思って、あえて買わずにいました。だって『そして生活はつづく』があれほど面白かったのですから、つまらないワケがないじゃないですか。
「そして生活は続く/ 著 星野源」の感想 - モブトエキストラ
いわば今回はショートケーキのイチゴを食べるようなものなのです。
さて、『働く男』と聞いてまず頭に浮かぶのは何でしょう?
そうですユニコーン
いつも僕は一人きり〜♬
風呂に入って寝るだけぇ〜♬
ーーの『働く男』
恐らくタイトルはここから来ていて、仕事と生活と孤独について書かれているのであろうと私は推測しました。

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表紙を見ると手に持つ文庫本にタイトルがありません。
「なっ、なんだコレは! 何を問いかけているんだ!」
謎の文庫本を手に持ち、第1ボタンまで留め、爽やかで息苦しそうな表紙です。

1ページめくると、2013年の単行本版『働く男』の写真が載っています。

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メガネもかけておらず、タキシードでビシッとキメていますね。

『はじめに』ではこう書かれています。

働きつづけることが自分のアイデンティティだった。働いていないと不安になり、仕事場で出会う人とのコミュニケーションでしか相手に興味がわかず、仕事での達成感のみが生きる希望だった。何をするにも仕事のことを考え、アイデアが思いつくと機嫌が良くなり、難航しているときは常にイライラしていた。少なくとも、今回文庫化されたこの本の書籍版を執筆していた頃、そして校了日までは。
入院後、倒れた。
入院してから発表された『働く男』の初版の帯にはこう書かれている。

どれだけ忙しくても、働いていたい。
ハードすぎて過労死しようが、僕には関係ありません。
〈中略〉
この本は、文筆家、音楽家、俳優である星野源の2012年末までの仕事をできるだけ詰め込み、各仕事への自分の想いを書き記したものです。文庫化に際し2013年以降から現在のことも少しだけ加筆してあります。
それでは、またあとがきで会いましょう。
星野源

『はじめに』という導入パートにしては、とてもヘビーな文章です。
私の認識だと、文庫本というのはある程度売れた単行本がもっと多くの読者に届くようにと姿を変えた状態だと思うのですが、この本に関しては別の意味を持っているというのが分かります。
単行本版で「過労死しようが関係ない」と言っていた『働く男』はくも膜下出血に襲われ、今回の文庫版では『働きたくない男』として生まれ変わっているのです。つまり未来の自分が過去の自分に語りかけるような構成になっている。
もし、2012年に『働く男』が死んでしまっていたら、2013年の再入院でお医者さんがハサミやお好み焼きのヘラみたいな器具を頭の中に忘れてしまったまま縫合していたら、『恋』も『アイデア』も誕生しなかったことでしょう。(『医療ミス』とユニコーンの『大迷惑』をかけてボケてみたんだぜ?)

星野源 - アイデア【Music Video】/ Gen Hoshino - IDEA - YouTube

『アイデア』の中のお葬式は、もしかしたら『働く男』に対して行われたのかもしれませんね。ちなみにスーパースケベタイム師匠にこのダンスを助言したのがビッグ門左衛門さんだったりします。

ここまでが6ページまでの感想です。
「えっ⁈ まだろっ、6ページ⁈」
そーなんです。6ページなんです。
ここからは面白いと思ったところを紹介したいと思います。

謎のメジェド

まず16ページのオバQみたいなメジェド神みたいな絵をご覧下さい。

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https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%25E3%2583%25A1%25E3%2582%25B8%25E3%2582%25A7%25E3%2583%2589

この死者の書の一場面には、二通りの解釈の仕方がある。ひとつは、ここに描かれた神の名がメジェドで、これがメジェドの姿であるという説。もうひとつが別の神を形容した言葉という説。
あるいは、この文章が一種の呪文であるという説。死者の書は、死者が冥界を通り楽園へ辿り着くための方法が書かれており、これは、悪霊から身を守るための呪文だと考えられる。

死者の書」とはいい響き。これを読んで文庫版の解釈は正しいのかもと思いました。(でもWikipediaって誰でも編集できるからなぁ)
20ページからは『ポパイ』に掲載されていた映画コラムがまとめられています。(主に文章は日常と映画感想で構成される)

「つながる」ということ。『ルドandクルシ』

とある女性歌手は、ライブのMCと実況をツイッターでやったそうだ。ということは、客席では携帯電話を片手にみんな下を向いているということか。不思議なつながり方だ。もう、気持ち悪いを通り越して笑えるし、すごいなあとも思う。

これは何でもかんでも繋がろうとするTwitterの鬱陶しさを嘆きつつ、広瀬香美さんをdisりつつ持ち上げるという高等な技術ですね。(殴った後にディープキスをするDV男みたいなものだな)
広瀬香美、所属事務所と和解成立を発表 新会社に移籍合意「より一層音楽活動に邁進」/芸能/デイリースポーツ online
この時点の『働く男』には分からないでしょうが、広瀬香美さんは2018年に事務所と揉めて和解します。SMAPは揉めたまま解散してしまいましたから、広瀬香美さんのコミュニケーション能力の高さを感じて欲しいですね。(新しい地図の3人がAbemaTVでお正月に特番やるそうですよ)

なぜか志村けん。『プレシャス』

なんだこの救いのない話は。
しかもその後なんのフォローもなく番組は終わった。お笑いなのに予告も説明もなくあんなことをするなんて、相当なチャレンジである。実際当時、放送事故かと思うくらい衝撃的だったのだ。

私はドリフ世代でもないし、志村けんさんに特別影響を受けたわけでもないのですが、ボクサーを演じるコント気になって調べてみたところHit
【悲劇】“トラウマになった?”昔なつかしの志村けん「シリアス無言劇」 - NAVER まとめ
当時の志村さんには、笑いとシリアスな表現の二足の草鞋を履くという意識があったそうです。
うろ覚えですが、志村さんがダチョウ倶楽部の上島さんに「非常識を演じるには常識を知りなさい」というアドバイスをしたという話を今思い出しました。(違ったらごめんね)

オタクの前に初めて現れたリアルな希望。『キックアス』

学校なんかより、家の中で両親と話すときが一番楽しいし、深夜、自分の部屋でマンガ読んだりしてる方が楽しい。とにかく、僕は小学生の頃から今でもずっと、「魔法が使えないか」とか「強いヒーローになれたら」とか「空から女の子がゆっくり落ちてこないか」とか夢想して、鏡見て、現実見て、アホか、と落ち込んでいるのだ。

『そして生活はつづく』にも書いてありましたが、星野さんってほんと家族と仲が良いんだなぁと思いました。「幸せになりたい」という欲求に自覚的だから、こうして文字にしているのかもしれません。
だからこそ「幸せになりたい」という曲を歌っていた広瀬香美さんを無意識のうちに意識した説あるんじゃね?と思ったり、思わなかったりしちゃうよね。
ここで一曲、「FamilySong」

星野源 - Family Song【MV & Trailer】/ Gen Hoshino - Family Song - YouTube

アーティストって何?『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』

アーティストって「芸術家」って意味だけど、今の日本の音楽業界に芸術家はいない。それはメジャーでもアンダーグラウンドでも同じで、芸術家やカリスマっぽい雰囲気を押し出したい人はいるし、それにまんまと引っかかる人も多いけれど、(あ、今から悪口言いますね❤︎)そのほとんどがナルシスト止まりのオナニー野郎だ。
〈中略〉
ロンドンのグラフィティ・アーティスト、バンクシーも言ってる。「僕は、世界の貧困を食い止めるためのメッセージは描けなくとも、少なくとも壁に向かって立ち小便してる奴をニコリとさせてやることはできるぜ!」ってね。

冒頭は黒い星野源を楽しむことができ、後半ではバンクシーの映画の感想と格好良さについて書かれています。
たしかに日本で『artist』という横文字に見合うだけの表現力を保っていて、創作活動ができている人を挙げてみろと言われてもパッと頭に浮かびません。
一方でバンクシーは違います。ネットが発達した現代社会でも個人が特定されない隠密スキルと、街の中に突然と完成度の高いグラフィティを描きあげるという職人技を合わせ持っているのです。期間限定のテーマパークを作ったのも記憶に新しいですね。
悪夢のテーマパーク「ディズマランド」が期間限定オープン その全容が明らかに
もともとグラフィティアートはHIPHOPを構成する要素の一つ(社会の叫び)なので、絵画としての価値や社会風刺のメッセージ性とは別の文脈でもファンが多いのでしょう。
美術館に自分の絵を勝手に持ちこんで飾るという事もありましたが、日本のふなっしーも勝手にキャラクターを自称して公園で活動して本物になったので、バンクシーっぽさはありますよね。
梨汁ブシャャャャーー!!!
千利休が足りないのです。
バンクシー代表作、1.5億円で落札直後に自壊 仕掛けシュレッダーで 写真3枚 国際ニュース:AFPBB News
この本を読んでいるタイミングでちょうどバンクシーがネタになっていたので、ついでに私の解釈を書いておこうと思います。
裁断されたのは絵の全体ではなく、『自由を求める少女』の部分です。この子が『自由の女神』や『民衆を導く自由の女神』の幼少期だと解釈すると、現在の社会状況が分かる。
また、オークションで売られていた少女を作者であるバンクシーは公衆の面前で殺したわけですが、結果的に少女は額縁の外に出たのです。ピカソの言葉を用いた破壊と創造はこれに繋がっているのだと思います。

ショートストーリー「急須」

妻が気に入っていた急須が割れてしまい、同じ急須を夫婦で買いに行って帰って家族で団欒するお話です。
こういう日常を描けるのは、こういう日常を経験してないと書けないし、風景というか空間をイメージさせるやり取りが多いので、子どもの頃に聞いていた両親の会話をとてもよく覚えているんだなぁと感じました。
映像を文章にするとどうしても面白くなってしまう事ってありますよね。でも、この作品は星野さんの頭の中にあるイメージの魚拓みたいな感じなので、おそらくは純度の高い再現率を保っているのではないかと思います。

俺を支える55の○○

幼少期から2012年までに影響を受けた55個のいろんなものが挙げられています。横に小さな絵が描かれているのですが、コレがいい味を出しているのです。

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声優の花澤香菜さんや

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魚と音の変態である山口一郎さん

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ライムスターと宇多丸さんのラジオも選ばれています。

ちなみにうぃーけんしゃほーは終了して、現在アフター6ジャンクションという帯番組になりました。最終回にはゲストとしてスーパースケベタイム師匠も出ていましたが「最終回は宇多丸さんが一人で話したほうがいい」というリスナー視点の感想を言っていたのを覚えています。(さっすがー)
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作った曲を振り返ろう!

インディーズ時代を含めた音楽制作の歴史がまとめられています。合わせて『適当に歌ってみよう!』というコーナーもあり、歌える内容となっています。

演じる男

こちらは役者としての主な出演作のまとめと共に本人の一言が書き添えられています。ウォーターボーイズに出ていた事とか探偵学園Qで神木くんに出会ったとかスケジュール帳みたいな感じです。「楽しかった!」という感想が多いのが印象的。

そして、また働く男

園子温さんとハマ・オカモトさんの証言と、文庫版の特別企画として又吉直樹さんとの対談が載っています。
前回はきたろうさんとの対談で『くそして生活はつづく』という下ネタENDで終了しましたが、今回は真面目に肩書きであったり人との付き合い方について語られています。(でも、命懸けでチンコ出した鶴瓶さんはスゴイという話をしていたり笑)
とても読み応えがありました。

あとがき

この本は「ひざの上の映画館」の単行本化を目指してスタートしました。しかしそれだけだと分量が足らず、だったら他の仕事のことも入れて、星野源の仕事のさまざまな側面を一気に見られる盛りだくさんな本にしよう、とこんな形になりました。タイトルは、ユニコーンの名曲「働く男」からの引用です。

あとがきの冒頭を読んで私はこう思いました。
「\(^o^)/やった! ユニコーンルートの推測が合ってたぞ! なんかくれ!」
虚しい謎解きも終わりを迎えました。
あえて買わずにいた本を買って、ついに読み終えてしまったのです。この淋しさは何なんでしょうか。食べ物のように無くなったりするわけじゃないのに、私は本を読み終えると淋しいのです。

おわりに

総評としては「読む」というよりかは「見る」が近くて、ムック本みたいな感じがしました。文章が少なかったので若干物足りなさが残りますが、単行本と文庫版とで意味合いが違う点であったり、『そして生活はつづく』の「生活」とこの本の「仕事」を合わせて星野源という人間の「暮らし」が見えてくる構成になっているので、ファンであるなら読んで損はありません。(仮にファンじゃなくても、全裸に前貼りだけの星野源の写真が見たい方にはオススメですね←「こっち見んな」と言いたくなる感じの写真)
それにしても、星野さんの人並外れた向上心は一体どこから来るのでしょうか。
怒りであったり、人を羨ましがって燃料に変える行為は『天才はあきらめた』が大ヒットしている山里アニサキス亮太さんと一緒ですが、星野さんの場合はそれだけではない気がするのです。
人間は成長が止まってしまうと、いかにその状態を維持するのかを迫られます。本来兼ね備えている才能が真価を発揮する事がなくなって、負のスパイラルに陥るという事もよくある事です。また、人によってはトゲトゲしい性格がマイルドになって、仙人や賢者のようなオーラを纏う人もいたりします。基本的に「向上心」というのは「能動的に変化し続ける心がけ」の事を指す言葉なのでしょうね。
それと、自分に影響を与えたモノや人に対して、影響を受けた分と同じだけ「好きだ!」と言葉にしたり、表現した瞬間の反応こそがアーティストの実体なのであって、他称はできても自称はできないものなのではないかとも思いました。料理を作って「美味しい」と言ってくれた瞬間、歌を唄ったりダンスを踊って拍手をもらった瞬間、絵を描いて「スゴイ」と言われた瞬間、誰もが他人に影響を与えたその瞬間だけアーティストになれるのかもと。どこか腑に落ちなかったアーティストという肩書きの糸口を見つけられたような気がします。
では、大勢の人々が「魔法使いになりてぇ」と言っていた星野さんの『恋』を唄ったり、踊ったあの現象はーー。

働く男 (文春文庫)

働く男 (文春文庫)