モブトエキストラ

左利きのメモ魔が綴る名もなき日常

「ココロインサイド」というアプリの感想

『最後に彼女はそう言った』や『どうして勇者様はそんなに弱いのですか』を生み出してきた謎の秘密結社SYUPRO-DXの最新作『ココロインサイド

物語は主人公が幼馴染の住む町に引越し&転校生としてやってくるところから始まります。
「なんてベタな設定なんだ! どうせ彼女は死んでいるんでしょ?」と思っていたら、まさかの展開で本当に死んでしまうようなストーリー。(昔の思い出を白黒のフィルムで見てる時点で死亡フラグがビンビンよ!)
とは言いつつも、ただの学園モノではなく、物語が小さく収束されることなく、飽きずにプレイできました。とくにRPG特有の「オレのターン!ザシュ!敵のターン!デュクシ!魔法チュドーン!」というあくびが出るようなターン制のシステムではなく、左右に移動するバーを止めるシステムにしてる点は良かったです。


これまでの作風と同様にストーリーの比重に重きを置いた作品です。冒頭で仲間になるトクハル(スキルの蹴りは重要な時ほどミスるマーフィーの定理を発動するドジっ子)がペットの犬を思い出すシーンがあるのですが、絶賛ペットロス中の私には刺さって仕方ありませんでした。ドット絵特有の温かみもあって、「なるほどこういうゲームか」と理解するには十分なエピソードです。
基本的に登場キャラクターは心に何かしらの問題だったり、傷みがある人々で、なんの悩みもないのはアメフト部ぐらい。(バリバリの精神論で遅くまでしごかれて、夜の校舎の中をウロウロしてる)

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雑に作ってるキャラクターが少ないのは好印象で、16×16サイズのキャラに表情を付けて泣かせる演出は素晴らしく、とても丁寧に思いました。学校の屋上から見える遠くの街並みのドット絵も上手いし、骨董屋さんの雑多な雰囲気も好きでした。(どうしてゲームのジャンクショップってわくわくするんでしょうね)

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サブストーリーもありつつ、メインストーリーを忘れないようにナビゲート(風呂に入って確認→ボスに備えてHP強化の流れ)してくれるのも親切設計です。

ストーリーに関してはーー
①幼馴染は孤独な主人公が作り出した幻想だった
②殺人事件の犯人はココロインサイドアプリ制作者だった
③心残りがなくなった霊は転生する
④悪夢と戦う孤独なレム
主にこの4つが主軸です。

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ストーリーの終盤でSYUPRO-DXの方々が出てくるのも良くて、ある人は子煩悩なパパだったり、ある人は人種や性別も超えた感情移入できるピュアな作品を作りたいという想いを語ったり。

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「転生したら〇〇だった」というのは小説家になろう系の流れですが、この点に関してもメタ表現として、小説が読まれずに心を病んだ男子生徒と、小説が成功して別の人格で活動してる女子生徒という対照的な2人が出てくるのは面白かったです。

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ココロインサイドという名前の通りに全編にわたって内向的なストーリーではあるんですが、スーパーの前の着ぐるみや装備アイテムのマネキン、連絡手段のSNSというアイテムを見てると、上辺を重視する空疎な現代社会を映してるようで興味深かったです。(最終盤の電車の中の顔の無い乗客とかね)

私のプレイ内容としては主人公の苗字が「望月」だったので、セーラームーン月野うさぎよろしく、兎が乱打で餅をつくぜ!という意味で兎乱打という名前にしました。読み方は知りません。トレンディ的な?笑

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私はとにかく宝箱を探しまくる堅実なプレイスタイル。取れるものは取っていく。三毛猫の宝箱かわいい。

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ウーマンリブを最大限の理解を示しつつ〆て、独裁者を〆て、順調に一巡目のボスを撃破。
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マナとの別れを経て、二巡目は「ファントムキラー事件」がメイン。

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その真相は『ジキルとハイド』に絡めた多重人格殺人でした。
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ただ、この話に関しては結果的に3人が命を落としているのにレンヤが逮捕されていないという点がモヤモヤしました。心に侵入するアプリによって殺人が行われたという非現実的なモノですから、立件は難しいにせよ、刑事が捜査妨害する意味もよく分かりませんでしたし、壁の中に警察手帳を埋め込むのは奇行と言わざるを得ません。(困惑)

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私はファントムキラー編よりもサブストーリーにあった、「血走りムクロ」のストーリーのほうがエモいし面白いと思いました。

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少年がヒレン姫を守るために修羅と化し、血染めの鎧に呪われてしまう。そのうえ身分制度があって2人は結ばれないという…。こっちのお話のほうが魅力的だと思うし、図書館の本の中にダイブできたらサブストーリー量産できると思いました。

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三巡目のナイトメア編は悪夢に蝕まれた錠ヶ崎市を救う物語。

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ボスが強くてやりごたえはありましたが、基本的にRPGなのでステータス上げしかやる事はありません。

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そしてこのゲームはレベルの概念が無く、お金でステータスを上げるシステムを採用してるので、インサイドシティの外れにあるガチムチトレーナーに100万円を払って15%の確率で攻撃/防御を1ずつ上げるというギャンブルに未来を託すしかないのです。
やってる事がアメフト部と変わらないっていう…笑

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でも、このバーベルパンプアップが効果抜群であんなに手こずっていたラスボス
がハート1.5ダメージ食らうだけで倒せてしまいました。(ちなみにもう一つのステ上げは「チェストプレス」 私はガチャをせずにネコ缶をこっちに回した)

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ナイトメア編のラストは六道レムのマネキンを手に入れてマンションに入り、レムの姉から話を聞いて終了。

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病院のベッドの上で孤独な戦いをしていたレムを描いたエピソードでした。
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治療費を捻出する為にプログラム開発をしたお姉さんと、満足な会話を交わす事ができないままレムは消えてしまいました。ハッピーエンドとはなりませんでしたが、主人公が悪夢を打ち破った事で救われたみたいです。

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全てをやり終えた後、私はメインストーリーのボスをもう一度倒す事にしました。

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ガチムチマッチョのボディと最強マネキンのレムを手に入れたわけですから、トクハルとタエのリア充カップルが居なくても勝てるはずです。

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↑これは最初に仲間を連れてクリアした時の画面です。主人公を哀れむ視線が痛いですね。

最強の孤独を引っさげてボスと再戦したところ、秒で倒す事ができました。

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さすがSYUPRO-DXさん。主人公1人バージョンのクリア画面も用意してありました。(2人きりと見せかけてマナは消えてしまうのですが…)

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その後に関しては変わりはなく、転生したマナが登場して微笑みEND。

ええ話じゃった。

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BGMが充実している点も忘れてはいけません。

レコードは全部で59曲あります。スーパーでインストと歌ありの2パターン用意されていたり、世界ごとにBGMを変えたりとスマホゲームでありながら熱の入れようがハンパない!

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「夜の錠ヶ崎市」は明らかにイーグルスデスペラードをサンプリングしてます。デスペラード「ならず者」という意味ですから、夜に犯罪が発生するというストーリーとかかっているのが分かります。

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個人的には「He is 8bit」がお気に入り。音の輪郭が角ばったピコピコ音がバトルミュージックにぴったりです。

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あと「MOON CAT SONG」はズルい。猫の洗脳ソングです。(聴けばわかるょ)

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地下水道のスタッフルームに居たイルマガワさんという方が担当したのでしょう。

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この方、最終的にベッド横に降臨して歌い始めるという…笑

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その他にはSYUPRO作品のポスターを張り替えられたり、SYUPRO作品の登場キャラのマネキンが手に入ったりお腹いっぱいです。

おわりに

容量を気にせずにゲームを作るようになっている昨今、ドット絵の良さが忘れ去られているように思います。とても綺麗なビジュアルのゲームに対して、バトルシーンの迫力で勝つ事は不可能でしょう。しかし、ストーリーが良ければ心に残る名作になる事はトビー・フォックスの『UNDERTALE』が証明しています。
今回の『ココロインサイド』もドットの表現や作り方が丁寧(月を背景に崖からジャンプする瞬間にスローモーションにするとかね)でした。トビー・フォックスが個人開発者だったようにSYUPRO-DXさんもインディーズ。新しい価値観が出てきた時に、全てがそちらの潮流に乗ってしまうのではなく「それも良いけど、これも良いよね」と問いかけてくれる存在は貴重だと思います。
「何でもかんでもサバイバルにしやがって!フォールガイズもマリオ35も面白いじゃないか!」
というのがファストフードだとしたら、こちらはスローフードです。

ゆっくりよく噛んで、作者の込めた想いを堪能しようではありませんか。
(おわり)